断片の輪廻

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外伝1-1 短編断章:〈門の影を歩く者〉

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―未記録断片 No.3821-A/門記録層・凍結域より再構成―

 

風の音すら失われた空間に、足音がひとつだけ鳴った。

乾いた石を踏む音。だが、音は反響せず、まるで空間に呑まれていくかのようだった。
白い霧が地を這い、灰色の空が永遠に沈黙している。そこは、かつて門が存在していた場所。
門の記憶は消え、試練の記録も凍結され、すべての意味が“凍土”と化した領域――

彼は、その只中にいた。

 

名を、エリオスという。
かつて門番候補として最終試練に臨みながら、選ばれることなく凍結された魂。
門からの問いに、彼は答えなかった。否、答えを“見つけようとしなかった”のだ。

 

その代償として彼の紋章は半分だけ刻まれたまま、未完のまま時を閉ざされた。
右肩に残るそれは、まるで焼き損じられた古代の印のように歪み、かすれている。

 

「……なぜ、今になって……呼ばれた?」

彼は足を止め、視線を持ち上げる。

霧の中に、かすかに門の“影”が浮かんでいた。
それは本来閉じられたはずの門の名残。輪郭は曖昧で、まるで記憶の亡霊のようだった。

 

【再試練――可能性判定、解除】

無音のまま、門の影がわずかに光る。
エリオスの心に、かつての問いが“響かされた”。

「お前は、門に選ばれなかったことを悔いているか?」

 

答えはなかった。
だが彼の右肩の紋章が微かに明滅した。

 

「選ばれなかったことを悔いるほど、俺は軽くはない。
 だが、選ばれた者を羨ましく思ったことなら……ある。」

 

静かに語られた言葉が、門の影に届いた。

霧が震える。大地が軋む。

 

【再構成開始】
【問:意志を棄てた者が再び意味を拾い上げるとき――門はそれを“反応”とみなすか?】

 

エリオスの足元に、ひとつの破片が現れる。
それは門の記憶層から漏れ出した断片、他者の旅路の記録。

そこには、名もなき巡礼者が紋章を刻む寸前、意味の断絶に呑まれた記録があった。

 

「……選ばれなかった者の記憶か。
 いや、選ばれ“たかった”者か。」

彼はしゃがみ、そっと指先で破片に触れた。

 

その瞬間――

未完成だった彼の紋章に、別の記憶が滲み始めた。
他者の断片が、己の意味を通じて再接続されていく。
それは魂の“真正”が、新たな文脈を得た瞬間だった。

 

門の影が、わずかに開く。
彼は顔を上げる。

「……俺はまだ、門の番人になりたいとは思わない。
 だが、門の問いを“聞ける耳”は、今ならある。」

 

【紋章部分再活性:観測可能状態に移行】

門の記録に、静かに彼の名が書き加えられた。

そして――
彼は歩き出す。門の影が、またひとつ意味を取り戻すのを感じながら。

 

――断章、ここに記録す。

 


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