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しおりを挟む「ようこそ、『PEP事務所』へ。社長の永倉です。」
まだ50代くらいの渋めのおじさんと握手をする
この人が叶響の元マネージャーで、現社長の永倉さんか…
「始めまして。相田彼方です。」
通された社長室には永倉さんと社長秘書さん、叶響とそのマネージャーさんが同席している
「さっそくだが、相田君はPFPに所属する意思があるという事で話を勧めて良いかな?」
「はい」
僕の返事に頷くと、秘書の方から書類を受け取りテーブルに並べた
「まずPFPについて説明するね。この事務所では実力主義、つまり演技力の向上が認められないと判断された者は、解雇になる。
なぜ解雇になるかと言うと、この事務所ではランクに応じて給料が支払われるからだ。
一般的な事務所と違い、まだ仕事がない者でも毎日稽古に来て、実力を伸ばしていれば最低ランクでも月20万の給料が出る。
だが稽古をサボったり、人の足を引っ張るような者はこの事務所に必要ないと判断し、解雇になる。」
「……わかりました。」
「ランクはS~Fまで。Fは今言った仕事がないけど毎日稽古に来ている者。
Eは事務所が年4回行っている舞台公演に出演する者、Dは実際に少しずつ仕事が入ってきている者、Cは定期的に仕事のある者、Bはレギュラーとして舞台やドラマに出演する者、Aが主演作が数作品ある者。そしてSは響以外今の所いない。響ほど海外でも活躍していればSランクだ。」
「……ランクは上がっても下がることもあるんでしょうか?」
それだけランクがあっても、人気が落ちれば出演数は落ちてしまうだろう
「勿論下がる事もあるよ。ただしランク付けは2年間のトータルで決めるから、『運』はここでは通用しない。たまたま運良く仕事を貰えて出演作品ができても、実力がなければ他の者に掻っ攫われていくのが、この業界の厳しいところだからね。」
「…だから2年間のトータルなんですね。」
「そういうこと。ただスキャンダルとかで人気が落ちるってこの世界ではよくあるでしょ?
うちの事務所は恋愛は自由、ただし遊びの恋愛は禁止。
付き合うなら必ず事務所に報告する決まりがある。
これはファンクラブにも書いてあるから、報告があった場合直ぐにファンクラブで報告する。
メディアより先にファンに伝えることで、勝手な憶測を避ける為だから、彼方君も恋人ができたら隠さず話してね。」
「…はい」
恋愛自由だなんてすごいな…俳優だって人気商売の所があるのに、ファンに1番に伝えることで混乱を避けるのか…
でもファンからしたら、好きな俳優が恋人をつくっていい気はしないだろうに…
「ちなみに、その他でスキャンダルが発生した場合、所属俳優に非がない場合は、うちの弁護士が全面に立って事務所で必ず守るから。
けど非があった場合は、それに伴う損害の支払いと解雇になる。
まぁ、人としてして良い事と悪い事はこの世界じゃなくても共通の事だから、あまり重く考えなくて大丈夫だよ。」
「はい。」
「それから、現在在席しているのはSランクが1人、Aランクが4人、Bランクが7人、Cランクが10人、Dランクが3人、Eランクが5人、Fランクが5人の計35人。
事務所開催の舞台公演に出れるのは、各ランクから多くて2人~3人。オーディションで選ばれた者になる。
選ばれなかったEとFランクのメンバーは裏方の勉強の為に裏方に徹してもらう。」
「オーディションの審査はどなたがされるんですか?」
「私とS、Aランクの5人、演出家、脚本家、舞台監督、演技指導師の4人の計14人だよ。
舞台に立てるか立てないかのオーディションだから、どの役をするかは審査員が話し合って決める。」
「…なるほど、舞台に立てるのは実力のある者のみ…ってことですか。」
テーブルに並べられた資料を見る
今まで説明してもらった事が書かれている
「まぁね、ただS、A、Bランクは仕事の都合がつく者が出演する。
あ、一応所属俳優にはランクに関係なくマネージャーがつくよ。
けど1人に1人じゃなくEとFランクは4人のマネージャーが纏めてスケジュール管理してる。
専属マネージャーがつくのはDランクからで、あとは所属したての子にも1年だけ専属マネージャーがつく。
その1年で稽古やオーディションを受けて、ランクをどれだけ上げれるか……そこで本人のステータスや才能を見極めさせてもらう。1年間はランク自体つかないから、頑張ってね。」
つまり、その1年で実力を上げ仕事を取れるようになれていれば、EやFランクにはならないという事か…
「なにか質問はあるかな?」
「………何を質問していいかわかりません」
考えてみたけど、何も浮かんでこない
「だよね、まぁおいおい分からない事は、私や担当マネージャー、響に聞けばいいよ。あとは大学の事だけど、地方ロケ中の出席は夏休み前だし、レポートを提出する事で免除して貰おうと思うんだけどいいかな?」
「はい、そうして頂けたら助かります。」
「OK、次に今撮影している映画のギャラは、まだうちに所属してない時に引き受けた仕事だから、全額彼方君の口座に振込むね。
これ以降の仕事は、ランクがつくまで事務所が4割貰うことになる。ランクがついて、仕事が入るようになったらランクに応じて割合数は変わる。
そこは話し合いで決定するけど最低でも事務所は3割差し引かせてもらってるけど大丈夫?」
「はい、というか…今回のお給料から引いてもらって構いません。大学に話をつけて頂きますし、現在オファーを頂いてる所にも話をつけていただくので。」
「いやいや、それくらいなんの問題もないよ?貰えるものは貰っときなよ。」
社長はケラケラ笑う
「でも……」
どうやったら差し引いてもらえるか悩む
既に大学などでお世話になる事が決まっている
それも今の映画撮影に参加するためだ
それなのに引き受けた時に、ここに所属してなかったからって…マネージメントしてもらうのにタダでって言うのは気が引ける…
「永、彼方が困ってるから、せめて事務手数料だけ受け取ってやったらどうだ?」
助け舟を出してくれたのは叶響だ
「えー!彼方君困ってるの!?…律儀な子だねぇ……わかった。じゃあ手数料だけ引かしてもらうよ。
今日からの契約でいいかな?」
「はい、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げると、「よろしくねー」「よろしくお願いします」と返事が返ってきた
書類にサインをしたあと、今後の担当マネージャーを決めてくると、叶響のマネージャーの志野さんは出て行き、秘書さんは書類の控えを準備しに出ていき、社長は電話が来て部屋を出ていった
だからこの部屋には叶響と僕だけだ
「あの……さっきはありがとうございました。」
「ん?ああ、うん。彼方って焦った時、変にフリーズするよな。さっきもフリーズしてたからつい口を出してしまったけど。」
「…僕フリーズしてます?」
「してるしてる。この前も、ほら…撮影中乱入者が出た時、フリーズしてただろ?」
「あれは誰でもフリーズしません!?急に奇声を発したおじさんが、棒を振り回して向かってきたんですから!」
「まぁな?でもあの回し蹴りは凄かったな。」
そう、乱入してきたおじさんは他の役者さんを突き飛ばし、僕に向かって棒を振り回して走ってきて、焦った僕はその場に固まってしまったんだ
叶響が大声で僕を呼び、こちらに走ってくるのが見えてやっと体が動いた
中学・高校と部活が空手部だった僕は、咄嗟に廻し蹴りをくらわしていたんだ
その後スタッフに取り押さえられ、警察に引き渡した
「叶さんのおかげで体が動きました。ありがとうございました」
「いや、助けに行こうとしたら、綺麗な廻し蹴りで相手を倒したからびっくりしたよ」
「僕、中学・高校と空手部だったんで。特に廻し蹴りが得意なんです。」
「うわー…彼方とは喧嘩できねぇーな。一瞬で沈みそう」
「いやいや、叶さん絶対強いでしょ?中学の時相当暴れてたような手してますけど?」
「よく見てんな。暴れすぎて拳の凹凸なくなった」
ケラケラ笑う叶響と、皆が戻ってくるまで色々と話していた
出会ってまだ2ヶ月目だけど、現場で一緒にいる事が多く、お互いの話、日常の話、仕事の話など、暇があれば話していて、言葉遣いも砕けてきて大分距離が近くなったように思う
「お待たせー」
ゾロゾロと戻ってきた社長たち
一番最後に入ってきた長身のリクルートスーツの様なスーツを着た男性が、こちらをチラチラ見ている
何故そんなにチラチラ見てくるんだ…
見世物パンダじゃないぞ…
「紹介するね、この人が彼方君のマネージャー補佐をする細井君だよ。1年間、彼方君のマネージメントは主に響のマネージャー、志野がするからね。」
「え??」
さっき担当マネージャーを決めてくるって言ってなかった?……どう言う事??
「いやぁ…本当は違う人にマネージャー頼むつもりだったんだけど、担当してる子がもうすぐDランクに上がれそうで、力を注いでやりたいらしくって。で、代わりに細井君に担当マネージャーして貰おうと思ったんだけど、彼EとFランクのマネージャーもしてたんだよね。
そこに、これから伸びそうな子が居るから担当を外れたくないらしくてさぁ。
だから志野が付き添えない時だけ、細井君が車の運転手するから。仕事現場は志野の迎えで響と向かってね?
基本的に撮影シーンって地方ロケ以外だと2人一緒のシーンしか残ってないって聞いてるから問題ないよね?」
どこで息継ぎしてるのかと思うほど一気に話す社長に目が点になる
「いや……志野さんにそれだと負担になりませんか…?」
「大丈夫ですよ。響のスケジュール管理は私が行ってますが、仕事の選別などは今も社長が行ってますから。
スタジオ収録や撮影はいつも響が1人で行く事が多いので何も問題ありません。」
「そうだな、志野に任せれるならそのほうが安心だ。あー…でも地方ロケ終わって1ヶ月後に2ヶ月間アメリカでの仕事があるよな?
その時はどうするんだ?」
アメリカで仕事…流石叶響………
「そうですねぇ……その時の彼方君の仕事の入り具合にもよりますが、その頃は事務所で行う舞台公演のオーディション前なので、基本稽古メインで動いてもらう事になると思います。
なので送迎はタクシーか細井に任せることになるでしょうね。」
手帳を取り出し予定を確認しながら志野さんが答えると、叶響は小さくため息を吐いた
?何か問題でもあるのかな……?
チラッと横目に叶響を見ると、それに気づいたのか、叶響は苦笑しながら僕の頭をクシャりと撫でた
「まぁ、そういう事で今日から彼方君はうちの事務所の子だからね!皆バックアップよろしく!
てなわけで歓迎会に焼肉いくよ~!」
社長が立ち上がり拳を突き出した
「…………………永、そこは彼方の歓迎会なんだから彼方の食べたいものにしないか?普通。」
呆れた顔で叶響が言えば、社長はハッとしたような顔で迫ってきた
「彼方君!焼肉好き!?めーっちゃ美味しいお肉がある焼肉屋なの!一度食べたら他の焼肉なんて食べれないくらい!!食べたいよね!?食べたいって言ってー!!」
あまりの剣幕に、首を何度も縦に振る
「良かったー!ほら、響!彼方君も焼肉食べたいって!みんな行くよー!!」
上機嫌で荷物を準備しだす社長にまた、ため息を吐いた叶響は「ごめんな、アイツ焼肉大好き人間なんだ」と言った
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