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第2章
15.魔力と孤児院②
しおりを挟むミラが通っている中央孤児院は、王都の中心部とミラの屋敷のある郊外の中間くらいの位置に建物を構える、最大規模の孤児院である。
この国で成人は16歳であり、成人前の子供達が現在は40人ほど暮らしている。
指導員の方々と相談し、ミラは8歳以下の子供達を担当することとなった。
到着して馬車を降りると、子供達が駆け寄ってきてくれた。
「ミラちゃんっ」
「ミラさんっ」
「皆さんこんにちは。お出迎えありがとう。」
「ミラ様、こんにちは。皆ミラ様がいらっしゃるのを楽しみにしておりましたよ。」
「そうですか…嬉しいです。」
指導員のユリアさんは、親切にこの孤児院での規則や子供達について教えてくださり、ミラをサポートしてくれている。
「ところで…ご存知だとは思いますが…もういらっしゃってます…。先程からスタッフ全員緊張しています…」
「普段通りの皆さんを見て頂ければ、十分ですよ。ここで働く方々は皆さんとても親切で子供達のことを考えているのが伝わりますから。」
ユリアさんと話しながら、子供達が遊ぶフリースペースのある部屋に向かう。
部屋に着くと、子供達が集まっているあたりに王家の象徴である銀髪の髪が見えた。
殿下は子供達に絵本を読んでいるようで、すっかり馴染んでいる。
「ミラ。」
こちらに気がついた殿下が声をかけると、子供達の視線も集まる。
「こんにちは、殿下。既に仲良くなられていて、さすがですね。」
「皆優しいよ。ミラこそ、すっかり人気みたいだね。」
「少しずつ仲良くなれているので嬉しく感じているところです。」
子供達と目が合い微笑む。
「ミラもこっちにおいで。」
手招きされる方に向かう。
なぜ来ようと思ったのか、ミラの孤児院での振る舞いについて何か聞いているのか、
色々と聞きたいことはあったが、今はいつも通り子供達と接することが優先だ。
まだ殿下の立場に対する接し方を理解できている子は少ない。
子供達が和気藹々と接してくれているので、殿下はむしろ嬉しいだろう。
「ミラちゃん、次これ読んで欲しいっ。」
手渡された絵本を見て、ミラは一瞬固まった。
その絵本は、ミラがよく知る本だった。
治癒の力を使える魔法使いが悪党との戦いで大活躍をして平和をもたらすというお話である。
それくらいで何だ、と思っているのに、自分の前で『治癒の血』に関する話題が出るとつい怯えた反応をしてしまう。
ハッと我に返り、
「もちろん。」
と笑顔で答える。
チラッと殿下を見ると、目が合った。
(……気付かれたかな。)
一瞬の表情の変化であったし、殿下は王族であるからいずれ知られる日も来るだろう…
もう知っている可能性だってある。
気を取り直して、ミラはその絵本を子供達に読み聞かせた。
その後少しして、子供達はお昼寝の時間となった。遊んだ後にお昼寝をして、起きてから勉強を教えるというのがいつもの流れだ。
子供達が居なくなり静かになった部屋で殿下と2人になる。
「……髪型可愛いね。」
「えっ?」
不意を打たれる言葉に間抜けな声が出る。
孤児院では動きやすいように、普段下ろしている髪の毛を高い位置で一つにまとめていた。
「ありがとうございます…。」
(いつもなぜ自然にスマートな言葉が出るんだろう…)
「殿下がいらっしゃると昨日兄から聞いて驚きました。」
「昨日……。完全に忘れてたな。」
「サプライズでしたね。」
ふふっ、と少し無邪気に笑う。
「孤児院への視察、休日までお疲れ様です。」
「ミラこそ、通ってくれてありがとう。今日の子供達との姿をみて、とても信頼されているし、歓迎されているんだと分かったよ。」
「畏れ多いお言葉です。」
「休日にも会えて嬉しいよ。」
殿下がこちらを見て優しく微笑む。
(脈絡なくサラッとそういう言葉を……)
反応に戸惑うミラを見てなんだか嬉しそうだ。
その視線も照れ臭かったが、
「私も…です。」
と、精一杯の返事をした。
「……。」
殿下の顔を見れずにいると、頭にポンポンと手が乗った。
見上げようとした時、
「うわあぁーん。」
という子供達の大きな泣き声と、指導員の方々がドタバタと走っている音が入口のある方向から聞こえた。
「何かあったのでしょうか…。」
初めての出来事に驚く。
「行ってみよう。」
殿下と騒ぎのある方へ向かう。
子供達の泣き声が大きくなる中で、その言葉だけがやけにはっきりと聞こえた。
「治癒の血が…」
ヒュッ ー
ミラは息を呑む。
「何があったんですか。」
殿下が指導員の1人に話しかける。
「隣国のヴァルト帝国が戦争していてね。侵略されている小国で孤児になった子供達が避難してきたんだ。」
「治癒の力の関連みたいだよ。この国だって巻き込まれる可能性がある。ほんと物騒だねぇ。」
ドクドクと心臓が鳴る。
ミラは体全体が脈を打つのを感じていた。
(状況を飲み込んで、冷静にならなきゃいけないのに、)
息が…苦しい。
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