Epitaph 〜碑文〜

たまつくり

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その日、カイルはいつも通り自宅にいた。

というのも降伏宣言あの日以来、ザダ王国の貴族は自宅への謹慎をヤルシュ王国から命じられていた。

必要最低限の外出は許されていたが、本当に最低限だった。

気を紛らわすための買い物も、楽しいお茶会も全て禁じられた。

だからミリアーヌとは連絡もとっていなかった。

手紙のやり取りは許可されていたが、少しでも不審な内容だということが発覚したら何があるか分からない、という疑念にかられ、躊躇していたこともある。

『ミリアーヌ嬢は連座で処刑されることが決まった。お前との婚約は随分前に解消されているから、うちが連座になることはない』

次兄が部屋に来ていきなりそう伝えたのだ。

どうして?

カイルはミリアーヌを愛していた、それは幼い頃から二人で大切に育んでいた感情。

カイルは何があろうともミリアーヌと添い遂げようと考えていたのだ。

それなのに婚約が解消されていた?

いつ?そんなこと聞いていない!

そんな疑問はあっけなく解消されてしまう。

『父上がなんとかしてくださった』

敗戦国になろうとも政治経済は停滞するわけではない、父は財務大臣として毎日のように登城していた。

つまり連座を恐れた父がどこかで婚約解消の手続きをしていたということだ、その日付は相当前なのだろう。おそらく戦争前。

あくまでもカージリアン公爵家とは没交渉だという体を装った。

『カイルの気持ちはよく分かる、だが耐えてくれ!そうしないとお前を病死させないといけないんだ』

次兄の言葉はカイルに現実を突きつけ、同時にどうにもならないジレンマが襲った。

『ミリアーヌ嬢のことはどうにも出来ないんだ!お前が我を通せば我々にも被害が及ぶ。コーウェル家が存続できるかどうか、今が瀬戸際なんだ!』

たしかにそうだ、敗戦国として責任を問われるのは誰なのか?コーウェル家はザダ王国では侯爵家と高位で何かしらの責任を負わなくてはならない。

それに王弟の娘と婚約していた息子がいたら?

間違いなく連座となる、よくてカイルのみ、最悪の場合はコーウェル侯爵家とその家門に及ぶ。  

それが分からないほどカイルは愚かではない、だから感情を殺すしかなかった。

絶望し崩折れるカイルに、次兄は何も言わなかった。
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