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第二冊 絵本
終章
しおりを挟む「ーーと、いう次第になったので、一応安全ですよ。高藤さん」
目の前にいる子供に向かって、そう締め括った。
「…………いやぁ~~驚いた。まさか、あの死神様が……。確かに、死神様が警護を引き受けて下さるのなら、これ以上のものはないと思うが……。それにしても、つくづく神楽書店は謎が多い所ですね」
唖然としながらも、台詞の端々に好奇心が滲んでいる。
その様子を見ながら、私は微笑む。無言のままで。
(さすが、高藤さんだね)
私の意図を正確に読んだ高頭さんは、これ以上この件については触れてはこなかった。
(さて、私も仕事をしないとね。でも、このパターン初めてじゃない)
普通にお客が死後訪ねて来るのは。
例え生前付き合いがあったとしても、やることは同じだけどね。優遇も差別もしない。
「それでは、改めて高藤巽さん。私は神楽書店の店主を務める、神谷祐樹といいます」
今更だけど、第一声はやっぱり挨拶から始めないとにね。
高藤さんは一瞬キョトンとするが、直ぐに神妙な表情になると、短く「はい」と答えた。
「貴方が、ここにどんな思いを抱きながら来たのかを、詮索するつもりはありません」
何が始まったのか分からないまま戸惑いながらも、高藤さんはまた短く、「はい」とはっきりと答える。
「始めに、まず貴方には四十八日間、現世に留まる権利があります」
そう……高藤さんが亡くなったのは先日。
友引や仏滅じゃないから、今日、高藤さんの告別式が行われてる筈。
(だけど、当の本人はここにいるんだけどね。それも子供の姿で)
おそらく、この時期に紺に会ったんだろう。一番思い入れがある世代に姿を変えることは、特に珍しいことじゃないからね。
「……四十八日?」
小さな声で、高藤さんさんは繰り返す。
「はい。あまり誉められたことではありませんが、四十九日の間は、現世に留まっても罪になりません。しかし、四十九日を過ぎた時点で現世に留まると、貴方は罪人となります。如何なる理由があったとしても、その罪が免除されることはありません。そのことを、しかと心に留めておいて下さい。宜しいですか?」
「はい。分かりました」
(素直だね)
「それまでは、ここを仮の家としてお過ごし下さい。貴方は罪人ではありませんから、ここを自由に出入りすることが出来ます。だけど、正直表に出ることはお薦め出来ません。どうしてか分かりますか?」
「……いいえ」
高頭さんは軽く首を横に振る。
(知らなくて当然だよね)
「貴方は紺との絆が強かったから、無事にここまで来れましたが、外は凄く危険な場所なんです。特に、死んで間もない魂は。……簡単に引き摺られてしまう危険性が高いですから。感化されやすいです。特に負の感情は。……様々な想いを残して、留まり続けてるものたちは、至る所に忌ますから」
「地縛霊ですか……?」
私は神妙な表情をしながらも、
「まぁ、そう言われているモノたちも含めてですね」と、苦笑しながら答えた。
(脅すつもりは更々ないんだけど、本当に外は危険なの)
高頭さんは言葉を失い黙り込む。その腕を紺が掴んだ。紺はニコッと笑う。高頭さんも嬉しそうに笑った。そんな様子の高頭さんに、
「ここは安全だから、ご安心下さい」
と繰り返し教えた。
「…………分かりました」
高頭さんは安堵の表情を浮かべる。
「それでは、それまでの時間、ここで自由にお過ごし下さい。何をしても構いません。但し、二階の住居スペースの立ち入りはご遠慮下さい。それと当然ですが、付喪神様に対しての暴力行為も禁止です。……それでは、最後の時間をごゆるりとお楽しみ下さい」
(一応、これは儀式のようなものだからね。高頭さんには必要ないと思うけど)
私は満面な笑みを浮かべながら、新しい住人を受け入れたのだった。
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