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第1章
5.やりたい事を見つけた
しおりを挟むパーティーまで後1週間。
今日もミラは屋敷の庭で読書をしている。
季節に合わせた花が咲く庭とテラスは、ミラのお気に入りの場所である。
「ミラ、帰ったよ。ただいま。」
「お帰りなさい、お兄様。」
兄はミラより先に王立シエル学園に通っている。
この世界では、人は生まれながらに魔力を持つが、その魔力ランクは1である。
魔力ランクは学び、訓練をすることでしか上げることはできない。
市井で生活するにはランク1でも何ら問題はない。しかし、国の要所となる部分や外交(例えば防衛、研究機関、発電所等のインフラ設備)においては、より高い魔力ランクによる力が必要であり、貴族の者たちは学園に通いランクを高めるよう学ぶのである。
学園には中等部と高等部があり、兄は来年から高等部に、ミラは中等部へと進学する。
ミラは独学で既にランク6に相当する魔力を持っていた。
ランクは10まであり、高等部を優秀に卒業する者でランク5相当と言われている。
シオンは既にランク8であり、兄妹とも並より外れた魔術を使うことができる。
「学園は楽しいですか?どんなことが学べるのでしょう…」
「ミラなら友達もできて楽しいと思うよ。教養の授業と魔術関連の授業が多いかな。」
(学ぶことは既にあまり無いだろうな…)
学校で学ぶような知識は既にミラは学び終えているだろうから、と
シオンは思った。
「新しいことが学べるのは楽しみです。」
ミラは微笑む。
「悪い虫がつかないか心配だな。」
(お兄様は過保護ね、そんな心配不要なのに…)
「そういえばお兄様、10歳になるタイミングで、私孤児院にお手伝いをしに行きたいんです。」
兄は唐突の言葉に驚いた表情を見せた。
「孤児院に?それは何で…ミラは体も丈夫なわけじゃ無いのに、危ないだろう。それに学園にも入学するのに…」
反対されるだろうな、とは思っていた。
でも、あの日以来、王都の中心部へ出かけた時に見た光景がずっと頭に残っている。
明るく活気あふれる街の中で、2人の痩せ細った子供がもう布が破れている服を着て、路地裏近くに座っていた。
自分は素敵なドレスを買い、美味しいご飯を食べてキレイな洋服を身につけている。
そんな日常が当たり前で、そのような平凡な日々が幸せだと思っていた。
しかし、そんな「平凡」こそが、いかに恵まれているものなのか思い知ったのだ。
------人は平等では無い。
それは、稀血を持つ自分の存在こそが物語っていることであった。
自分には、人には無い力がある。
それこそ、一つの国を大国に変えるほどの力を。
同時にミラは、言葉にし難い鬱憤が溜まっているのを感じていた。
そのような力を持ちながらも、隠して生きていかなければいけないことを。
自分にできることから逃げている気がしてならないのだ。
「勉強は疎かにしないし、体調を必ず優先する。まずは週に2回でも良い。
子供達に勉強を教えたいの。」
自分にできることなんて限られているし、大そうなことは何もできない。
自己満足なのでは、と言われても否定はしない。
それでも、得意な勉強であれば教えることができる。
お金をあげたり、食べ物をあげたり出来ても、その先を生きていく力にはならない。
学びは誰にも取られない。
そして、必ず自分の糧になる。
「……お父様とお母様に相談して、許してもらえたらだね。」
ミラの熱心さが伝わったのか、そう言いながら兄は頭をポンポンとしてくれた。
*
その日の夕食の場で、ミラは父と母に孤児院にお手伝いに行きたいことを話した。
「----まぁ、孤児院に…。
わかったわ。エルナ王妃に聞いてみるわね。」
母の反応は案外アッサリしたものだった。
もしかしたら母にも、自分と同じ気持ちがあるのかもしれないな、と思った。
スティエルネ王国の孤児院の管轄は王妃様である。
母から話してもらえるのであれば可能性は高いと思う。有難い。
「体調が第一だからな、次に学園。お手伝いはその次だ。」
父から念押しされる。
「もちろんです。お父様、お母様、ありがとうございます。」
「来週のパーティーで王妃様にお会いできるから、もし何か聞かれたら自分でお伝えするのよ。」
(これは、必ず聞かれるな…)
ミラは思った。でも、決意は変わらない。
「はい、分かりました。」
「ところでミラ、あなた、ドレスのことやお手伝いの話は良いけれど、来週のパーティーのメインは王子殿下とお会いすることなのよ?分かってる?」
(そうだった……)
全然頭から抜けていた。
ミラは静止する。
「もうっ。王子殿下は優秀で優しい方と聞いているわ。以前別の会で姿を見たことがあるけど、とても可愛らしい美少年だったわよ。」
母はこの手の話は大好きだろう。
正直、男性への免疫は父と兄、そして屋敷の使用人達くらいである。
王子殿下と同じ学園に通うので、顔見知りくらいになっておいた方が良いだろう。
「大丈夫、緊張するかもしれないけど、ミラのマナーはバッチリだから。さすが私の愛娘。当日は更に可愛くなるわよ。」
母が楽しそうで何よりである。
緊張…とは少し違うかもしれない、
けど、上手く関わっていけたらいいなと思った。
両親と王家の親密な関係を崩すことは避けたい。
「王子殿下にもお会いするのが楽しみです。」
どんな人なのかな、とミラは少しだけ考えたが、会えば分かるか、と思いすぐに思考を変えたのであった。
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