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第2章
30.物語の始まり
しおりを挟むこれは、プロポーズになるんだろうか。
言葉を発した後、意外と冷静に頭は働いていた。
…ずっと、殿下への想いを明確に出来ずにいた。
それは、力を隠して生きていく後ろめたさから、王太子の隣に立つという覚悟を持てなかったからだ。
この国の人々の未来を背負おうとしている彼の隣に。
もう隠さない、自分が変えるという決意をした時、国のために自らを捧げる貴方の隣に居たいと思った。
でも、あくまで条件付きのような言い方になってしまったのは、自分の自信の無さの現れかもしれない。
見開いた殿下の目は、そのまま静止していた。
一瞬目を伏せ、それから笑った。
「……私の出番が、奪われたね。」
まだミラの目に残っていた涙をそっと親指で拭った。
「ありがとう、…私はもう、何も迷わずに、想いを伝えられる。」
「ミラ、一緒に生きて欲しい。
そして、君が歩き出そうとしているその隣には、私がいたい。」
ミラはコクリ、と頷く。
「これより先、王としてではなく、一人の男として誓う。ミラと共に立ち、共に歩み、共に世界を変えると。」
月の光が、エメラルドの瞳を照らしている。
ゆっくりと手が頭に伸び、腰を寄せられる。
温かく、力強く、でもどこまでもやさしい手だった。
そのまま、そっと優しいキスをされる。
「殿下共に歩む未来に、私の力を尽くすことを誓います…っ」
声が震えてしまう。
ミラの目に、再び涙が浮かぶ。
悲しみではない、きっと、安堵の涙だ。
これから先の未来は、きっと簡単なものじゃ無い。それでも、もう怯える自分はどこにも居ない。
「君が泣くのなら、私の胸の中で泣いて。
君が震えるのなら、その手を握るよ。
君が進む時は、私は何があっても一緒に進む。」
「だから、一人で抱えないで。
私はミラの弱さも、迷いも、全部ひっくるめてーー君という人を、守りたいと思ってる。」
ミラは顔を上げた。
殿下の瞳は、涙を受け止める鏡のように静かであたたかかった。
(殿下はいつも、ただ私を受け止めてくれる。
私も、殿下を支える。逃げない。手を離さないーー)
言葉にできない想いが、涙の奥で満ちていく。
ミラは、返事をするかのように、そっと殿下にキスをした。
その瞬間ーー
2人から、ごく僅かに輝く光が零れた。
(もしかして、これがお父様が言っていた”共鳴”…?)
湖面には、2人のの影が並んでいる。
この日、後世語り継がれることとなる、
世界の平和を実現させ、治癒の力の在り方を変えた王と王妃の物語の歯車が周り出したのであった。
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