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第一章 踏み荒らされ花
いっぱい花を咲かせてやる
しおりを挟む「アーク……アークじゃない。こんな所で何をしてるんです? 学校は?」
その声に、俺はぎこちない動作で後ろを振り返る。
後ろに立っていたのは、背中の中程まで髪を伸ばした、二十代前半の綺麗な女性だった。アイリスだ。
顔色がよほど悪かったんだろう。「大丈夫ですか?」と心配しながら、額に手をやり体温を計った。
「熱はないわね。どうしたの?」
ホッとした様子で尋ねてくる。
「…………」
そう訊かれても、どう答えていいかわからない。だって、ジムもレイも悪くない。自分が勝手にショックを受けて動けなくなっただけだ。弱い自分が悪い。それだけだ。
黙り込んでしまった俺に、アイリスは何も訊かずに誘ってきた。
「教会に戻る途中ですけど、よかったら一緒しませんか? 手伝って欲しいことがあるんです」
その申し出はとても助かった。いまさら学校に行っても完全に遅刻だし、あれこれと皆に訊かれるに決まってる。正直訊かれたくない。それに、学校に行く気分じゃなかった。今はジムもレイの顔を見たくないし。ほんと、弱いな俺……
「……行く」
「助かります」
ポツリと呟くと、アイリスはニッコリと微笑んだ。マリアに次いで、天使の笑顔だよな。ライドが惚れるのも無理もない。
「それで、どうしたの?」
アイリスはマグカップに淹れたホットココアをテーブルに置く。甘くて美味しい。
「ありがとう……」
彼女は村に一つある教会のシスターだ。シスターの格好はしてないけどな。でも、両膝を床に付いて神様によく祈ってる姿を見る。その姿を見ると、やっぱりアイリスはシスターなんだと思う。
そして、俺の素性をライド以外知っている唯一の人間だった。
まぁ知ってて当然なんだけどな。瀕死状態だった俺を治してくれたんだから。普通、経緯を訊くだろ。
アイリスの回復魔法の威力は本当に凄かった。切り落とされた右手を完璧に再生してくれた。全身の怪我も治してくれた。割れた頭の傷も。
「また悪夢を見たの?」
以前アイリスに、悪夢について相談したことがあった。俺は小さく頷く。
「……通学路で、ジムとレイが言ったんだ。俺が王子様みたいだって、迎えにきそうだって……それを聞いたら、怖くなったんだ。すごく怖くなって……」
「動けなくなったのね」
また、小さく頷く。
すると、頭をポンポンと叩かれた。その後ギュッと抱き締められた。
……温かい。
「それは当たり前の反応よ、アーク。怖いのは当たり前。それだけの恐怖と絶望を味わったのだから。いい、アーク。弱いから怖くなるのではありません。怖くなるのは、アーク、貴方が過去から背を向けていないからです。私はとても凄いことだと思います。だから、自分を恥じないで下さい」
アイリスの言葉がスーと俺の中に入ってくる。
「怖くていいの……」
今度はアイリスが微笑みながら頷きます。
「もう一つ、良いことを教えてあげます。いいですか。アークは同じくらい幸せになれます。苦しい分、辛い分、人は幸せになれるのです」
内緒ですよと言いながら。
「本当に?」
「本当ですよ。私が今までアークに嘘を言ったことがありますか?」
「ない」
「でしょう。幸せは身近にあるものですよ。ほら」
笑顔のままアイリスはドアを指差す。すると、勢いよくドアが開いた。息を切らしながら飛び込んで来たのはライドだった。
「アーク、大丈夫か!? 学校から、来てないって連絡を受けて。おいっ!! どうした!?」
ライドの顔を見た途端、俺はライドに駆け寄りその温かい胸に飛び込んでいた。訳が分からないまま、それでもランドは俺をギュッと抱き締めてくれる。少し汗臭いけどな。それは俺を心配してくれた証しだから我慢する。
アイリスの言う通りだ。
俺の幸せは間違いなくここにある。幻なんかじゃない。儚いものなんかじゃない。
この村で確かに根付き生きている。枯れたりするもんか。枯らしたりするものか。
いっぱい花を咲かせてやる!!
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