裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

文字の大きさ
20 / 34
第二章 ラッシュ港攻略

新しい仲間

しおりを挟む

 奴隷商が来るまで、この場に転がしていてもよかったが、芋虫が五月蝿いので、執事と一緒に全員を地下牢に放り込むことにした。俺直々に。

 地下牢へと続く扉を開けた途端、襲ってきたのは人を殺害できるほどの悪臭だった。

 酷いってものじゃない!! 

 汚物と体臭の臭い。それと獣臭と僅かな腐臭。大量の生ゴミ臭。様々な臭いがブレンドされている。相乗効果アリアリだな。口呼吸したら、マジ吐きそう。いや、絶対吐く。

 ジムは地下牢に続く扉に手をかけた瞬間、「俺無理!!」と叫んで、鼻を押さえながら逃亡してしまった。

 さすがに、これは、獣人には耐えれないよな……人族の俺でも逃げ出したい。

 でも、必死で耐える。袖口を鼻と口を覆いながら。慰めにもならないが。

「奴隷商が来るまで、ここがお前らの部屋だ。精々、過去の栄華を惜しむんだな。ああそうだ。これから先、牢屋がお前らの部屋になるんだから、ちょうどいい予行練習になってよかったな」

 わざと嫌味ったらしく言ってやる。ちょっとした嫌がらせだ。

 辛うじて、意識を保ててる元代官と執事は悔しさと憎しみで顔を歪めている。他は気を失っていた。泡は吹いてないから大丈夫だな。それにしても、強い感情は悪臭に勝てるらしい。

 まぁ精々、苦しむんだな。

 心の中で汚く吐き捨てた。その時だった。

 カチャ。

 地下牢の奥から、金属が当たったような音がした気がした。あまりにも小さな音だったから、気のせいかと思ったくらいだ。

 俺は考えるより先に足がそっちに向いていた。奥に行く程臭いが濃くなっていく。さすがの俺も、これ以上は無理だな。踵を返そうとしたら、またカチャっと音がした。今度ははっきりと聞こえる。

 気のせいじゃないな……まるで、呼ばれているようだ。
 
 俺は必死で我慢しながら奥に進む。どうやら、金属音は一番奥の牢屋からのようだ。

「止めろ!! 行くな!!」

 芋虫が鉄格子を掴みながら騒いでいる。

 なにかヤバイものでも隠してるのか?

 無視して、俺は先に進んだ。鉄格子の先には生き物の気配がしない。見えるのは鎖の一部だけだ。するとまた、カチャと音がした。

「誰かいるのか?」

 そう問い掛けても返事はない。俺は剣で鉄格子を斬る。そのまま中に入った。入って気付いた。

「アーク? どうしたんだ?」

 俺と同じ様に口元に布を当てたレイが尋ねる。俺が返事をしないのを不審に思い、牢屋の中に足を踏み入れる。

「………………アーク? なんて酷いことを!! 綺麗な布を用意してくる!!」

 レイの息を飲む音と歯軋りの音が聞こえた。

「いや、いい。このまま連れて行く」

 俺は着ていたローブを脱ぐと床に敷いた。

「少し痛いと思うが、我慢するんだぞ。すぐに終るからな」

 そう声を掛けてから、俺はその子供の体を抱き上げる。同時に、ボトボトと音がした。構わず、俺は子供の体をローブの上に寝かし付けた。

「もう終わったからな……もう痛くないからな」

 俺はその小さな体をローブごと抱き締める。そしてそのまま立ち上がった。

 無言のまま運ぶ。途中、元代官たちの前を通り掛かった時だ。元代官と執事の悲鳴が上がった。そのまま牢屋の奥へと、ズルズルと尻を付けたまま後退る。

 そんな彼らを、俺は一瞥する。心底冷酷な目で。こんなゲスに構っている時間が勿体ない。俺は何も言わず地下牢を後にした。

 地上に出た俺は、子供を外に連れて行った。そのまま地面に下ろす。

 成金趣味の屋敷よりも、外の方がこの子にとって嬉しいだろう。そう思ったからだ。

『……お兄ちゃん。ありがとう。あの木の根元にリアを下ろして』

 耳元でそう囁く声がした。幻聴じゃない。俺の横で浮かぶ女の子がいるからな。俺は言われた通り、大木の根元に子供を寝かした。

『ありがとう。リア、この木が大好きだったんだ』

 寝かした子供の隣に座り、下から大木を見上げる。

「だったら、ここに君のお墓を建てないといけないな」

『お墓はいらない。ここに埋めてくれたらいいや。だって、リア一人お墓があるのはズルいじゃない』

「ここは君の家だったのか?」

 そういえば、ラッシュ港攻略の事前調査で、代官には死んだ妻子がいたって記されてたな。

 まさかっ!?

『うん。そのまさか。あのクズはリアの実の父親だよ。父親だってこれっぽっちも思ってないから安心して』

「……あのクズは君と君の母親を殺したのか?」

『正確に言えば、あのクズとアバズレがだけどね。あの女、元はクズの愛人だったの。お母様と結婚する前から付き合ってたのよ。お母様と結婚したのも、代官の地位と持参金目的だったしね。ほんと、最低な男よね。お金を巻き上げるだけ巻き上げて、用済みになったら事故に見せ掛けて殺す。邪魔になったあたしは、地下牢で餓死。人間としてもあり得ないほどのクズでゲスな奴よ』

 あっけらかんと言ってるけど、言ってる内容はかなり酷い。腹が煮えくり返る。

「…………そうだな。クズでゲスだ」

 リアに掛ける言葉が見付からない。

 見付からないが、あの一家を、特に元代官とその妻は只の奴隷で終わらすつもりはない。最下位の奴隷に貶してやろう。絶対、楽に逝かせてやるものか。

『お兄ちゃんって、ほんと優しいよね。怒ってくれるのも、ばっちいリナの体を抱き締めてくれたのも、お母様以外でお兄ちゃんだけだよ。お兄ちゃんがショックを受ける必要なんてないよ。でも、我儘を言えるのなら……もっと早くお兄ちゃんに会いたかったな。出来れば、生きているうちに。そうすれは、人をここまで恨まずに死ねたのに』

 リアは悲しそうに笑う。

「…………リア……」

『……名前を呼んでくれたのお母様以外で、お兄ちゃんが初めてだよ。すっごく嬉しい。決めた!! リア、お兄ちゃんのお手伝いする。リア役に立つよ。友達を使えば情報収集は簡単に出来るし』

 友達……?

 足元でチュという鳴き声がした。足元を見ると、一匹のドブネズミが俺を見上げていた。

『リアのお友だち。リアの体をあげたの』

 そうニッコリと笑いながら言われて、俺は険しく顔が歪む。

『リア、邪魔?』

 泣きそうな顔でリアは訊いてきた。

 今まで色んな人の険しい表情を見て来たんだろう。そう思うと、俺はリアを抱き締めずにいられなかった。幽霊だから抱き締めることなんて出来ないけど。

「邪魔じゃない。手伝ってくれると助かる」

『ほんと!! ありがとう、お兄ちゃん』

 ボロボロと泣き笑いしながら、リアは俺の首に抱き付いた。冷たいけど、なぜか感触があった。

 カイナ班に新しい仲間が加入した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...