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第1章
4.パーティーに向けて準備
しおりを挟む「ミラ、シオン、もう直ぐ着くわよ。」
母が声をかける。
今日は家族4人で王都の中心部へのお買い物を兼ねたお出かけである。
ミラの屋敷は王都の郊外にあり、自然溢れ広い土地を有している。
日常を過ごすのには屋敷の周りの環境が好ましいが、たまに来る王都の中心部も人々で賑わい活気あふれる雰囲気にパワーがもらえるな、と思う。
「到着いたしました。」
「ありがとう。」
皆それぞれ声をかけ、馬車を降りる。
まずは今日の1番の目的、ミラのドレス選びである。
連れられたのは王家御用達のドレスショップであった。店内には美しいドレス、生地、コーディネートされた宝石が並ぶ。
「綺麗……」
思わず声が出る。
「初めまして、ミラ様。私は店員のハルカです。早速ですが、ミラ様は何色のドレスがお好みでしょうか?」
好きな色…
今まで真面目に考えたことがなかったためか、パッと思いつくような色がない。
「ミラは色白だから何色でも似合うわよ。迷うなら、そうねぇ…
当日はシオンにエスコートしてもらう予定だし、アストライア家を主張して瞳の色はどうかしら。」
母が悪戯そうにふふっと笑う。
「瞳の色…」
確か、コバルトブルーという色だと、母が昔教えてくれた。
私も兄も、母と同じ瞳の色をしている。
「素敵ですっ!!ミラ様もシオン様も、透き通るような透明感のあるコバルトブルーですよね!少し明るめの…、っ素敵です!」
ハルカさんが興奮している。
「ミラ、どうかしら?」
お兄様にエスコートしてもらうパーティーで、お互いの持つ瞳の色のドレスを着る。
…とても素敵だと思う。
「はい、私もそれが良いです。」
ミラはニコッと微笑む。
---蕾が綻ぶような微笑みだった。
ミラの笑顔は人を癒す特別な力があるのではないか、と真面目に考えられるほど、家族含め、周りに可愛がられている。
見ている側も、不思議と朗らかな気持ちになっていた。
「そうと決まれば次はデザインね!確か最近の流行は…」
ハルカ顔負けのテンションで話し出す母は、デザインや服飾の分野に詳しいため、黙ってられないのだろう。
(お母様に任せれば安心ね。)
あれやこれやと試着が進められていく。
「どれもとっても可愛いわ。ほら、あなた、シオンもどう?」
「「可愛すぎる。」」
被さる勢いでの即答だった。
父も兄も暇ではないのか…と心配になったが、ドレスを着た姿を見せるたびにニコニコと「可愛い」「天使」などと連呼している。
(親バカとシスコンなんだから…)
褒めすぎだよ、と思いながらも、悪い気はしない。
「一通りのデザインは試したわ。ミラ、どれか気に入ったものはあった?」
どのドレスもさすが一流デザイナーが施しただけあって素敵である。
その中で、ミラは惹かれるドレスがあった。
「お母様、ハルカさん、私はあのドレスが気に入りました。」
ミラが視線を向ける。
そのドレスは、淡いコバルトブルーの生地をベースとして、花をモチーフとする装飾がされたプリンセスラインのドレスだった。
「とても素敵よ。」
「お目に叶うドレスがあり光栄です。」
無事にドレスが決まり、詳細な採寸等を済ませ店を後にする。
「お父様、お母様、お兄様、そしてハルカさん、今日は素敵な時間をありがとうございました。着るのがとても楽しみです。」
ミラ以上に周りが楽しんでいたことが否めないが、ミラの笑顔に周りはまた癒されるのであった。
*
その後は、カフェに入ったり、雑貨屋さんに入ったり、街を散策して楽しんだ。
(本当に素敵な街…皆に笑顔が溢れてる。)
スティエルネ王国は広大な土地と資源を生かし、工業及び産業の発展で安定した景気が守られている。
ミラは街を観察する。
人々が行き交い、言葉を交わす。
そんな光景がとても愛しく、心温まるものだと感じた。
「必要なものは揃えられたわね。そろそろ帰りましょうか。」
少し名残惜しさもありながら、また来れるわよ、と母に言われ、「そうですね。」と返した。
帰りの馬車で、今日一日ミラは両親に聞きたいと思っていたことがあった。
国王陛下と王妃陛下は、私が『治癒の血』を持つことを知っているのか、ということだ。
おそらく知っているとは思う。
その歴史から見ても、スティエルネ王国とこの力は濃い関わりがある。そして、研究室内にある本の大半は『王宮図書館所蔵』のものである。
『治癒の血』に係る文献や本は、一般には流通されていない。
母と父が王家と親密であることからも、王家とこの力は今でも密接に関わっている、とミラは思った。
ただ、両親の口からその反応を確かめたかった。
信頼をしているのか、または、何か曇りを感じるのか。
「お父様、お母様、国王陛下と王妃陛下は、私が力を持つことはご存知なのでしょうか。」
馬車の中の空気が僅かに凍る。
ミラは積極的にその話題を出さなくなっていたからである。
「知っているよ。」
珍しく父が答える。
「スティエルネ王国は、陛下達は、とても愛情深い方々だよ。」
「私達の祖先はね、この国に守られていたのよ。」
父と母が優しく言う。
スティエルネ王国の時の国王は、この力を活かしながらも、そのもの達に手厚い保護をしていた。そして、できるだけ自由であるよう考慮していた。
この国以外では『治癒の血』を持つ者がその血縁を伸ばさなかったのも、この国の在り方が関係しているのだと思う。
父と母は多くは語らなかった。
でも、ミラにとっては、両親が厚い信頼を寄せていることが理解でき、好意が感じるられただけで十分だった。
「…お会いするのが楽しみです。」
その言葉は本心であった。
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