62 / 64
番外編 兄弟
ラキさんの過去
しおりを挟むラキさんの本名を私は知らない。訊いたことがなかった。ラキさんはラキさんだから。でも、今少し後悔してる。ラキさんという呼び名で通じるか、尋ねてから気付いたよ。馬鹿だね~
「ラキ……自殺した山下来希のことか!?」
お爺さん、めっちゃ食いついてきた。老人とは思えない力で両腕を掴まれたよ。私はさり気なく同僚に視線を向けると、彼は小さく頷いた。
そっかぁ~ラキさんって、山下来希っていうんだ。
「はい」
「あいつは、ここにいるのか!?」
そう必死な形相で詰め寄るお爺さんの様子から、ラキさんは憎まれてはいないことが感じ取れた。仕事柄、人の感情を、特に負の感情は読み取りやすくなったから、間違いない。
反対に感じ取れるのは、罪悪感と深い悲しみ――
ただただ、それだけだった。
「います」
「……そうか……いるか…………そうだな、あいつは自ら命を絶ったからか…………」
膝から崩れ落ちる、お爺さん。
更なる罪悪感が、お爺さんの心を蝕む。
それを見下ろしながら、私は指を鳴らす。すると、場所が変わった。何も無い白い空間。ここなら、早々邪魔はされない。これも、この仕事でできるようになったことの一つ。結構、力を使うけどね。
「すみません、了承なく移動してしまって。それでは、早速、話していただけませんか? 山下来希のことを」
「来希には、様を付けないのか……」
罪人だからかと、お爺さんは言った。本当は違うけど、説明する必要もない。だから訂正せずに、私で先を促した。
「はい」
「……そうか。何を知りたい?」
「山下来希の過去を。何故、自殺をしたのかを」
「それなら、既に知っているのではないか。何故、改めて知りたがる?」
尤もな疑問だね。
誰でも知ってるから。どんな些細な罪でさえ、晒され判決を受けるって。
「山下様には関係ないことです」
下手なことは言えない。なら、余計なことを口にしなければいい。
「関係ないか……遥か前に、似たようなことを言ったな……山下来希は、私の腹違いの兄だ。そして、彼を死に追いやったのは、この私だ。罪を負わなければならないのは、この私なんだ……」
お爺さんはそう前置きをしてから、少しづつ話し始めた。
ラキさんの過去を――
「私の実家は裕福で、代々地主を務める、その地域では一番の有力者の家系だった」
納得。ラキさんって立っているだけで、気品があるっていうか、空気が違っていた。なんとなく、立花ちゃんや亮君と纏う雰囲気が似ている所があった。
「よくある話で、私が正妻の子で、来希は妾の子だ。歳も一歳しか変わらなかったから、来希にとって、山下家はさぞかし居心地が悪かっただろう。よく比べられた」
一歳差か……尚更、比べられるよね。
この世の中、無責任な大人で溢れてるから。何も考えず、悪意を撒き散らす。言葉が軽いんだよ。立木さんがレアだっただけ。居心地も悪いって表現じゃあ甘いと思う。最悪を付けないと。
「なるほど……劣悪な環境だったと」
「そうだな、劣悪な環境だった。なまじ、優秀だったのがいけなかった。性格も温厚。繊細な所はあったが、それでも弱くはなかった。それに、容姿もずば抜けておった。私より、遥かに優れた兄だったよ……腹立たしいくらいにな。親戚たちの中には、兄に跡目を就かすように動く者もいた。結果、屋敷は二分していた。そしてそのことを、一番悲しんでいたのが来希だ」
そうでしょうね。ラキさんはとても優秀だよ。でも、それを表には出さない人だ。反対に、軽く否定してくる。私はそれが歯痒かったし、疑問に思っていたの。
そっか~表に出せない暮らしだったんだね。
「山下来希は、家を継ぐことを望んでいなかったの?」
ラキさんの性格なら、望まないよね。わかりながらも、私は確認する。
「ああ、望まなかった。高等学部を卒業したら、家を捨てる準備をこっそりとしておった。だが、家を捨てる前に……」
そこまで言って、お爺さんは言葉に詰まる。表情は苦悶に満ちていた。
「自ら命を絶った」
敢えて私は、お爺さんが言えなかった言葉を口にする。表情を変えずに告げる私を、お爺さんは睨んだ。
私に怒りをぶつけても、過去は変わりはしないのに。
「はっきりとものを言う」
非難されたが、スルー。いちいち掘り下げていてはきりがない。それに、時間もないからね。ラキさんが来るまでに聞き出さないと。
「罪を負うべきは自分だと、先程仰りましたね、山下様。それはどういう意味でしょうか? ご存知だと思いますが、黙秘されても無駄ですよ」
そう淡々と告げると、すっごい目で睨まれたよ。やっぱり、人の負の感情を正面から受け止めるのはキツいな。
だけど、ラキさんと向き合うために必要なことだから、私、踏ん張るよ。
30
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする
九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる