俺は妹が見ていた世界を見ることはできない

井藤 美樹

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40 未歩ちゃんの願い

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 国谷先生の診察を寝坊して遅刻した、その日の夕食の時間。

 私は、日向さんと一緒にご飯を食べていた。

 ちなみに、今日の晩ご飯のオススメメニューはチヌの炊き込みご飯とイイダコと里芋の煮物。朝一番に、漁師さんが届けてくれたものだよ。

 もちろん、私はオススメを選んだわ。それ一択しかないでしょ。だって、日本人だよ。旬は逃せないわ。

「桜井さん、未歩はどうしたんです?」

 遅れてやって来た山中さんの声に、私は箸を止める。

 出会った日から、たいがい一緒に食べてるものね。居なかったら私に訊くのは自然かな。山中さんの担当だし、それに、いつ未歩ちゃんが熱を出してもおかしくない状態だしね。なおさらだよね。

「仕上がった小説を、部屋で読んでますよ。声掛けたんだけど、生返事しか返って来なかったので、先に頂いてます」

 まだ本になるかならないか、わからない私の拙い小説を、日向さんもそうだけど、未歩ちゃんも真剣に読んでくれてる。それがとても嬉しくて、邪魔したくなかったから強くは誘わなかった。

「そうですか……桜井さん、完成したんですね。未歩の次でいいから読ませてくださいね」

 ニコッと微笑む山中さん。なんか……凄く圧を感じるんだけど。なぜ?

「あ……はい」

 なので、返答に詰まった。それも、かなりテンション低めの声。決して、読まれたくないからじゃないよ。圧に圧されたんだよ。

「……桜井さんは、私に読まれるのが嫌なのですか?」

 一人だけ様子が違ったら勘違いするよのね。眉を寄せ、悲しげな表情で山中さんはそう尋ねてくる。
 
「いやいや、そうではないから!!」

 つい、必死に弁解する。それが却って悪手だってわかってても。

 山中さんは悲しげな笑みを深め、「嫌でなければいいんです。変なことを言ってすみません」と謝る。
 
 こういう時、余計な一言を言う人っているんだよね~

「陽平、お前が一番最後だけどな」

 日向さんの場合、絶対わざとだ。山中さんをからかって楽しんでるの見え見え。仲がいいからできるんだろうけど。

 あ~山中さん落ち込んじゃったじゃない。そんなに読みたかったのかな。それは嬉しいけど。大人の山中さんのことだから、順番にはこだわらないわよね。日向さんなら別だけど。いや、年齢は同じだけどね。

 そんなことを思ってると、未歩ちゃんがやって来た。山中さんの前に立つ。

 走ってきたの!? 息切れてる。

「陽ちゃん!! お願いがあるの!!」

 私が書いた小説の生原稿を握り締め、未歩ちゃんは山中さんに詰め寄った。

「お願い?」

 山中さんの声が少し固くなる。この場にいる全員が、そのお願いがどういう意味を持つのか理解していた。

「そう、私の希望を叶えて!!」

「何を希望するんだ?」

 山中さんが尋ねる。

「これと同じことがしたいの!!」

 そう言って差し出したのは、私の書いた小説。

 え!? どういうこと? 

 私が書いた小説の中で、華やかな場所とか、有名な観光地も人物も出てこなかったよね。頭を傾げる私。

「陽ちゃん、ううん、陽兄さん、家族として、ひとつ屋根の下で皆と暮らしたいの!!」

 つまり、今この場にいる四人と――

「「「はぁ~!!」」」

 いやぁ~綺麗にハモったね。

 私は驚いている男の二人と、鼻息が荒い未歩ちゃんを交互に見る。

 確かに、願いは一つだけ叶えられる。

 ということは、ひとつ屋根の下で私たち四人が疑似家族として生活すること決定? 今も似たようなものだけど、未歩ちゃんが望むものは、これよりも更に数歩先に進んだ話だよね。ほんと吃驚した~

 でも、未歩ちゃんがそう望んだ以上、私たちの誰かが難色を示さない限り、このまま決定ってことだよね。もちろん、私に異論はないわ。今から楽しみだよ。だってこれは、私の願望でもあったから。

 
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