空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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番外編 新盆

妙に性に合ってるんだよね

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 この世界にも、ブラック、またの名を社畜が存在することを知った、享年十六歳の元JKです。

 まぁ思い返してみたら、納得だわ。

 私が寝てる時以外、ほぼ、ラキさんと一緒だったしね。

 二十四時間、ぶっ通しで働くのもザラだよ。労基なんてないない。死んでるから肉体的疲れはないし、お腹も空かないし、トイレも必要ないから平気だけど、気持ち的にね……休みたい日もある。

「新盆は一人で大丈夫だから、行って来い」

 だいぶん、砕けた話し方をしてくれるようになったラキさんが言ってくれた。

 先輩を差し置いて、後輩が休みを取ることに抵抗があると思った、ラキさんの配慮だね。四か月と少し一緒に行動したけど、ほんとラキさんって真面目で優しい。あまり表情筋が働いてないから、生前は冷たいって誤解されたと思う。話してみれば、すぐに温かい人だってわかるのに……なんか、勿体もったいない。

 そもそも、一緒に休みが取れるはずだったのに、予定外の仕事が入ってきたのが悪いのよ。

「そういうわけにはいかないわ。ちゃんと、仕事はしないとね。それに盆は四日あるんだから、ギリギリ間に合うわよ」

「たが……」

 ラキさんはとても不服そう。でも、強くは言えないんだよね。

 私たちがそんな会話をしていると、私の肩に乗っていた小さな魂が、私の回りをクルクルと回りだした。ちょっと、輝きが弱い。

「気にしなくていいよ。どこにも行かないから安心して。最後の日まで一緒にいるから」

 私がそう答えると、魂が一段と輝いた。可愛いな。私は魂を人差し指の腹で撫でてあげる。さらに、魂はキラキラと輝いた。

 これが、ラキさんが強く言えない理由。

 この魂は、この世に生まれることができなかった赤ちゃんなの。だから、人の形を取ることはできない。器が形成されてないからね。でも、四十九日間現世に留まるのは変わらないから、その間魂を保護する必要があるの。無垢むくな魂は悪霊たちの餌にもなるし、悪意を吸収して、下手したら、最強の化け物に変貌する可能性が高いからね。

 始めは違う人が保護してたんだけど、段々輝きが失われて、動きも鈍くなっていったの。理由を聞こうにも、言語を話せない魂だからね……ほとほと困っていた所に、私とラキさんが通り掛かったの。

 そしたら、その魂が急に動いて私の頭に乗ったのよ。で、喜んでた。喜怒哀楽の感情だけは伝わるからね。

 それで、急遽きゅうきょ、私とラキさんが、この魂の保護をすることになったの。

 資料によると、この魂の四十九日目は八月十五日だった。

 新盆と丸かぶりだよね。でも、こればっかりはしょうがないよね。この小さな魂はラキさんのことは嫌ってはないけど、好きじゃない。そう言えば、前任者も男だったよね。たぶん、これは想像だけど、この魂のお母さんが、父親と夫に暴力を受けていたからかもしれない。

 生まれてはいなかったとはいえ、感情は伝わるものだから。お母さんの感情もね。

「すまない、俺が不甲斐ふがいないばかりに」

「構わないって。最悪、この子も一緒に新盆帰るのもありでは?」

 冗談半分に言って、ハッと気付いたよ。

 そうだよ、その手があったわ!!

「さすがに、それは……」

 ラキさん渋ってる。

「どうせ相手には見えないし、端のほうで参加する分にはいいのでは? 元々、私余所者よそものだし」

 盆には、ご先祖様があの世から帰って来るの。なので、私の大切な人たちのご先祖様も当然帰って来る。血の繋がらない私は、完全に余所者よそものだよね。

 それに、元々、長居はするつもりはなかったの。家族の邪魔はしなくなかったから。

 元気な顔が見たいだけ。

 それさえ見れれば、安心だから。

「しょうがない。なら、着替えないと。さすがに、この衣装だと場が凍り付く」

「ですよね~」

 取り締まる側の登場は、悪いことをしていなくても、間違いなく宴会に水をさすよね。来ないでほしいと、言われてもしかたない。大事な仕事だけど、嫌われてる仕事なんだよね、悲しいけど。

 でも私は、この仕事がみょうしょうに合ってるんだよね。

 小さな魂は嬉しそうに、私の頬をスリスリしてくる。なぐさめてくれてるのかな、ほんと、可愛い。

「君に見せてあげる。とっても綺麗で温かい景色を」

 生まれてこれなかった小さな魂。

 悲しくて、とても哀れな魂。

 だからこそ、幸せをその魂に焼き付けてほしいの。そして、この世界が捨てたものじゃないことを知ってほしいの。

 長い旅路の前にね。

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