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白の国では改革が進んでいた

まず結婚についてだが、政略結婚は禁止となり

番探しの妨害をした者は処罰の対象となることになった


このおかげで、軟禁されていた者が多数いることがわかり貴族が多数処罰された


政権では、一斉に試験が行われることになった

これは異世界の知識を引用したもので、一般常識試験と健康診断、各部署によっては適性試験も行われた

この結果と日頃の仕事や対人関係への姿勢、周りの評価に基づいて、家柄ではなく実力で役職を決めていった

城で働く者全員の人事異動の為大変ではあったが、ここから改善しないと何も変える事が出来ないという事に事に国政に関わる者達が気がついたのだ



そしてついに人事異動発表の日



大広間にはこの城で働いている者が全て集められていた



実力や他者からの評価、普段の仕事の取り組み方、全てを総合して決められたその人事異動に全ての人が驚くこととなった

大臣達を除いた役職組が全て降格し、役職に就いたこともない者が役職についたり、貴族でない者達が昇格待遇となったのだ



ただ今まで家柄で役職についていた無能な上司達から、この人事に反対の声があがった



しかしそんな反対もユーリには通用しなかった


「仕事はお金が発生するんです。そのお金は国民の税金から出ています。貴方達はお金を貰える仕事をしていると言うのなら、今まで貴方達が行った仕事の資料を提出してください。」

ユーリのこの言葉に反対の声を上げた者は意気揚々と書類を取りに行った
そしてユーリに掻き集めた書類を提出した無能な上司達は赤っ恥をかくこととなった



「誤字脱字が目立ったこの書類は会議には使えないと破棄されたものですよ」
「この提案、子供が考えたのか?と扱われなかったものですね」
「この建物建設は上から許可が下りてないのに勝手に執行し、地域住民から建設の反対が起こった案件ですよね?」
「この書類、貴方が作ったものじゃないでしょう。部下の手柄を自分のものにしようだなんて、恥知らずですか?」
「貴方も。この書類は部下が作成したものでしょう?そこの貴方のも。見ればすぐ貴方達が作成したものじゃないってわかるんですよ。」



大勢の前で全て否定された貴族達は顔を真っ赤にし、怒鳴り散らした
「何故そんなことが言える!?」
「これが私が作ったものじゃないとどうして断定できる!?」
「家庭教師も雇うことができなかったこいつらより、貴族が劣っているだと!?そんなわけあるか!!」


この場には女王や俺、宰相に各大臣も揃っている

その場で次代王妃…現王子妃に対してこんな口の利き方をする彼らに、真っ先に動いたのは近衛騎士達だった


ユーリに暴言を吐いた貴族は全て取り押さえられ床に押し付けられている



「お前達は何故自分達がこのような事になっているか理解できていないようだな…
お前達と同じ様に降格した貴族の者は他にも沢山いる。
しかし、彼らは自身の力量を理解し家柄に縋り付くことなく実力をつけて上を目指そうとしている。
何故お前達は自力で頑張ろうとしない?
いつまで親のすねかじりをすれば気が済むんだ?
口の利き方も知らないなんて、どれだけ貴族の名に泥を塗るんだ?
お前達と同じ貴族の者が可哀想だ……」


ため息交じりにそう言ったユーリは王子妃の椅子に深く腰掛けた


ユーリと交代で立ち上がった俺は、取り押さえられている者達の所まで降りた


近衛騎士が取り押さえた貴族達の髪を掴み顔を上げさせる


「君達は……男爵家と子爵家の者達…だね?それ以上の貴族は…いないか」


こうやって反対する奴が現れるのは予想していたが、まさか王族に対してこのような態度をする者がいるとはな…

まぁ前王があれだったから忠誠心なんてなくなっている者もいるのだろう

失った信用は行動で取り返していくしかない…


「お前達、よく周りを見てみろ。」


俺の言葉に、近衛騎士が彼らを集まった皆の方を向かせて座らせる


「適性検査の際に、私達は全員に『もし、降格する事になったらどうする?』と問うた。
お前達の目の前に居る者達は全員が『降格したら、昇格できるよう精進します』と答えた。
『私が降格するなんて事はあり得ませんけど、もし降格したら辞職します』と答えたのはお前達6人だけだ。」


大広間に集まった人々がざわつく


「そ……それは……」

ボソボソと言い訳をしようとする者達に背を向け扉を指さす


大広間はまた静まり返り、騎士が扉を開く音だけが響いた



「お…お父様……」


現れたのは6人の家の家長である父親達だった



父親達は階段下まで来ると膝を折り最敬礼の格好を取る



「…面を上げなさい」


俺の言葉に顔を上げた6人は、朝会った時とは違い短時間で大分老けたように見える


捉えた6人を父親達の元へ近衛騎士に連れて行かせる


「残念な結果となったな。発言を許す、言いたいことはあるか?」


「この度は、我が息子が王子妃様へ不敬な態度並びに言動致しました事大変申し訳ございませんでした」


先陣を切って謝罪したのは、子爵家の家長だ


他の家長も次々に謝罪していく


しかし俺には心からの謝罪なのか、この場を収めるだけの謝罪か力を使えばわかってしまう


「今回の不敬に対して、貴族の家としてどう責任を取ろうと考えている?」


こう問えば、先ほど先陣を切った子爵家の家長がまた口を開いた


「我が家では、まず息子の『貴族』と『市民』という差別意識を変える必要があると考えます。ですので1年市井で自分だけの力で生活させたいと思います。」


「ほぅ?自分だけの力…と言っても、働かなければ金は手に入らず、料理や掃除、洗濯に湯あみ、全て人任せな貴族にそのような生活が本当にできると思っているのか?」


「いいえ。できるできないではなく、やらせるのです。自分が馬鹿にする市民よりお前は無能なんだと、言葉ではなく自身で体験しないとこの愚息は一生理解できないでしょうから…」


「……そうか。ではその者の処遇は貴方に任せるとしよう。理解できることを楽しみにしている。息子を連れ下がってよいぞ。」



この父親の言葉に嘘はなかった

実際に一人で市井に落とし生活の援助もなく生活させる気でいる


「ありがとうございます。では準備がありますのでこれにて失礼いたします。」


父親は深々と頭を下げた


息子は本気で父親がそんな事をしないと思っているのか余裕な顔で軽く頭を下げた


「グラン、今日からお前は市井にて生活しなさい。お前の貯金と生活用具は持って行っていいが生活の援助は一切行わない。もしお前が心を入れ替えないようなら家から追放するからそのつもりでいなさい。」



「…え?……そんな……私の貯金なんて雀の涙ほどだと父上もご存じでしょう!?」



大広間を出ていく際の親子の会話に、広間には失笑が広がった



だがこれは序の口だと知るのはこの後であった



「他の者は家長としてどう責任を取る?」


残りの5家に視線を向けると、互いを盗み見て出方を窺っている


「あ…の……我が息子は…家で再教育をしたく思います!」
「我が家も同じく、再教育をし立派な貴族に致します!!」


そう言った家長達をジッと見つめる


焦ったような顔をし目が泳ぐ


力を使わずとも、これが本気でない事は誰が見ても明らかだ


「あの…!!我が息子は領地へ一人行かせ、領民の生活を学ばせ領地を治めれるよう勉強させようと思います!」



それのどこが責任を取ることになるんだ…?

あまりにも意味が分からなくて少し思考が停止してしまった


「我が息子には、修道院での慈善事業をさせ家では貴族教育を再度徹底したいと考えております」


「我が息子には再度貴族教育と慈善事業を行いその後領地にて領民の暮らしを学ばせようと思います」



一人が話し出したら続々と声を上げるこの者達に頭が痛くなる

大広間にはしらけた空気が漂っている



俺がこの国に居なかった数年の間にここまで貴族の質が下がっているとは……



「女王様、宰相殿……いつからこのような者達が貴族を名乗るようになったのですか?」


振り返りニッコリと母上達に笑いかければ、母上は申し訳なさげな顔をし、宰相は困ったような顔をする


「これは…『貴族』も見直しが必要なようですね?」


次に大臣達の方へ笑みを向けると、メラトス公爵が立ち上がり一礼する


「メラトス公爵、やってくれるか?」


「もちろんでございます。必ずやモア王子の、王家の方々の憂いを祓います」


「それは頼もしいな。補佐に必要な者がいれば使って構わない。資料がそろい次第議会を開くからそのつもりで」


「かしこまりました」



メラトス公爵は一礼し席に着いた



「さて、お前達の嘘を並べただけの責任の取り方は責任を取っていることにはならん。
よって、私が責任の取り方というものを教えてやろう。」


5家にニヤリと笑ってやれば、「ヒィィィッ」と声を上げる者や腰を抜かす者がいた


そんなに怖い顔をしたつもりはないのだが……


「この5家は爵位を王家に1週間以内に返上する事。
新たな生活地と最低限の家と生活用品はこちらが用意する。
そして財産は全て没収とする。」



「そんな!!」
「あんまりです!!」
「なぜ爵位を失わなければならないんですか!!」


息子が息子なら親も親だな…

教育がどれほど大切な事か、改めて感じた


ワーワー騒いで煩いので、この5家の人達は騎士達に別室で拘束しておくよう指示を出した


「……さて、今日の目的である人事発表は終わったからこれで解散でよろしいですか?」


女王様に確認を取ると頷いた



「では、今日は騎士以外の者は全員午後から休暇とする。
明日からは新体制での仕事となる為、帰宅する前に明日から働く所へ行き資料を貰ってから帰るように」


そう伝えると、休暇になるとは思っていなかったのか大広間がざわつきだした。


後は大臣達に任せ俺達は大広間を後にした





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