稀血の令嬢は普通に生きたい 〜王子からの溺愛と執着は日常ですか?〜

ひまわり

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第2章

25.何かが起こっている②

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「あの封魔獣……あれは偶然じゃない。おそらく、ミラの存在に呼び寄せられていた。」

「…隣国絡みで、何かが起きていますか。」

治癒の力に反応するように調教するなんて、今この状況で頭に浮かぶのは隣国のことだ。

「……まだ核まで突き止められていない。今回のことも、怪しい動きがあるのは分かっていたのに突き止められなかった。」


俯く殿下を見て、ミラはそっと手を伸ばした。
ーいつの日か、殿下がそうしてくれたように。

頬に触れられた手に驚く殿下がこちらを見る。

「……泣きそうに見えて。」

‘あの日’の通りに言葉を返すと、殿下は口元を緩めて笑った。

「すまない、まだ反省会をする時では無いね。」

再び表情に力が戻る。

「今回の出来事は’中から’仕組まれている可能性が高い。敵国のスパイが紛れているのが濃厚で、『治癒の血』を持つ者を探すことが目的だろう。」

物騒な話に身が固くなる。
なるほど、あの時誰も周りにはいなかったはずだが、今回の一件で自分の存在が知られてしまったんだろうか…

「私ー…」

「大丈夫。知られていないよ。」

言い切らない間の素早い返答に、自分が力を持つことがバレたわけではないと分かり安堵する。

「良かったです…」

「……怖いよね。」


それは確かにある感情だったが、いつの間にかそう感じる自分と向き合うこともやめていた。

「私には、ミラが背負っているもの、怖さを本当の意味ではわからない。
でも、ミラが話してくれる限り、何度でも聞くよ。」


(あぁ、この人は…)


王子の言葉が胸に届いた瞬間、
胸の奥にじんわりとした熱が広がっていく。

いつの間にか、自分の感情に蓋をして、見えないようにしていた部分があることに気がつく。


「…どうして…、ありがとうございます…っ」

(欲しい言葉だったんだ、きっと。)


唇の裏で震える思いは、言葉にするにはまだ早すぎて、でももう、形になり始めていた。

(あなたの隣にいたい、…強くなりたい。)



殿下が改めて姿勢をミラの方向に向ける。


「守りたい…君を。ミラを失うことが1番怖い。」

殿下は言葉を続ける。

「…時間は少しかかると思う、でも必ず、ミラが安全に生きられる未来をから。」

なるべく冷静に、言葉を選んでいることが伝わる。国の未来を見据えている、王族としての顔をしていた。

「無理はなさらないでください…。殿下に危険が及ぶことは、あってはならないことです。」

覚悟の表情がある殿下に伝える言葉としては適していないかもしれない。
でも、ミラも殿下が傷つくことが怖かった。

「それを言うならミラだよ。魔力切れなんて…命に関わるんだから。もう無理しちゃダメだよ。」

言い返されてしまい、反論はできない。

「はい…。」

「ミラの命が危ない時は私は周りも自分も捨ててミラを助けるから。
だからミラは私や皆の命を守ってると思って自分を守ってね。」

冗談では無いんだろう…
自分を見つめるエメラルドの瞳が揺れている。

強さも優しさも、そこにあったのは深い焦燥と祈りにも似たものだった。



コクリ、と頷く。



言葉では伝えられない感情を伝播させるためとでもいうように、ミラは殿下の手を握った。

空の色は、気づけば深い群青に染まり始めている。
窓には、月の光がぼんやりと滲んでいた。


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