空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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私、ちゃんと笑えてるよね

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 この胸の痛みを取り去る方法なんて、どこにもない。名の知れた名医でも無理。だって、この痛みは心の痛みだから。大好きな蓮君でも治せない痛みなの。

 原因の一つが、君だから……

 それでも、私は毎日蓮君に会いたい。

 だけど、さすがにそれはできない話だよね。我が儘だって自覚してる。君の生活があるからね。そこは、ちゃんとわきまえてるよ。限りがあるのは、あくまで私の都合だしね。それに、蓮君が合せる必要はないの。

 だから、会うのは週に三、四回かな。それが多いのか、少ないのか、いまいちよくわからないけど、蓮君の負担になってなければいいかな。君の負担にはなりたくないの。

 今日は日曜日だから、昼前にいつもの公園で待ち合わせして、映画の前にランチをする予定。

 いつもと同じように、待ち合わせ時間よりかなり早めに待ち合わせ場所に来たら、なっ、なんと、蓮君がきてたの。今までは、早くて五分前、遅刻はないけど、こんなに早く来ることなんてなかった。

 えっ!? もしかして、私時間間違えた?

 慌てて蓮君に駆け寄った。

「おはよう、蓮君。私、時間間違えた?」

「いや、俺が間違えただけだ。っていうか、お前、いつもこんなに早く来るのか!?」

 何故か、怒られた。最近の蓮君って、少し過保護気味。ずっと入院してたって話したからかな。でも、護られているような気がして、ちょっと嬉しい。態度と口調はやや乱暴だけど。

「家にいても暇だからね」

 ハハッと笑いながら答える。嘘じゃない。

 待ち合わせ時間三十分前だけど、いつもは、もっと早く来てるなんて言えないよね。正直に話すと、益々ますます怒られる。

「家でテレビでも見てろ」

 そう言いながら、蓮君は小さなカイロを乱暴に渡した。そして、いつもと同じようにゆっくりと歩き出す。

 これ、さっきまで、蓮君が使っていたものだ。

「……あったかい」

 少し冷えた指先があったまる。私はそれをギュッと両手で握りしめた。

 私の冷えた心も温まる。同時に、胸の奥に強い痛みが走った。それは、私が蓮君に嘘を吐いてるから走る痛みだ。

 罪悪感からくる痛み。

 騙していることからくる痛み。

 蓮君の良心を利用しているから、この痛みは、これほど強いんだね。それでも、私は、手の中にある幸せを手放したくはないの。っていうか、もう手放せない。

 でも、ラキさんに念を押された日までに、私はその幸せを手放さないといけない。それが、定められたルールだから。

 私にそれができるの――

 そう考えたら、目の前が一瞬暗くなった。周囲の音もやけに遠く聞こえる。そんな中で、蓮君の声だけはしっかりと届いた。

「三奈!?」

 すぐ近くで名前を呼ばれて顔を上げると、蓮君が目の前に立っていた。

「蓮君……」

「しんどいのか!?」

 貧血って思ったのかな? 心配そうな表情で、私を見下ろしている。

 君は私が嘘を吐いてるなんて、つゆほども思ってないよね。そんな私を、いつも気遣ってくれる。ほんと、蓮君はカイロみたいに温かい人だね。常に寄り添っていたい人って、こういう人をいうんだね。

 ずっと、寄り添っていたかったな……

 今は笑えそうにないからうつむく。二、三回深呼吸をしてから顔を上げた。

「大丈夫、しんどくない。ただ……嬉しかったの。カイロ、ありがとう」

 私は微笑む。大丈夫、ちゃんと微笑んでる。

 できてるよね、私、得意だもん。なのに、なんでそんな顔をするの、蓮君……なにか、言ってよ。

 どうして、何も言ってくれないの!?

「本当に大丈夫だよ!! このまま解散ってないよね!?」

 蓮君の代わりに、私は必至で取りつくろう。まるで、すがり付くように。それが、ますます蓮君の顔をしかめさせていることに、私は気付いていなかった。

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