空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

文字の大きさ
18 / 64

君は本当に優しいんだよ

しおりを挟む

 曲がり角で、蓮君の姿が消えるのを見るのは、ちょっと淋しい。普通のカップルでさえ、ずっとは一緒にはいられないのにね。

 う~ん、少し依存気味なのかも。気を付けないと、蓮君に嫌われちゃうね。ウザい女認定されたらマジ泣くよ。ところで、

「……蓮君、何くれたのかな?」

 私は強引に渡されたビニール袋の中身を覗き込む。中身を見て、自然と口元が緩んだよ。

 やっぱり、蓮君はすごいな。

 そして、私を大事に思ってくれてる気持ちが、ひしひしと伝わってくるよ。だって、蓮君が買ってくれた物、今、私の買い物袋にまんま入ってるからね。それだけ、私を見てくれてる証拠だよね。あと、温めるだけで食べれる肉うどんも追加で入ってたよ。

「ほんと……蓮君は優しすぎるよ」

 目頭と鼻の奥がキンと痛む。胸が熱くて、玄関前で泣きそうになった。

 蓮君は自分が優しい人だって思ってもいない。その証拠に、私がそう言う度に眉間にしわを寄せる。何度も言うけど、君は本当に優しいんだよ。全然、信じてくれないけどね。

 たぶん……これは私の想像だけど、蓮君は優しさを少し履き違えている気がするの。

 蓮君のその優しさが、主に君が気を許した人にしか発揮されていないから、優しくないとでも思っているのかな? だったら、違うよ。

 今でこそ、一緒に遊びに行ったりしてるけど、蓮君と私は、あの瞬間まで全く接点がなかったんだよ。一度も会ったことがなかったの。

 なのに、蓮君は私に手を差し伸べてくれた。

 蓮君にとっては、気まぐれだったのかもしれない。

 それでもね、困っている時に手を差し伸べられる人のことを、優しい人って言うんだよ。それに、周りの人にだけだとしても、その人のことをちゃんと見てないとできないことだよね。

 誰も望んでいない一方通行の行為は、優しさではなくて、ただの自己満の押し付けだと思うの。そういう人って、やってあげた感が出てるんだよね。それに、見返りを求めたりするの。

 蓮君にはそれが全く感じないし、求めてもこない。

 自然に、呼吸するように、君は私に見返りを求めず、今も手を差し伸べてくれる。

 こんな、嘘つきな女にね。

 私は全然優しくないのに、身勝手で酷い女なのに、蓮君の優しさを求めすがり付いてるのを、君は許してくれてる。その温かさに、心が救われているんだよ。

 だから、自信を持って。君はすごい人なんだよ。

 義務感ばかりの私の両親とは違ってね。

 私気付いてたの。蓮君が私の家のリビングに目をやるのを。電気が点いていないのを不審に思っていたんだね。だから、見舞いに肉うどんをくれた。

 まぁ、そう思われても仕方ないよね。頻繁ひんぱんに送ってくれてるのに、一度も電気が点いてなければ、普通不審がるよ。

 多額の医療費を払うために、病気が治ったばかりの子を置いて働いている。嘘は言ってないよ。ついこの前まではそうだったから。蓮君はそれを不思議に思いながら、少し腹を立ててくれてる。

 私の両親は優しかったんだよ。昔はね……でも、優しさを維持するのに疲れたみたい。そして、疲れは視野を狭くし、心の余裕をなくした。結果、すれ違いが生まれ、激しいくののしり合った両親は、それぞれ外にやしと居場所を求めたの。

 そして、お金さえ出しとけばいいという結論に至ったみたい。多少の罪悪感はそれで埋めれるからね。

 そんな二人だから、ここには帰っては来ない。様子も見に帰るなんてないの。それぞれ帰る場所があるからね。それでも、多少の愛情が残っていれば、この間だけは帰って来てくれるはずだけどね……

 義務が終わった瞬間、両親は、親であることさえ完全に辞めた。

 だから私は、一人真っ暗な家に帰るの。 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...