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第2章
24.何かが起こっている①
しおりを挟む暗い意識の中で、温かさを感じていた気がする。
ー目が覚めると、見慣れた天井が見えた。
(あれ、私……)
色々なことが一気に頭の中を駆け巡る。
魔術訓練、魔獣、リネット様、治癒の力…
あぁ、色んなことが起こりすぎた。
混乱を落ち着かせるように、開いた目をもう一度閉じる。
(とはいえ、起きなければ。)
ゆっくりと体を起こす。怠さはあるが、起き上がるのには問題がなさそうだ。
「ミラ様…っ!あぁ良かった!今お医者様をお呼びしますね!」
ずっと付き添っていてくれたのだろう、侍女のレーナが急ぎ足で部屋を出て行った。
(今はあれからどれくらい経ったんだろう…)
殿下とリネット様の前で力を使った。
魔力切れて意識を失ってしまったが、自分がしたことには後悔をしていない。
「失礼します。」
見慣れたかかりつけ医が部屋に入り、身体を診察してもらう。
「特に変わりはありません。しっかり食事をして睡眠を取れば、元の生活に戻って大丈夫でしょう。」
レーナと一緒に呼ばれた母が安堵の表情を見せる。
「ありがとうございます。」
どうやら丸2日間眠っていたらしい。魔力切れを起こして寝込むのは初めてだったので自分でも驚いた。
「王太子殿下からお話は伺ったわ。本当に無事で良かった…。」
「…お母様、力を使ってしまいました。」
「いいのよ、それは悪いことじゃ無いもの。王太子殿下はむしろミラを守ってくださると思うわ。」
「はい…後悔はしていません。」
「うちの娘、強いわよね。封魔獣まで倒しちゃうなんて…。」
「封魔獣…ですか?あれが何だったのか、お母様はご存知なのですか?」
「ええ。」
母の表情は凛としていて美しい。
「今日も王太子殿下はいらっしゃるはずよ。そこでお話を伺えると思うわ。」
「殿下がここまで?!もしかして、毎日来ていたのですが?!」
「そうよ。重度の魔力切れを起こしていたんだもの。この国で1番魔力を持つ王家の方に魔力を与えて頂くのが良いわ。」
「え…、殿下に魔力を頂いていたんですか…。」
こんな郊外の屋敷まで通い、魔力まで…
あの暗い意識の中で感じていた温かさは、もしかしてそれだったのか。
「とてもミラのことを心配していたわ。元気な姿を見てとても喜ぶはずよ。」
微笑む母に頷くと、まだ無理せず安静にね、と言葉を残して部屋から出て行った。
ー混乱する頭は少しは落ち着いただろうか。
殿下と自分の関係性が、明らかに普通では無いことは母も感じているだろう。
いくら殿下でも、1人の令嬢のために家に通い、魔力を捧げるなんてことはないはずだ。
そして、彼の瞳の色をしたピアスも。
(そこには何も触れないのがお母様らしい…)
ふぅ、と一息つくと淹れたてのカモミールティーをレーナが差し出してくれた。
「ありがとう、レーナ。」
ふわり、と香る優しく穏やかな香りが、心を落ち着かせてくれる。
(殿下には聞きたいことがたくさんある。)
どこまで知っているかは分からない、けれど、できる限りの話を聞きたいと思う。
*
コンコンッ
それから暫くして、ドアをノックする音が部屋に響いた。
「ミラ様、殿下がいらっしゃいました。」
「ありがとう。入っていただいて大丈夫よ。」
開いた扉から覗いた殿下と目が合う。
ーと、無言でこちらに近づいて来る。
「良かった…!目覚めないかと思ったんだ…っ」
殿下がぎゅっと手を握りしめる。
(この手の温かさは、やっぱり殿下だったんだな。)
初めて見る弱気な姿に、思った以上に心配をかけてしまっていたんだと胸が痛んだ。
「ありがとうございます、殿下。眠っている中で、この手の温かさを感じていました。」
ぎゅ、と手に力を込めて握り返す。
「おはようございます。少し寝坊をしてしまいましたが、もう大丈夫です。」
「…っ君は、本当に…。…無事で良かった。」
ホッとした表情になる。
殿下はベッドの端に座り、私に体を向けた。
「殿下、お伺いしたいことがたくさんあります。」
一つ呼吸を置いて殿下の目を見る。
「ですが、話せないことがあるのは存じております。なので、話せる範囲でお聞かせいただけないでしょうか。」
「ーそうだね、ありがとう。話すよ。」
まず、殿下はあの魔獣の正体について教えてく れた。
やはり学園所有の魔獣では無く、『封魔獣』と呼ばれる古代魔獣の一種だった。
王国には封印区画と呼ばれるエリアが存在しており、そこには魔術や魔獣の研究のために試験用として捕えられた魔獣が封印されている。
父から話には聞いたことがあったが、実物を見たのは初めてだった。
(あの額の印は封印の痕跡だったのね…)
学園には報告が行っているが、実際に事態に気が付いたのはその場に居合わせた者だけであり、公にはなっていない。
「あれは調教されていた。」
「調教?」
「あぁ。治癒の力に引き寄せられ、追尾するように調教されていたと考えられる。」
突然のキーワードに思わず反応してしまう。
(そうだ、私、殿下の前で力を使ったんだった…)
使う前の反応からして、既に分かっていたような感じではあった。
でも、あの瞬間にそれは確定的なものになっただろう。
(その上で私にこの話をするということは、私が聞く必要がある話なんだ。)
少し躊躇ってしまったが、改めて殿下の目に視線を合わせた。
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