2 / 4
序章
女神? 邪神の間違いじゃないのか
しおりを挟む僕は名乗るほどでもない、極めて一般的な男子高校生だ。
一般的な家に生まれ、それなりに成長し、地元の高校に進学し、今日も普通に授業を受けて、いつもと変わらない帰り道を1人で歩いていた。
「ウ"ゥ"ッ!!」
なんだ? 今僕なんか変な声出なかったか? て、えっ? お、お腹からなんか生えてる??!?
「ぐゴボホヴェオッッ!!!」
口から血がどばどば溢れてくる。呼吸もままならず、胴体に感じる痛みと共に僕はコンクリートの地に倒れ伏した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「だ、誰か救急車! 救急車を!!」
「人に竹槍が刺さったわァァァッ!!!」
竹槍!? 周りの人たちが大騒ぎしているが当の本人は何もわからんぞ!めっちゃ痛い!
そして僕はそのまま意識を失った。
「起きなさい、人の子よ」
女性の声で目を覚ます。
白。
一面真っ白な世界に、僕と彼女はいた。
床に寝転がる僕を、黒真珠に似た2つの瞳が見つめていた。彼女の長い黒髪が顔にさわさわしている。
「人の子よ、ちっぽけな星で生まれ生きたちっぽけな貴方は、つい先ほど竹槍に肉体を貫かれました」
「は?」
じわじわと、身体の内から鋭い痛みが込み上げてきた。生温かい血液が衣服を濡らし、白い床を染め上げていくのを視界の端で見ながら、頭上でこちらを静観する彼女に言った。
「あ"、のっ……! グォフッ、た"……た"すけ"……!」
「はい」
彼女が僕に左手の掌を向けると、キラキラ光る光の粒のようなものが降り注ぎ、身体と服が元どおりになった。
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「私は数多の世界を統べる女神。人の子よ、貴方は滅びゆく世界『ティエーヘンダ』を救う者として、選ばれたのです。」
「え? 救う? 選ばれた??」
「そうです、ティエーヘンダは現在邪悪な魔物に侵略されつつあり、大地はもうすでに半分ほど敵の手に落ちているのです。戯れに犠牲となった無垢なる罪無き命たちは、二度と戻ってくることはないでしょう。心を痛めた私は、竹を一本用意しました」
「ん?」
「かつて美しい花が咲き誇っていたティエーヘンダの大地は、今や血が染み込み赤黒く変色し、空気は穢れ、瘴気で満ち満ちています。きっとこのままではこの世界は死んでしまう、でも神である私は世界に大きく干渉することは禁じられています。遣る瀬無い思いと共に、私は竹の先端を鋭利に削り終わりました」
「ん??」
「しかし、神は干渉できずとも、神の力を分け与えられた人間ならばワンチャンいけます。私はとある星に向かって竹槍を一本投げ、見事命中した者を"選ばれし人間"とし、ティエーヘンダに転移させることにしたのです」
「えええええええええええええ!!」
「先ほど貴方の身体を回復した際に、女神の加護と力を授けました。加護により貴方は少しのことでは死なない身体となり、女神の力で人々を癒すことができるようになりました。……人の子よ、近々ティエーヘンダの国の1つでは、魔王を倒すために勇者を召喚するようです。貴方は、その勇者をサポートし、共に人類の平和を取り戻すのです」
自分の身体がキラキラと輝き、視界がぼやけてきている。もう転移が始まっているのだろう。
「それと、無事に魔王を倒すか、もし運悪く死んでしまったとしても、ちゃんと元の世界に帰してやりましょう。健闘を祈っています、人の子よ。私はずっと貴方たちを見守っています」
そして、視界は光で埋め尽くされた。
「竹槍転移なんてありかよぉぉぉぉァァァァァァァァァァッッッ!!!」
________________そして、ツォーイナココ王国で保護された僕は、事情を説明し、暫くは王宮で暮らせることになった。最初は誰も異世界転移のことを信じてくれなかったが、女神の力をなんかいい感じに見せて信じ込ませることに成功した。
転移してきてから、ツォーイナココ王国から出たことが無い僕はまだ実感してないが、この世界は結構ヤバイことになっているらしい。ここにいる限りは魔物に襲われることはないし、見ることもなかったが……
準備が整ったとのことで、明日、勇者を召喚するらしい。儀式の際には僕とあと2人、旅の仲間になる人たちもいるらしく、いよいよ旅が始まるのだと思うと、正直、かなり怖い。
「はぁ……」
夜、なかなか寝付けなくて外廊下を散歩していると、廊下の先に、こちらに背を向け、長いローブで身を包んだ怪しい人影があることに気づいた。
足を止め、気づかれる前に部屋に帰ってしまおうとゆっくり後退する。
「転移者。貴方に用があって、ここまでやって来た」
バレてる! びっくりして固まると、そいつはくるりと半回転してこちらと向き合った。
「「勇者召喚の儀の準備が整うタイミングで、女神が遣わした人間が現れた!神が我々に味方しているのだ!」って、色んなところで噂になっているから、探すのはそう難しいことじゃなかった」
「は、はぁ……、それで僕に一体何の用があるんですか……?」
「転移者、貴方はこのままでは、たとえ魔王を倒したとしても、元いた世界には絶対に帰れない」
「え……」
帰れない? 何を言っているんだこの人は。
月明かりが照らす薄暗い外廊下には、未だに他の者が来る気配は無い。
そいつ________声からして恐らく女は、気まぐれに吹く風にローブの裾を揺らめかしながら、こう言った。
「異世界から異世界へ、本来そこにないはずの命を転移させる行為は、女神の力をもってしても、中々の負荷がかかる。片道の転移で魂を半分すり減らす行為で…………まさに今、魂が半分しかない状況にある貴方は、魔王を倒して元の世界に帰ろうとすると、そのまま魂が消滅、つまり死んでしまう」
! 何を言ってるんだこの人!?
「信じられませんよ……!女神様はちゃんと、僕を帰してくれるって言ってくれたんですよ?」
「「生きて」帰すって言ってた?よく思い出して」
「や、そこまでは……覚えてませんけど。じゃあどうしたらいいんですか? 僕、このままここで生涯を終えるつもりはないんですが……!」
ローブの女は「一つ、あるにはある」と、右手の人差し指を立てた。
「魂の消滅を防ぎ無事に帰るためには、貴方と他の人の魂を融合させて、他の人の魂を身代わりにするしかない。」
「身代わり……?」
「そう。でも、ただの魂じゃダメ。そもそも貴方が別の世界のモノだから、魂を融合させれても、上手く馴染まなくて最悪どちらも転移の衝撃で消える。だから、貴方と出来る限り近い魂じゃなきゃダメ。それが、この世界に1人だけ、確かに存在する」
遠くから、誰かがパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。一瞬そちらに気を取られていると、いつの間にか女は近くの木の上に飛び移っており、今にも遠くへ行ってしまいそうだった。
僕は慌てて、でも声が響いてしまわないように、小声音量MAXで彼女を呼び止めた。
「待って!! その1人だけって誰なのか教えて下さい!!!」
女は簡潔に、ただ短い単語を口にして、木から木へと飛び移りながらやがて夜の闇に消えていった。
「そんな……」
残された僕は、僕を探しに来たメイドに話しかけられるまで、ただそこに立ち尽くしていた。ショックと混乱で上手く頭が回らない。でも、今夜は間違いなく眠れないだろうなと、それだけは察しがついた。
「勇者の魂を、身代わりにしないといけないなんて…………」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる