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レオノーラ!?
名前は違っていてもカイルが見間違えるはずもなく、それは周囲も一緒だった。
どれだけ月日が経ち年月が風貌を変えても忘れられるはずがない。
ある者は彼女が生きていることに涙し…。
ある者は彼女がのうのうと生きていることに憤怒し…。
ある者は彼女が王族のプライドを捨てたことに失望した。
そんな我々の想いなど知らないだろう彼女は、得た名声に甘んじることなく、次々と教え子達を世に放ったのだ。
ある者は将来有望な数学者となり。
ある者は既成概念を覆した服飾デザイナーとなり。
ある者は裁判官となった。
こうして誰もが認める教育者としての地位を確固たるものにした彼女に、今では良家の子女がこぞって教えを請うているらしい。
そんな噂がザダ王国に届くほど立派になったレオノーラを、カイルは誇らしく思っていた。
こんな女性になるんだよ。
娘にもそう言って聞かせたほど。
それから程なく娘は婚約破棄され、絶望の淵に立った。
ぼんやりと一日一日を過ごす娘に何ができるだろうか?
自問自答を繰り返すも答えは出ないまま一日一日は過ぎていき、カイルは父からドルトミルアン国での仕事を頼まれた。
レオノーラがいるドルトミルアン国に?!
娘のために何かできればと、二つ返事で引き受けたのはいいが、ドルトミルアン国に行った所でレオノーラに会える保証はなかった。
しかし、もし会えたら?
これはチャンスではないか?
なんせレオノーラはサイナリィ・マグドロスなのだ。
もし娘が彼女の教え子になったら?
そうだ、箔がつく。
敗戦後、どれだけ新しい価値観がもたらされようと、ザダ王国は未だに男尊女卑が根強い。
だから婚約を破棄された娘に良縁は難しい。
そこで、もし、あのサイナリィ・マグドロスに教わったという肩書がついたら。
国内では無理でも国外で良縁を得られるかもしれない。親の目から見ても娘は気立てはいいが器量はあまり…、なのだ。持てる武器はなんでも持たせてやりたいのが親心だろう。
その時はまだ、レオノーラは幼馴染みなのだからなんとかなる、という甘さが心のどこかにあった。再会したら昔話をして…、と昔なじみに会う気軽さがあった。
だからアポイントメントを『カイル・アルキス』ではなく『カイル・コーウェル』で取ったのだ、きっと懐かしく思ってくれるだろうと。
しかし現実は甘くなく、カイルは娘可愛さに視野が狭くなっていたことを痛感した。
再会したレオノーラは喜ぶこともなく飄々としていた。感情を表に出したのはカイルが「力を貸して欲しい」と言ったからだ。
聡いレオノーラのことだ、カイルの腹づもりも気づいていたに違いない。偶然再会したパーティーではどこか一線を引いたレオノーラの態度からもそれは分かった。
結局仕事しかしなかったな…、己の不甲斐なさ、無力さを思い知らされただけだったか。
詮無いことをした自覚を持つと途端に恥ずかしくなってくるのは、年齢を重ねたからだろうか。
もう二度と会うこともないだろう、なんせカイルが帰国するのは明日なのだ、後ろ髪を引かれつつも荷造りを始めた。
敗戦前だったらいくらでも使用人を連れて来られたが、今の立場でそんな贅沢なことは言っていられない、貴族なんて名ばかり。いつの間にか自分のことは自分ですることが板についてきた。
けっこう買ったな、土産にと手に入れた品物の多さに辟易しながらもそれらを渡す予定の家族友人を思い出させ、マイナスだった思考が少しプラスになった。
まとまった荷物を部屋の隅に置き、二ヶ月近く過ごした部屋の窓を開ける。
「もう二度と会うことはないんだろうな…」
まだ明るい空を見上げながら、つい口から出てしまう。
諦めよう、それがカイルの出した答え。
娘はまだ若い、たとえ結婚適齢期が過ぎようとも己の力でどうにかするかもしれない。
名前は違っていてもカイルが見間違えるはずもなく、それは周囲も一緒だった。
どれだけ月日が経ち年月が風貌を変えても忘れられるはずがない。
ある者は彼女が生きていることに涙し…。
ある者は彼女がのうのうと生きていることに憤怒し…。
ある者は彼女が王族のプライドを捨てたことに失望した。
そんな我々の想いなど知らないだろう彼女は、得た名声に甘んじることなく、次々と教え子達を世に放ったのだ。
ある者は将来有望な数学者となり。
ある者は既成概念を覆した服飾デザイナーとなり。
ある者は裁判官となった。
こうして誰もが認める教育者としての地位を確固たるものにした彼女に、今では良家の子女がこぞって教えを請うているらしい。
そんな噂がザダ王国に届くほど立派になったレオノーラを、カイルは誇らしく思っていた。
こんな女性になるんだよ。
娘にもそう言って聞かせたほど。
それから程なく娘は婚約破棄され、絶望の淵に立った。
ぼんやりと一日一日を過ごす娘に何ができるだろうか?
自問自答を繰り返すも答えは出ないまま一日一日は過ぎていき、カイルは父からドルトミルアン国での仕事を頼まれた。
レオノーラがいるドルトミルアン国に?!
娘のために何かできればと、二つ返事で引き受けたのはいいが、ドルトミルアン国に行った所でレオノーラに会える保証はなかった。
しかし、もし会えたら?
これはチャンスではないか?
なんせレオノーラはサイナリィ・マグドロスなのだ。
もし娘が彼女の教え子になったら?
そうだ、箔がつく。
敗戦後、どれだけ新しい価値観がもたらされようと、ザダ王国は未だに男尊女卑が根強い。
だから婚約を破棄された娘に良縁は難しい。
そこで、もし、あのサイナリィ・マグドロスに教わったという肩書がついたら。
国内では無理でも国外で良縁を得られるかもしれない。親の目から見ても娘は気立てはいいが器量はあまり…、なのだ。持てる武器はなんでも持たせてやりたいのが親心だろう。
その時はまだ、レオノーラは幼馴染みなのだからなんとかなる、という甘さが心のどこかにあった。再会したら昔話をして…、と昔なじみに会う気軽さがあった。
だからアポイントメントを『カイル・アルキス』ではなく『カイル・コーウェル』で取ったのだ、きっと懐かしく思ってくれるだろうと。
しかし現実は甘くなく、カイルは娘可愛さに視野が狭くなっていたことを痛感した。
再会したレオノーラは喜ぶこともなく飄々としていた。感情を表に出したのはカイルが「力を貸して欲しい」と言ったからだ。
聡いレオノーラのことだ、カイルの腹づもりも気づいていたに違いない。偶然再会したパーティーではどこか一線を引いたレオノーラの態度からもそれは分かった。
結局仕事しかしなかったな…、己の不甲斐なさ、無力さを思い知らされただけだったか。
詮無いことをした自覚を持つと途端に恥ずかしくなってくるのは、年齢を重ねたからだろうか。
もう二度と会うこともないだろう、なんせカイルが帰国するのは明日なのだ、後ろ髪を引かれつつも荷造りを始めた。
敗戦前だったらいくらでも使用人を連れて来られたが、今の立場でそんな贅沢なことは言っていられない、貴族なんて名ばかり。いつの間にか自分のことは自分ですることが板についてきた。
けっこう買ったな、土産にと手に入れた品物の多さに辟易しながらもそれらを渡す予定の家族友人を思い出させ、マイナスだった思考が少しプラスになった。
まとまった荷物を部屋の隅に置き、二ヶ月近く過ごした部屋の窓を開ける。
「もう二度と会うことはないんだろうな…」
まだ明るい空を見上げながら、つい口から出てしまう。
諦めよう、それがカイルの出した答え。
娘はまだ若い、たとえ結婚適齢期が過ぎようとも己の力でどうにかするかもしれない。
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