空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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嫌いになれたら、色々楽なのにね

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 蓮君を見送り、玄関を開けると、小さく「ただいま」と声を掛けてからダイニングに向かった。電気を点けて、私はテーブルに袋を二つ置く。

 蓮君には内緒だけど、私が買ってきた買い物袋の中には、同じ商品が二つづつ入っていた。いつから二つづつ買い始めたかは忘れたけど、私が家に戻ってから、あまり日は経ってなかったかな。

 あまりにも、寂しくてね。置物のように無機質すぎた。だからつい、買うようになったんだよね。私じゃあ、なんの慰めにもならないけど。しないよりはマシかな。少なくとも、無機質ではなくなったから。

 無機質すぎたのって……実は仏壇なんだよね。

 仏壇といっても、骨壺と位牌、あと百均で売っているような写真立てだけ。仏壇とは言えないお粗末なもの。

 そこに写っているのは、身体中に機械がついたやつれた少女。

 遺影なんてない。

 そう言えば、葬式の時にもなかったわね。むなしくて、笑いそうになる。笑ってる写真がなかったかららしいけど、探せばあるはずなのにね。私は持ってるもの。スマホのアルバムの中にもあるよ。最初から探す気がなかったみたいね。

 それとも、捨てたの? 

 もう、今となってはどっちでもいいけどね。だって、娘の葬式から早く開放されたい感アリアリって、もう終わりでしょ。表面上だけは悲しんでる風だったけどね。涙一つ出てなかったよ。

 それぐらいの気持ちしかないから、仏花を飾る白い花瓶もないわ。線香を立てる壺みたいなものは一応あるけど、ほぼサラ。あまりにも即席で、簡易的な仏壇の線香をあげる人は私以外いないから、なおさら汚れないわ。

 そもそも、この家に帰ってこない人間があげるわけないしね。

 少なくとも、ちょっとでも気に掛けるのなら、しんでくれるのなら、この期間は我が子の死をいたみ、線香をあげに来るはずでしょ。この家で過ごしてくれるはず。たくさん、話をしてくれるよね。こんなにも綺麗なわけないもの。遺影や葬式の件といい、赤裸々すぎるよ。

 ほんと、現実は時に非情すぎるものだよね。

 嫌いになれたら、色々楽になるのかな……でも、私は両親を嫌いにはなれないんだよ。諦めてはいるけど。嫌いになった方が、ずいぶん楽なのにね。無関心にもなれない。ほんの少し残っている楽しい記憶がらいつも私の邪魔をする。

 考えるのも、無駄だよね……

 いつもなら、私が買ってきたものを供えるんだけど、今日は蓮君が買ってきてくれたものをあげることにした。

 いつも、私からばっかりだからね。たまには、別の人からのものがいいよね。同じものだけど。特に、蓮君の気持ちを裏切ることもないし、大丈夫。

 私は主に供えるだけ。それ以上は、何もしない。当然、手も合わせない。合わせる意味がないからね。必要ないって言った方が正解かも。

 供え終えると、肉うどんとペットボトル一本以外は、前に備えていたお菓子と一緒に冷蔵庫に入れる。ゼリーとチョコだから大丈夫だよね。ちゃんと後でいただきます。

 肉うどんをレンチンしている間、私はテレビを付けた。

 あまりに代わり映えしないニュースばっかり。

 お笑いもよくわかんない。なんていうか……笑いのツボがよくわかんないのよ。ノリについていけないっていうか。楽しめるのはアニメと動物の特番ぐらいかな。なんか、浦島感が拭えない。

 蓮君と会っている時もそう。

 嘘じゃないけど、長い間入院していたからだって思われてるから、そこは隠さないでいる。下手に隠すとボロが出るからね。

 真実を織り交ぜた嘘を、私は今日も君に吐いている。

 そして、君という存在に今日も癒やされるの。

 どうしてかな? 写真の中にいる少女が笑ったように見えた。たぶん、私が笑っているからね。

 あれ……? なんで、涙が出るのかな? 胸が痛くて苦しいよ……



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