裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

魔法具と太陽【SIDE:国王と貴族】

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 ラッシュ港に派遣されていた騎士が謁見の間に入って来た。

 一歩入ってきただけで、貴族たちは顔を顰める。生臭さと何かが腐ったような悪臭が鼻に付いたからだ。鉄分の生臭さとは違っていた。

「臭い!! それ以上近寄るな!!」

 さすがの国王も悪臭に顔を顰め怒鳴る。

 ……まるでこの臭い、死臭じゃないか!?

 王になる前に、これと似た悪臭を嗅いだことがあったのを国王は思い出す。魔物に殺られ、放置された騎士や兵士の亡骸からしていた。

 何故、死臭を纏っている!?

 不審に想いながらも国王の命に、騎士は少しぐらつきながらも止まる。そして、極悪人アークから渡された書簡と魔法具を取り出した。

 国王は近くにいた貴族の一人に視線を移す。

 不幸にも視線があった貴族の一人が、ハンカチで口と鼻を押さえながら騎士に近付く。騎士は書簡と魔法具が入った筒を彼に手渡した。

 それが騎士の手から放れた途端、貴族は悲鳴を上げ尻餅を付く。

 貴族の足元には、防具を装備した腕が落ちている。いや、正確に言えば、防具が落ちていた。少しの肉片とヘドロのような液体の中で。

 腰を抜かした貴族の耳に、ベチャ、ボタッという、謁見の間に相応しくない音が連続で聞こえてくる。直視したくないのに、視線は目の前の騎士に注がれる。それは間近にいた貴族だけでなく、その場にいた全員もだった。当然、国王もだ。

 全員が言葉を失い立ち尽くしている間も、騎士の体は崩れていく。装備していた防具が派手な音をたて落ちた。その度に、一番近くにいた貴族の衣服、頬をヘドロが汚していく。

 時間としては短いだろう。ほんの数分。

 だけど、その場にいた者たちにとって、それは一時間ぐらい経ったような感じがしていた。

 その場が完全に固まっている中で、一番最初に動き出したのは、やはり国王だった。国王は腰を抜かしている貴族に近付くと、書簡と魔法具が入った筒を奪い取る。貴族は悲鳴を上げ気を失った。その声に固まっていた場が動き出す。

 国王は気を失った貴族と財務大臣の亡骸を外に出すよう命じ。汚れた床を掃除させた。最後に魔法で悪臭を外に押し出す。

 全てが元に戻った中で、国王は玉座に座り息を深く吐き出す。貴族たちは開放されずにその場に控えたままだ。

「…………ラッシュ港で何かが起きたのは間違いないようだな」

 そう呟くと国王は、まず書簡を確認する。書簡には一言、【筒の中に入っている魔法具を起動させろ】と書いてあった。

 国王はムカつきながらも、書簡に書かれていた通りに筒の蓋を取り、魔法具を取り出した。

 魔法具は卵ぐらいの大きさだった。形もそれに似ている。エルヴァン聖王国では見たことがない類の魔法具だった。

「陛下」

 騎士団長が側に寄ろうとしたのを、国王は手で止めた。

 国王が掴みよく見ようと目の前に近付けた時だった。魔法具がブルブルと震えた。驚いた国王は思わず落としてしまった。コロコロと転がる魔法具。魔法具は謁見の間の中央まで転がり止まると、光りだした。

 そして、何もない空間にこの場にいない者たちが浮かび上がらせる。

 その映像に全員の目が釘付けになった。

 執務室か……椅子に座り机に両肘を付くローブを目深に被った若い男。その横に仕えるように立つ魔族三人。

 そして、若い男の背後には大きな窓があった。その窓は開いていて、レースのカーテンが風で少し揺れている。優しい太陽の光が若い男たちに降り注いでいる。窓からは青空が見えていた。

「…………太陽が……」

 誰が放ったのかは分からない呟き声が上がる。

 国王は貴族たちを睨み付けた。

『ここは、本当に良い港だ。魚は美味しいし、気候もいい。我が魔国の良い保養地になると思わないか? エルヴァン聖王国の国王。ああ失礼した。人族の間で、俺の顔は有名らしいから、癖でローブを目深に被っていたな』

 若い男はそう告げると、鼻まで覆っていたローブを外し顔を顕にした。右手の手袋も外した。

 その瞬間、その場にいた全員が息を飲んだ。

 現れた男の顔は紛れもなく、現勇者ユリウス王子と同じ顔だったからだ。その右手にはユリウス王子と同じ痣があった。僅かに光を放ちながら。

 自然と貴族たちの目はユリウス王子に注がれる。無意識のうちに、ユリウス王子は光らない右手の痣を左手で隠した。

 それが、明確な答えだった。

『十年振りか……久し振りだな、エルヴァン聖王国、国王陛下。貴殿の顔が見れないのはとても残念だが仕方ない。愉しみは後々にとっておいた方が倍増するだろう。さて、前置きはここまでとして、アーク・フェルトがここに宣言する。ラッシュ港は我が魔国の支配下におかれた。取り返したければ、来るがいい。丁重にお相手しよう。そうそう、俺のプレゼントはお気に召したか。伝言を頼んだのだが、大変そうなので少し細工をしてみた。愉しみに待っている。エルヴァン聖王国、国王。そして、勇者ユリウス』

 その言葉を最後にプツリと映像は切れた。同時に魔法具も砂に姿を変える。魔法具の技術が国外に流失しないための措置だ。

 ここにいる国王も貴族たちも決して馬鹿ではない。魔法具の技術も飛び抜けて高いことも、流失を防ぐ措置も、我が国を遥かに凌駕していることに気付いていた。

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