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「お呼び立てして申し訳ございません、アルキス伯爵」
昨日の誘いに応じたカイルはレオノーラの部屋にやって来た。
「いや、帰る前に僕も会いたかったから。頼みたいことがあるとか?」
「実はコーウェル侯爵に手紙を届けていただきたくて。お願いできますか?」
「父に?それは構わないが…」
「よかったですわ、では少しお待ちになって。確か出発は今日でしたわね?」
「そうなんだよ、だからあまり長居はできないんだけど…」
「お待たせはしませんわ、どうぞおかけになってください」
思っていたような緊張感はなく、取り越し苦労だったのかとカイルはホッと胸をなでおろした。
室内にペンの音が響く間、カイルはすることもなく出されたお茶に手を伸ばす。この間の青いお茶ではなく香り高いダージリンだ。
「いい香りだ」
「いい茶葉が手に入りましたの、ぜひアルキス伯爵にも味わっていただきたくて。お好きでしょう、紅茶」
ポツリと呟いた言葉だったがレオノーラは聞き逃さず、ペンを止める。
「ああ、よく覚えてたね?」
「ええ、異母妹とよく庭園で一緒に飲んでいらしたもの」
「そう、だね」
風がよく通る手入れされたカージリアン公爵家の庭園、ザダ王国の貴族であれば知らない者はいないほどの規模と美しさを誇っていた。
「あの庭園はどうなりました?」
「一部は残されて公園になってるよ」
「よかったですわ、あそこは本当に見事でしたから」
「そうだな…」
レオノーラは感慨深げだがカイルにしてみれば全く真逆、あそこはミリアーヌとの思い出がつまっている、カイルにとって本当に大切な場所だった。ミリアーヌがいない今となってはあそこだけが彼女との美しい思い出を覚えている場所なのだ。
「カージリアン公爵邸はどうなりました?」
「ヤルシュ王国の領事館になったよ」
「まあ、左様ですか…」
戦後処理で最も頭を悩ませたのが、断絶した貴族家の財産だ。それには小さな物から大きな物まで、それこそ邸宅も含まれる。
宝飾品は売ってしまえばいいが、邸宅はそうはいかない。
取り壊すには惜しい、だからといって残しておいても莫大な維持費がかかるだけ。頭を悩ましているところに一筋の光明が差し込んだ。
戦後、急激な早さで復興するザダ王国に周辺諸国が目をつけないはずもなく、戦争中に途絶えていた国交はすぐさま回復した。そのため多くの国々が首都に領事館を構えることを希望したのだが、元々使っていた領事館はすぐに使える状態ではなかったのだ、そこで出されたのは持て余していた邸宅を割安で貸し出すという案だ。
すぐにでも使える状態で管理されていた邸宅は好評で、その中にカージリアン公爵邸が含まれていた。
復興するのはいいことなのかもしれないが、そこにあった美しい思い出は知りもしない他国の人間に踏みにじられたのだ。
カイルは手をギュッと握る、そうしないと表情が変わるのを防げないと思ったからだ。
「立派な建物ですから、きっと喜ばれているでしょうね」
「…そうだね」
レオノーラにとっては他人事なのだろうか、表情からもどこか達観しているのが見て取れる。
「他人事、だね…」
だからだろうか、つい口から出てしまった。
昨日の誘いに応じたカイルはレオノーラの部屋にやって来た。
「いや、帰る前に僕も会いたかったから。頼みたいことがあるとか?」
「実はコーウェル侯爵に手紙を届けていただきたくて。お願いできますか?」
「父に?それは構わないが…」
「よかったですわ、では少しお待ちになって。確か出発は今日でしたわね?」
「そうなんだよ、だからあまり長居はできないんだけど…」
「お待たせはしませんわ、どうぞおかけになってください」
思っていたような緊張感はなく、取り越し苦労だったのかとカイルはホッと胸をなでおろした。
室内にペンの音が響く間、カイルはすることもなく出されたお茶に手を伸ばす。この間の青いお茶ではなく香り高いダージリンだ。
「いい香りだ」
「いい茶葉が手に入りましたの、ぜひアルキス伯爵にも味わっていただきたくて。お好きでしょう、紅茶」
ポツリと呟いた言葉だったがレオノーラは聞き逃さず、ペンを止める。
「ああ、よく覚えてたね?」
「ええ、異母妹とよく庭園で一緒に飲んでいらしたもの」
「そう、だね」
風がよく通る手入れされたカージリアン公爵家の庭園、ザダ王国の貴族であれば知らない者はいないほどの規模と美しさを誇っていた。
「あの庭園はどうなりました?」
「一部は残されて公園になってるよ」
「よかったですわ、あそこは本当に見事でしたから」
「そうだな…」
レオノーラは感慨深げだがカイルにしてみれば全く真逆、あそこはミリアーヌとの思い出がつまっている、カイルにとって本当に大切な場所だった。ミリアーヌがいない今となってはあそこだけが彼女との美しい思い出を覚えている場所なのだ。
「カージリアン公爵邸はどうなりました?」
「ヤルシュ王国の領事館になったよ」
「まあ、左様ですか…」
戦後処理で最も頭を悩ませたのが、断絶した貴族家の財産だ。それには小さな物から大きな物まで、それこそ邸宅も含まれる。
宝飾品は売ってしまえばいいが、邸宅はそうはいかない。
取り壊すには惜しい、だからといって残しておいても莫大な維持費がかかるだけ。頭を悩ましているところに一筋の光明が差し込んだ。
戦後、急激な早さで復興するザダ王国に周辺諸国が目をつけないはずもなく、戦争中に途絶えていた国交はすぐさま回復した。そのため多くの国々が首都に領事館を構えることを希望したのだが、元々使っていた領事館はすぐに使える状態ではなかったのだ、そこで出されたのは持て余していた邸宅を割安で貸し出すという案だ。
すぐにでも使える状態で管理されていた邸宅は好評で、その中にカージリアン公爵邸が含まれていた。
復興するのはいいことなのかもしれないが、そこにあった美しい思い出は知りもしない他国の人間に踏みにじられたのだ。
カイルは手をギュッと握る、そうしないと表情が変わるのを防げないと思ったからだ。
「立派な建物ですから、きっと喜ばれているでしょうね」
「…そうだね」
レオノーラにとっては他人事なのだろうか、表情からもどこか達観しているのが見て取れる。
「他人事、だね…」
だからだろうか、つい口から出てしまった。
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