断片の輪廻

断片の輪廻：〈意味を問う門〉 第一節

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―門内世界：第82記録圏／状態：虚無接近警告レベルⅡ―

　

空は低く、灰色だった。
風は吹かない。だが、耳元には絶え間なく“何かが擦れるような音”が付きまとっていた。
それが自分の思考の残響なのか、外部からの干渉なのか――わからない。

　

カイは、静かに立っていた。
背後には、すでに閉じかけた門の影。
門番の気配はなく、紋章の脈動も感じられない。まるでこの世界は、門にとってすら“記録する価値がない”と宣告されたようだった。

　

都市は整っていた。無機質に、機能的に。

だがその動きには、意味の起点がなかった。
人々は笑い、働き、礼を交わし、そして死ぬ――それらは全て、**“あらかじめ設計された模倣”**に過ぎない。

　

カイの胸の奥で、紋章が一度だけ――かすかに“拒絶のような震え”を示した。

　

（……門が、ここを嫌がっている？）

　

彼は理解する。この世界では、「選択」が存在しない。

人々は自分の意思で動いているように見えるが、あらゆる意思決定は
「最適化された答え」に“誘導”されている。
問いを発する者もいない。問う理由が、最初から与えられていない。

　

「意味を探すな。与えられた手順に従え。」

――それが、この世界の第一法則だった。

　

カイは都市の片隅、朽ちかけた橋の下に降りる。
そこには、明らかに制度から外れた存在がいた。

小さな焚き火。誰の目にも映らない場所で、ひとりの男が座っていた。

　

「……君も“問いを忘れた側”じゃないみたいだな。」

男は言った。年齢不詳。だがその目には、答えを見つけられなかった者の静かな焦燥が沈んでいた。

カイは頷く。

　

「あなたは、ここで何をしてる？」

「答えを忘れたんじゃない。“問いそのもの”を探してるのさ。」

男は、火にくべたのは紙ではなく、一片の紋章の欠片だった。

火の中でわずかに発光するその破片に、記憶の深層が一瞬ざわめいた。

だが、それが何の意味を持つものだったのか、思い出せない。

　

火の影が揺れ、橋の梁に映った“紋章の影”が、わずかに脈動した。
カイの胸の紋章が、それに呼応するように――わずかに震えた。

　

「この世界にも、“未だ灯る意味”はあるか？」

問いが、胸の奥に降りてきた。
それは、門が最後にカイに送った微かな“応答”だった。

　

――第一節、ここに記録。

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