稀血の令嬢は普通に生きたい 〜王子からの溺愛と執着は日常ですか?〜

ひまわり

文字の大きさ
5 / 38
第1章

5.やりたい事を見つけた

しおりを挟む

パーティーまで後1週間。

今日もミラは屋敷の庭で読書をしている。
季節に合わせた花が咲く庭とテラスは、ミラのお気に入りの場所である。

「ミラ、帰ったよ。ただいま。」

「お帰りなさい、お兄様。」

兄はミラより先に王立シエル学園に通っている。
この世界では、人は生まれながらに魔力を持つが、その魔力ランクは1である。
魔力ランクは学び、訓練をすることでしか上げることはできない。

市井で生活するにはランク1でも何ら問題はない。しかし、国の要所となる部分や外交(例えば防衛、研究機関、発電所等のインフラ設備)においては、より高い魔力ランクによる力が必要であり、貴族の者たちは学園に通いランクを高めるよう学ぶのである。
学園には中等部と高等部があり、兄は来年から高等部に、ミラは中等部へと進学する。


ミラは独学で既にランク6に相当する魔力を持っていた。
ランクは10まであり、高等部を優秀に卒業する者でランク5相当と言われている。
シオンは既にランク8であり、兄妹とも並より外れた魔術を使うことができる。

「学園は楽しいですか?どんなことが学べるのでしょう…」

「ミラなら友達もできて楽しいと思うよ。教養の授業と魔術関連の授業が多いかな。」

(学ぶことは既にあまり無いだろうな…)

学校で学ぶような知識は既にミラは学び終えているだろうから、と
シオンは思った。

「新しいことが学べるのは楽しみです。」

ミラは微笑む。

「悪い虫がつかないか心配だな。」

(お兄様は過保護ね、そんな心配不要なのに…)


「そういえばお兄様、10歳になるタイミングで、私孤児院にお手伝いをしに行きたいんです。」

兄は唐突の言葉に驚いた表情を見せた。

「孤児院に?それは何で…ミラは体も丈夫なわけじゃ無いのに、危ないだろう。それに学園にも入学するのに…」

反対されるだろうな、とは思っていた。

でも、あの日以来、王都の中心部へ出かけた時に見た光景がずっと頭に残っている。

明るく活気あふれる街の中で、2人の痩せ細った子供がもう布が破れている服を着て、路地裏近くに座っていた。

自分は素敵なドレスを買い、美味しいご飯を食べてキレイな洋服を身につけている。
そんな日常が当たり前で、そのような平凡な日々が幸せだと思っていた。

しかし、そんな「平凡」こそが、いかに恵まれているものなのか思い知ったのだ。

------人は平等では無い。

それは、稀血を持つ自分の存在こそが物語っていることであった。
自分には、人には無い力がある。
それこそ、一つの国を大国に変えるほどの力を。


同時にミラは、言葉にし難い鬱憤うっぷんが溜まっているのを感じていた。

そのような力を持ちながらも、隠して生きていかなければいけないことを。

自分にできることから逃げている気がしてならないのだ。

「勉強は疎かにしないし、体調を必ず優先する。まずは週に2回でも良い。
子供達に勉強を教えたいの。」


自分にできることなんて限られているし、大そうなことは何もできない。

自己満足なのでは、と言われても否定はしない。

それでも、得意な勉強であれば教えることができる。

お金をあげたり、食べ物をあげたり出来ても、その先を生きていく力にはならない。

学びは誰にも取られない。
そして、必ず自分の糧になる。

「……お父様とお母様に相談して、許してもらえたらだね。」

ミラの熱心さが伝わったのか、そう言いながら兄は頭をポンポンとしてくれた。






その日の夕食の場で、ミラは父と母に孤児院にお手伝いに行きたいことを話した。


「----まぁ、孤児院に…。
わかったわ。エルナ王妃に聞いてみるわね。」

母の反応は案外アッサリしたものだった。
もしかしたら母にも、自分と同じ気持ちがあるのかもしれないな、と思った。


スティエルネ王国の孤児院の管轄は王妃様である。
母から話してもらえるのであれば可能性は高いと思う。有難い。

「体調が第一だからな、次に学園。お手伝いはその次だ。」

父から念押しされる。

「もちろんです。お父様、お母様、ありがとうございます。」

「来週のパーティーで王妃様にお会いできるから、もし何か聞かれたら自分でお伝えするのよ。」

(これは、必ず聞かれるな…)

ミラは思った。でも、決意は変わらない。

「はい、分かりました。」

「ところでミラ、あなた、ドレスのことやお手伝いの話は良いけれど、来週のパーティーのメインは王子殿下とお会いすることなのよ?分かってる?」

(そうだった……)

全然頭から抜けていた。
ミラは静止する。

「もうっ。王子殿下は優秀で優しい方と聞いているわ。以前別の会で姿を見たことがあるけど、とても可愛らしい美少年だったわよ。」

母はこの手の話は大好きだろう。

正直、男性への免疫は父と兄、そして屋敷の使用人達くらいである。

王子殿下と同じ学園に通うので、顔見知りくらいになっておいた方が良いだろう。

「大丈夫、緊張するかもしれないけど、ミラのマナーはバッチリだから。さすが私の愛娘。当日は更に可愛くなるわよ。」

母が楽しそうで何よりである。

緊張…とは少し違うかもしれない、
けど、上手く関わっていけたらいいなと思った。

両親と王家の親密な関係を崩すことは避けたい。

「王子殿下にもお会いするのが楽しみです。」

どんな人なのかな、とミラは少しだけ考えたが、会えば分かるか、と思いすぐに思考を変えたのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...