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第2章
17.『治癒の血』と今
しおりを挟む数日後、ミラは家の研究室の中で父を待っていた。
あの日聞いた、隣国で起きている戦争は『治癒の血』に関連しているという話を詳しく知るため、情報源となるモノは調べ尽くしていた。
しかし、不自然なくらいに情報が少ない。
(直接お父様にに聞くしかない…。)
そう思って、父に先日の孤児院での出来事を話した。
何かが起きている。
それを知りたい、知って向かい合いたい。
あの日、倒れてしまった自分の弱さに悔しさに似た感情を感じている。
自分の力を知った日から3年、
ミラは世の中の事情を慮ることができる程には成長していた。
この国人々は、『治癒の血』に関する話題を積極的に出すこともしなければ、その力を持つ人を探すようなこともしない。
そう、あえてそうしているのだ。
時に、人智を超えた力は争いの元になる。
その力を使うことで国の覇権を更に大きくさせ、侵略を進めたいとする革命派。
争いの元となるその力の存在を疎み、抹消することを望む保守派。
どちらもこの国に存在する極端な思想を持つ派閥である。
その存在は認知されつつも、表立った対立もなく、特に問題とはされていないのが現状である。
いや、そうならないように、人々はあえて『治癒の血』について触れることを避けているのだ。
ーその均衡が崩れることがないように。
(もしかしたらこの国での内乱が…?)
不穏なことは考え始めると止まらない。沼のように悪い方へと思考が引き込まれる。
「待たせたね。」
聞き慣れた父の声が、ミラの心を落ち着かせる。
「大丈夫です、お父様。急なお話でごめんなさい。」
「ミラとこの話題に関する話をするなんて、久しぶりだね。…それで、ミラは何処まで聞いたんだい。」
父が向かい側の椅子に座る。
「正直、殆ど何も…。隣国のヴァルト帝国が領土を広めるために戦争を仕掛けているというお話と、そこに『治癒の血』が関連しているということくらいです…。」
「…まあ、間違っていないよ。実際、この国に情報として提供されているのはそれくらいだろう。国民の不安を煽ることになるからね。」
「お父様は、他に何か知っていることがありますか…?」
(あると思うから聞いているのだけど、)
不安と迷いが混じった表情で父がこちらを見つめる。
「……『治癒の血』を持つ人間が数人、軍隊にいるらしい。正確に言えば、軍医として関わっているようだ。」
父は続ける。
「そして、彼等は更にその力を得ることを求めている。領土拡大だけでなく、『治癒の血』の血縁を自国に広めることも目的の一つだ。
そのために、今後この国が巻き込まれる可能性は高いだろう。」
「……陛下は、」
(この状況をどう捉えているのか、)
「今はまだヴァルト帝国の様子見かな。こちらの国へ仕掛けている動きはまだないからね。」
「そうですか…。
……『治癒の血』を持つ方々が、危険な場に連れ出されているんですね…。」
血縁を広げる方法は、大きく2つだろう。
1つは、その力を持つ者を自国に引き入れること。
そしてもう1つは…その血を持つ子供を産むことだ。
ミラは、軍医としてその力を利用されている人がどんな扱いを受けているのだろうかと考えて胸がギュッと締まる。
「でも、ただ怯えるだけではないよ。」
父がやや力のこもった声で言う。
「研究がだいぶ進んできていてね。この治癒の力がどういう経緯で生まれたのか、何故この国の人々のみが力を持つのか、その力の根源は何か…
そんなことが解明しつつある。」
「…っ!本当ですか?!」
驚いて思ったよりも大きな声が出る。
それは、思ってもいなかったことだ。
もしこの力について解明されれば、奪い合いも、救える人が救えない状況も、無くせるかもしれない。
「あぁ、だから、いつも通りでいなさい。もし何かあっても、皆がミラを守るよ。」
父の言葉が、心を安堵させてくれる。
「はい…。」
「とはいえ、もう少しかかるんだけどな。
まぁ、ミラが楽しく学園生活を送っていたらすぐだよ。」
父が優しく笑う。
「教えてくださりありがとうございます。
…学園生活も、孤児院でのお手伝いも、充実しています。」
「それは良かった。」
父は立ち上がり、私の頭をポンポンと撫でた。
「あまり根を積めないようにね。」
父が出ていき、再び部屋に1人になる。
「…はー…。」
いつの間にか入っていた体の力が抜ける。
(色々、世の中は動いているんだ…)
ヴァルト帝国も、この国も、『治癒の血』に対する研究も…
目を逸らしたって、世の中の動きが止まるわけじゃない。
怯え続けていて、何かが変わるわけじゃない。
いつも、変えるには、動くことが必要なんだ…。
(私も、強くならないと、)
ミラの中の何かが変わった瞬間であった。
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