空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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番外編 新盆

花畑と白い花

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 着替えたっていっても、上着を変えただけなんだけどね。いざ意気揚々と戻ってみると、とっても敷居が高かった。

 あれだけ、楽しみにしてたのに……情けないな、私。

『……ただいまって言うべきかな? それとも、こんにちはかな?』

 かなり自信がなくて、隣にいるラキさんにいてみた。呆れ顔になるラキさん。

『帰って来たのだから、ただいまだろ。家族なんだから』

 馬鹿な子を相手にするような言い方をされて、かえってちょっと自信が湧いてきたよ。

『だよね。まぁ聞こえてないから、なんでもいいんだけど』

 深呼吸する私の頭に乗っている魂が、小さく跳ねている。なんか、応援してくれてるようで嬉しい。

『じゃあ、ただいま』

 そう声を掛けてから門扉を潜った。

『お帰りなさい』

 まさか、返事が返ってくるとは思わなかったよ。

 身体が瞬時に強張る。

 私たちを出迎えてくれたのは、とても優しそうな、綺麗な人だった。少女マンガのヒロインが、そのまま大人になった感じ。どことなく、双子ちゃんたちに似ているような……もしかして……

『三奈ちゃんよね、貴女のことはきいさんと子供たちから、よく聞いてたわ』

 私が口を開くより早く、女性が口を開く。
 
 きいさんって、まさか、立木さん? 子供たちって、亮君と立花ちゃんだよね。ということは、やっぱりこの人は……

『すみません!! あの人が迷惑をかけてしまって』

 慌てて謝ったよ。酷いことされて、認めたくなくても、一応あの人は私の親だからね。

『三奈さんが謝る必要ないわ。きいさんが魅力的すぎるから仕方ないわよ。でも、あの女が私の後釜に付いたら、呪ってやろうとは思ったけどね』

 正直すぎる物言いに、唖然あぜんとしちゃったよ。気持ちは理解できるから反論しないけど、仮にも私たちの前で、それ言ってもいいのかな? 一応、取り締まる側だよ。

『実際に、何もしてないから平気だ』

『思うのは自由ってやつね』

 小声で話す私たちに、元奥さんはニッコリと微笑む。

 この女性、見た目通りじゃない。なかなか、過激な性格をしてるわ。それにしても、亮君と立花ちゃんによく似てる。

『ほら、入って。皆、庭にいるから』

 元奥さんに腕を引かれて、門扉を潜る。そのまま引っ張られて庭にやって来た。そして、足を止める。

 庭が真っ白に染まっていた。
 
 花壇だけじゃなく、庭全体が、その一角全部が白色に染まっていたの。

『始めは庭だけだったけど、段々広がって、今はこの一角全部花畑になっちゃったわ。彼も率先して手伝ってくれたみたいね』

 元奥さんの視線の先には、私が好きになった人がしゃがんで花畑を見ていた。

『……蓮君』

 少しせた? でも、顔色は悪くないよね。

「北林さん、お父さんがお茶どうぞって」

 立花ちゃんがそう蓮君に声を掛けながら、彼の横で同じようにしゃがみ込む。

「ああ」

 蓮君は花畑を見たまま、短く答える。

「綺麗に咲いたね」

「そうだな」

「三奈さん、見てくれてたかな?」

「見てるに決まってるだろ」

 相変わらず、ぶっきらぼうな話し方。一見怖そうだけど、人の気持ちに敏感で、とても優しいの。

「そうだよね……見てくれてるよね、帰って来てくれてるよね。新盆だもの」

 涙があふれ出てきて止まらなかった。

 さっきの自分が恥ずかしいよ。

 四か月も経ったのに、皆、私のことを大事に想ってくれてる。それなのに、私は……自分で壁を作ろうとしていた。

「いい加減に、二人とも中に入れよ。熱中症になってもしらないからな」

 亮君が怒鳴りながら迎えに来た。渋々、蓮君は腰を上げると、皆と一緒に家へと向かう。

 私は皆の背中を見ながら、乱暴に袖で涙を拭った。

『いつの間にか、仲良くなっちゃって……』 

 ちょっとだけ、焼けちゃうな。

『縁を結んだのは、三奈さんよ』

 元奥さんはそう言うと微笑んだ。ラキさんも微笑んでいる。

『……だとしたら、嬉しいです』

 満面な笑み答えた。

 風が吹く度に、白い花が揺れる。

 つられるように、頭の上にいた小さな魂がふよふよと宙を移動し、花畑の上に下りる。私もその隣に移動ししゃがみ込む。

『このお花はかすみ草っていってね、私が一番好きな花なの。花壇だけでも嬉しかったのに、こんなに種をいちゃって』

 小さな魂は、じっと私の話に耳を傾けている。

『背の高い男の人がいたでしょ、彼、私の好きな人なの。カッコいいでしょ。怖そうに見えるけど、すっごく優しくて、温かいの。私の初恋なんだ。死んでから恋をするなんて、吃驚びっくりだよね」

 思い出し笑いをしちゃってた。さらに続ける。

『双子ちゃんは、亮君と立花ちゃんっていってね、私の大事な弟と妹なの。血は繋がってないけどね。一緒に暮らしたのは一週間くらいかな。ほんの、ほんの、短い時間だけだったわ。知り合う切っ掛けはね、蓮君とデート中にストーカーされたんだよ。出会い方はアレだけど、とても幸せで掛け替えのない時間だったわ。死んでから、恋心と家族を知ったの。あの三人の中に私はいないけど、でもね、彼らの中に私はいる。そして、ここは彼らの想いが詰まってる。温かい想いで満ちあふれてるの』

 小さな魂が私の膝の上に移動する。

『ここは、私を大切に想ってくれてる人の結晶体なの。綺麗だよね……見せたかったのは花壇だったんだけと、予想以上のものが見れて、私は今すっごく幸せだよ』

 私がそう告げると、小さな魂は淡色の光を放ち出す。そして、ぼんやりと人型の形を取った。

『えっ。ラキさん!?』

 私が声を上げるより早く、ラキさんは私の隣に立っていた。

『大丈夫だから、安心しろ』

 その言葉で私は理解する。

 そっか……一日早いけど、もうくんだね。

 小さな魂は私の首に手を伸ばし抱き付く。そして手を離すと光の粒を残して消えた。

 次の人生、温かくて、心から笑える幸せな人生が歩めますように――

 そう心から、切に願った。ラキさんと一緒に空を見上げながら。


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