Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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男はカイル・コーウェルという名だった。

ザダ王国で代々財務大臣を担っていたコーウェル侯爵家の三男として生まれた。

婿入り先を探すか、己の才能を活かして文官として出仕するか、剣の道に進むか、どっちみち生家に残ることはできない立場だった。

だからカージリアン公爵家への婿入りが決まっていたのは恵まれていた。

レオノーラは王太子妃として王族となり、異母妹いもうとは婿を取りカージリアン公爵夫人となり自身がカージリアン公爵となる。カイルはそれが普遍的なものとして疑わなかった。

それが崩れたのは先の大戦、しかもきっかけは己の国。

戦争の混乱の中、レオノーラは婚約破棄され幽閉された。その理由はヤルシュ王国と密に連絡を取っているため。

カイルはそれを聞いて至極真っ当な判断だと思った。

敵国に渡る情報はないに越したことはない。

それでも時折レオノーラの噂は流れてきた。

ここから出せと侍女を困らせている、贅沢品ばかり買っている、王太子妃に無礼を働き怪我をした。

どれも噂程度であったが、誰もがそれらを真実と受け止めた。

なんせレオノーラには異母妹いもうとをいじめていたという噂があったから。

カイルでさえ信じていた。

戦況は順調で、ヤルシュ王国がザダ王国に降伏するのも時間の問題だろうという戦況の報告すらも。

だからザダ王国の首都がヤルシュ王国に侵攻された時、突然のことに誰も対応できなかった。

そしてあっという間に陥落した首都、王宮にはためくヤルシュ王国の紋章が入った旗が現実を突きつけていた。

首都にいた貴族は全員王宮に集められ、本来なら国王陛下が座しているはずの場所にヤルシュ王国の王太子が座り、ザダ王国の降伏を宣言した。

そして始まった戦犯探し。

ある者は武器を提供し、ある者は捕虜を拷問し、ある者は侵略した街を破壊し尽くし…。

裁判で次々と明らかになっていく自国の罪、都合のいいことしか耳を傾けなかった愚かさを悔いても遅い。

反論すら許されない敗戦国となったのだから。

さらに連座はどこまでとするのか?という問題が浮上した。

王族は皆、処刑されることが確実だった。

ではレオノーラは?

ザダ王国の王族ではあるがヤルシュ王国の血をひく、しかも離宮に幽閉されていた。

レオノーラに関しては連座に含まれない、それがヤルシュ王国の出した回答だった。

そして降伏から一年後、下された判決に誰もが驚愕することになった。

レオノーラの異母妹ミリアーヌも連座となり、処刑が確定したのだ。
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