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この手を握って下さいませ
皇帝陛下、義理の息子に釘を刺す
しおりを挟む「セリア。シオンと二人きりで話がある。悪いが場を外せ」
お父様の視線が、シオン様の太ももの上に座っている私を射抜きます。真っ直ぐ視線が合わさります。
どうやら、本当にシオン様に用事があるようですわね。只の嫌がらせで来たわけじゃありませんね。仕方ありませんわ。
「分かりました。でも、その前に」
固まっているままのシオン様に軽くキスをしてから下りました。
キスした瞬間、背後からブチッと何かが切れる音がしましたが、当然無視ですわ。無視。久し振りの恋人(仮)の逢瀬を邪魔したのですから、それぐらいは我慢して下さいませ。
「今日はこれで帰ります。今度は陽が暮れてから伺いますね。シオン様」
同じ同衾でも、昼と夜は大きいですわ。出来れば夜に。そう考えていましたのに、反対されましたわ。
「「それは駄目だ」」
お父様とシオン様に。本当に、お父様とシオン様は仲がいいんだから。ちょっと羨ましいですわ。
「なら、いつからならいいのですか? お父様」
ずっとは嫌ですわ。
「正式に婚約を交わし、成人してからだ」
「ということは、認めて下さるのですか!? 私たちの婚約を!!」
嬉しいですわ!!
「嫌、まだ、正式に返事を受けていないからな。こいつからの」
お父様の台詞にシュンとしてしまいます。
……そうですわね。婚約も結婚も一人でするものではありませんもの。
それに……待つって、この前、シオン様と約束しましたし、ここで焦るのは止めましょう。
「分かりましたわ。来るのは、陽が出てからにします。では、私は戻りますが、くれぐれもシオン様を苛めないで下さいね、お父様」
「ああ。分かってる。殺しはしない」
お父様らしい言い方ですね。
「では、帰りますね」
私は転移魔法で学園に戻りました。
「…………もっと、踏ん張れねーのかよ」
セリアが帰った途端、俺は砕けた口調でシオンに食ってかかる。
「踏ん張れるわけないだろ? あんなに一途に好意を向けられて、『人格が破壊されても構わない』とまで言ってくれた人間を、愛さないなんてあり得るか!?」
逆ギレか? まぁ、難しいよな。ましてや、俺の可愛い娘だ。一途で魅力的で賢くて……言い出したらきりがない。
「で、どうするんだ?」
「成人になって、学園を卒業しても、まだセリアが俺のことを想ってくれるのなら、求婚しようと考えている」
妥当だな。こいつなりに、年齢を気にしているようだな。まぁ、気持ちは分からなくもない。俺は逆だったが。
「それじゃ遅過ぎる。成人までに、せめて婚約をしろ」
「…………何故だ?」
俺の台詞に、シオンは怪訝そうに尋ねてきた。
「この前、グリフィードの貴族を捕縛するために、セリアが行っただろ? グリフィードの王宮に」
「ああ」
「その時に見たらしい。国王と王妃の【死相】を」
セリアは母親のスキルの一つを引き継いでいる。死が近い人間だけ、その人が灰色に見えるらしい。そのスキルのせいで、幼い時からセリアが苦しんでいるのを知っていた。当然、シオンもセリアのスキルのことは知っている。
「グリフィードを取り込むつもりか?」
筋肉馬鹿たが頭は切れる。余計な説明はしなくてすむのは、ほんと助かるな。
「ああ。そしてそこを、セリアに任せようと考えている。でだ、お前に補佐を頼みたいんだ」
「俺にか?」
途端に、シオンは難しそうな表情を見せる。事の重大性と責任の重さを正確に把握しているからだ。
「コンフォートに敵対心を抱く奴らは、殆ど排除出来た。まぁ、自滅していったんだけどな。それでも、いざ統治するとなると、何かと風当たりが強い筈だ。そんなセリアを影から支えて欲しい。頼む」
俺はシオンに頭を下げた。親として。
「…………分かった」
返ってきたのは了承の言葉。
「助かる」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、俺が、婚約を渋るとは思わなかったのか?」
シオンが阿呆な質問をしてきた。
「だったら、結婚を認める訳ねーだろうが。こんなことぐらいで躊躇するぐらいの奴なら、徹底的に反対してやる。愛娘に嫌われてもな」
俺の言葉にショックを受けてるようだが、俺はおかしなことは言ってねーからな。
「あっ、そうだ。シオン。俺のことを絶対にお義父様とは呼ぶなよ。……それと、いくらセリアが魅力的で迫ってきても、絶対最後までするなよ。もししたら、お前の大事な息子が一定期間使えなくなるようにしてやる。正常の機能のままでな。意味分かるよな」
帰る間際そう釘を刺すと、シオンの返事を待たずに王宮に戻った。
残されたシオンは、真っ青になったとかならなかったとか……見た者はいない。
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