空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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一度口にした言葉は消えない

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 コンビニで買ったカイロを渡した時、三奈はとても嬉しそうな表情をしていた。

 俺が使っていたカイロを躊躇ちゅうちょすることなく受け取って、幸せそうに微笑んだ。それだけで、俺の心は火が付いたように熱くなった。

 あまりにも可愛すぎて、心臓がバクバクする。そして、心の火は心臓を介して全身に広がっていった。

 なのに、不意に、三奈はあの表情になったんだ。あの、苦しそうで辛そうな表情に。俺の熱はサーと冷えていく。

 でも、今回は少し様子が違った。三奈の顔色がいつもより悪かったんだ。だから、体調が悪いんじゃないかって俺は判断した。

 体調が悪いんだったら無理をすることはないだろ。映画ならいつでも行ける。新作だから、最低一か月は放映してるし、別に焦る必要がないって思った。それに、放映したてだから混むと思ってたしな、体調が悪い中人混みってキツイだろ。

 そう思ったから、俺は……別の日でもいいんじゃないかって言ったんだ。

 だけど、三奈は映画を観に行きたいと強く俺に迫った。その様子が、あまりにも必死だったから、俺はついポロリと言ってしまったんだ。

「何、必死になってるんだ?」

 口にした瞬間、三奈の顔色が明らかに変わった。今まで見たことがない表情に、俺は自分が気付かずに、線の内側に入り込んでしまったと確信した。

 焦った。やってしまった――

 弁解し、取りつくろうと思っても言葉が浮かばない。焦れば焦るほど、墓穴を踏んでる。どんどん入り込んでしまう。

 同時に、三奈から表情が消えていく。

 それでも、三奈は俺に向かって、「一緒に映画に行きたかった」って言ったんだ。無理をしているのがわかった。微笑んでいるのに、俺はこの時、三奈が泣いているように見えたんだ。

 一度口にしたことは消えることはない。なかったことにはできない。
 
 俺は三奈を護ろうと決めた。

 三奈が吐き出すまで待とうと考えていた。

 なのに、俺の不要な一言が三奈の内側に土足で入り込み、結果、拒否された――

 伸ばし掛けていた手を振り払われた。

 一人で帰って行く小さな背中を、なすすべもなく見送りながら、俺は自分に対して怒り強く唇を噛み締め、両拳も強く握る。

 しばらく、俺はその場を動けなかった。

 それでも、三奈との繋がりを切りたくなくて、未練がましく、夜俺からラインを送った。

 何も気付かない振りをしながら、変わらない短い文で。

 わかっているのか、三奈。俺はお前の一喜一憂で、こんなにもオロオロしていることを。必死なのは俺の方だ。また遊びに行こうって言葉に、心底ホッとしている俺の姿を見たら、お前は情けなくて嫌いになるかもな。

 でも、俺は三奈のことが好きなんだ。

 なぁ……教えてくれよ、三奈。お前はなんで、そんなに生き急いでいるんだ。

 四月からは、一緒に高校に通うんだろ? 違うのか?

 俺は、お前の隣にいていいんだよな……いてくれるんだよな……答えてくれよ、三奈。


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