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しおりを挟む翌日、僕達共演者だけじゃなくスタッフさんも全員が1つの倉庫のようなスタジオに集められた
僕達の前には、通訳の人と製作会社の社長さんが立っている
『昨日のナンシーの件なんだが…まず、ナンシーは怪我などなく現在警察で取り調べを受けている。』
その言葉に安堵するものの、取り調べ?とざわつきが起こる
『どうも彼女、ドラッグの常習犯でアメリカの州警察から目を付けられていた人物らしい。
一昨日、撮影後にドラッグの売人と接触しているのを、売人を見張っていたカナダの州警察に見つかった。
警察は売人からドラッグを受け取っているのがアメリカの女優だと知らなかったらしく、ホテルまで尾行、他に共犯者が居ないことを確認して逮捕したそうだ。』
まさかの事実に愕然とする
『州警察も驚いていたよ。まさかアメリカから撮影に来ていた女優だとはね。
今後アメリカへの強制送還となる為、現在手続きに移行している。
監督とも話し合って、彼女は降板…と言っても役の台詞は少ないし、エキストラ的な立ち位置だったから、代役を置かず本当のエキストラの方に演技してもらう事になった。』
いや…まぁそうなんだけど……
今回の事で映画の公開に影響とか出ちゃうのかな…
「彼方?大丈夫か?」
「え?」
顔を上げると心配そうな響さんが僕を覗き込んでいる
「あ、大丈夫だよ?」
「本当に?」
「んー…ただ、今回の事で映画の公開に影響とか出ちゃうのかなぁって…」
「なんだ、そっちか」
「そっちって……大事なことだよ?」
「映画の公開に影響する事はないよ。ナンシーは世界じゃ無名だし、アメリカでもちょい役しか貰えない女優だからね。日本じゃニュースにもならないんじゃないかな。
昨日ナンシーの事を大分心配してたから、思い悩んでるのかと思った。」
「昨日は確かに心配してたけど……薄情な奴なんだよね、僕。」
「薄情?」
「今は一切心配してない。逆に、カナダまで来て何やってんだって思ってる。」
「まぁそうだな。」
「ドラッグとか本当にあり得ない。どんな理由があって手を出したのかは知らないけど、どんな理由があってもしちゃいけない事だから。捕まって良かったと思ってる」
「うん。……もしさ、俺が薬に手を出したら、彼方はどうする?」
響さんの質問にムッとする
「その時は…響さんの手足を拘束して、薬が抜けて、元の響さんに戻るまで監禁する。外部には体調不良で押し通す。」
意地悪な質問に、わざと病んでる人みたいな返事を返す
「へぇ?じゃあ彼方がずっと養ってくれるんだ?こんなの響さんじゃないって言って離れて行ったりしない?」
「離れて行くわけないでしょ?なんなら正気に戻ってもずっと監禁しといてあげるよ。」
僕がそう返すと、響さんは満足そうに笑った
「安心して。俺の精神安定剤は彼方だから。それに薬なんかしたら、彼方とイチャイチャもセックスも満足にできなくなるから、絶対しないよ」
耳元で色っぽく囁かれて一気に体温があがる
またそうやって意地悪する!
キッと睨むと、響さんはケラケラ笑っていた
その後、ナンシーさんの件なんて無かったかのように撮影は順調に進んだ
そして今日から、新たな仲間が加わる
『ひーびき!ジャックー!久しぶりー!!』
背の高いアジア人のような人が両手を広げて突進してきた
2人は僕を庇う様に前へ出て男性を受け止める
『よう、相変わらず元気だな』
『久しぶりって先月会ったばっかだけど俺…』
苦笑いの響さんに、呆れ顔のジャックさん
男性が2人の間から僕を覗きこみ目が合う
『やぁ、君が響のハニーだね!僕はルーシーだよ!』
なかなかフレンドリーな方のようだ
『初めまして、彼方です。』
緊張しながら返事をすると、にぱぁっと笑う
『ほらほら、勝手にカナタに話しかけたら響が悪魔になるぞ』
ジャックさんがルーシーさんを引き剥がしながら言う
ちなみに僕が英語を聞き取れるようになった訳じゃなく、横で頼さんが訳してくれている
『いいじゃーん!ケチだなぁ』
『それにお前の旦那がヤキモチ妬くぞ?』
『ジャック、こいつはそれが狙いだ』
冷静に突っ込む響さん
ん?旦那??
えーっと…この人もしかして……
「彼方、ルーシーは俺達と同じでパートナーが同性なんだよ。元々アメリカ人なんだけど、結婚する為にカナダの永住資格を取って今はカナダで俳優をしてるんだ。
旦那はルーシーのマネージャーをしてる。」
「へぇ!凄い!!結婚する為に…」
日本も現在は同性婚できるようになったけど、以前はパートナーシップ制度だったもんなぁ
結婚か……いやいや、流石に早すぎだな
それに今でも十分幸せだし
「おーい!カメラテストするから集まってくれー!」
監督の言葉に皆動き出す
今日はジャックさん達連邦警察と日本の警察、僕達が一堂に介する重要な場面だ
『そこ被ってる……後一歩斜め前へ………うん、大丈夫そうだな』
カメラの位置から見た時に、被ってないか確認し床に印をつける
人数が多いので意識して動かないといけない
『じゃあ先ずこのままシーンNo 369を撮って、その後にシーンNo 368を撮るぞ』
照明が少し落とされる
『シーンNo 369…アクション!』
カンッーーーーーー
『……『華月』が2人?』
警察が突入してきて、この状況に困惑している
僕達の周りには目の前の男の部下達が血を流し息絶えていた
「いえ……右が『華月』…左は背格好は似ているけど…日本ではマークしてないので誰なのか…」
連邦警察と日本の警察の困惑を余所に、『華月』は銃口を目の前の男へ向ける
『止めろ!!』
駆けてきそうなジニーへ俺は2丁の銃口を向ける
「動くな」
その言葉にジニーの動きが止まる
『あ~あ、連邦警察まで来ちゃったじゃん。せっかくお前をいたぶって遊ぼうと思ったのに』
男が場違いな明るい声を上げる
『俺はお前と遊ぶつもりはない。ボスに伝えろ、俺は二度と組織には戻らない。』
『へぇ?そんな事言っちゃって良いの?』
『お前には好都合だろう。俺が戻ればお前は用済みだ。』
その言葉に余裕そうだった顔がみるみる歪んでいく
『僕はお前の代わりなんかじゃない!!』
『そんな格好をしといてか?どうせ俺が日本で警察から追われていることを知って、俺に似せてこの国で好き勝手殺し回ったんだろ?俺に罪を着せるつもりで、俺が殺ったように偽装工作までして。』
『華月』の言葉に、日本の警察達は驚いた顔をする
『それは…!ボスの命令で!』
『ああ。俺を誘きだす為だろう。俺が組織に戻れば、本物が手に入ったボスが偽物のお前をどうするかなんて、お前が一番よくわかっているはずだが?』
ニヤッと馬鹿にしたように笑う『華月』に、男は悔しそうに唇を噛む
図星なんだろう
この男は、昔『華月』を拾い暗殺者へと育てたマフィアの構成員の1人だ
『華月』を誘きだす為に『華月』に似せて犯行を行い、手元に戻って来るよう画策した
けど残念
昔のマフィアの『華月』ならそうしてたかもしれないけど、今の"俺の"『華月』は違う
『二度と俺に罪を被せるような真似をするな。俺の邪魔をするなら、組織ごと潰す。』
『……1人で何ができるって言うんだよ?お前が蜂の巣になって終わりだ!』
ケラケラ笑う男に『華月』は呆れたように言う
『お前なら無理だろうな。それに俺は1人じゃない』
『…!まさか他の組織に…!?』
『…頭が悪いのは健在か。とにかく二度と関わってくるな。』
そう言って『華月』はバイクに跨がりエンジンをかける
空ぶかしを始めたので俺は後ろに乗る
勿論銃口は『華月』も『咲夜』も標的に向けたままだ
「さぁ、君達退かないと轢いちゃうよ?」
『華月』はニヒルな表情で日本の警察達に注意する
「…我々はお前を逮捕するためにカナダまで来た!大人しく投降しろ!!」
「逮捕?君達引き渡し請求でもしたの?」
「それは…!」
「でもさぁ、さっきの見てて分かるだろうけど、カルト集団の人達を殺したのって俺じゃないんだよねぇ。
現在、この国で俺は犯罪を犯した事ないし。引き渡し請求をしても、犯罪人引き渡し条約は結んでないからカナダ側にメリットがなければ難しいんじゃないかなぁ。」
日本の警察は図星のようで顔を歪める
「だ…だが、そこの死体はお前の仕業だろう!それに拳銃も持ってるじゃないか!カナダでは拳銃は規制対象だ!」
若い刑事が吠えている
「死体は…彼らがお互いに殺しあったんだよ。俺達を殺そうと適当に発砲した挙げ句、仲間を撃ってしまったんだ。おれたはただ逃げてただけ。一発も撃ってないし、ましてやこの拳銃はそこで死んでる奴から借りただけだ。
こっちは丸腰で殺されかけたんだ。コイツらの親玉が出てきた以上自衛の為には仕方ないだろう。
それに、君達だって日本では俺を殺そうとしていたじゃないか。俺を証拠も無いのに連続殺人犯にしたてあげ、俺と一緒に居ただけの咲夜は実際、警察に撃たれて重症だったしな。
いくら連邦警察が居ても、隙をついて殺されたくはないからね?」
『華月』はやれやれとした仕草をしながら日本の警察を煽る
『連邦警察さん、犯人はこの男だよ。日本の警察達は俺達を殺しにここまで来たんだ。本当に君達が俺を逮捕するなら、先ず俺が日本、そしてこの国で犯罪を犯したって物的証拠を用意しろ。』
最後は睨み付け、拳銃をジニーへ放り投げるとアクセルを回した
警察達の間を縫うように蛇行運転し『華月』と『咲夜』は出ていった
「カーット!!」
スタジオから出ていた僕達をスタッフさんが呼びに来て戻ると監督が「う~ん…」と唸っている
「??」
どうしたんだろう?と思っていると、僕達が戻ってきた事に気づいた監督が響さんを呼ぶ
「何でさっきはあんな演技だったんだ?今までの『華月』とは違ってるじゃないか」
監督の言葉に「え?そりゃそうでしょ」とつい発言してしまった
「ほう、彼方は理由が分かるのか。教えてくれ。」
ニヤッと笑った監督に、あ…監督も本当は分かってるんだって直感した
「…前作で『華月』は大切な『咲夜』を傷つけられて日本の警察を恨んでいます。警察がカナダまで自分達を追い掛けて来たのは『華月』にとっては復讐できる好機です。
日本とカナダの法律は違うし、特にカナダは死刑という刑を撤廃した国。
日本の警察が物的証拠もなく、裁判にも掛けず射殺しようとしていた事を連邦警察が聞けばどう思うか。
『華月』があんな口調なのは警察を煽るため。そして『華月』から語られる事が真実なのだと連邦警察に理解させるため。
今までの『華月』の態度だったら、『華月』の言葉を信じて貰うどころか警戒されたでしょう。」
『だそうだ!理解したかー!?』
監督は周りに居た共演者やスタッフに問いかける
「なるほどー…確かにめっちゃ煽られました……くやしぃなぁ…少しは成長できたと思ってたのに、やっぱり叶さんに演技させられてる…」
新人刑事役の佐藤さんが本当に悔しそうに呟く
その気持ちは凄く分かる
今でも、僕も引っ張って貰うことの方が多いから
「佐藤は前に共演した時より大分成長してるよ。この前のドラマ、すげぇ良かったじゃん。」
「見てくれたんですか!!」
この前のドラマとは、佐藤さんが見た目は良いのに中身が平成のオタクで、ファッションにも興味がない、THEキングオブオタクを熱演していた
確かに、あの時の佐藤さんからは考えられないハッチャケぶりで最初誰か分からなかった
『と言うわけで、このまま撮影は続行するぞー!響の演技の意味を理解したなら、次のシーン、連邦警察はしっかり日本警察を追い詰めてくれよ!』
監督の言葉に、日本警察の皆がお手柔らかに…と引きつった顔をしていた
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