【完結】ただのADだった僕が俳優になった話

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インペリオ舞台裏生放送の反響は大きく、舞台のチケットは販売開始3分で完売
あまりにもチケットが取れなかったっと嘆きの呟きが多く、連日PEPの事務所にも公演日を増やす事はないかとの問い合わせが殺到した為、特別処置として今回だけネットでの配信とDVDの販売が決定した


ネット鑑賞のチケットも直ぐに売り切れとなってしまったらしいが、DVDの予約もできることから、チケットが取れなかった人はそちらを予約してくれたようだ

そして生放送の影響は、舞台の出演者や裏方の俳優達の他の仕事にも及んだ

予定され既に販売されている舞台や映画のチケットは全て完売

出演しているドラマの視聴率は上がり、ファンクラブ会員もうなぎ登りなんだとか

DやEクラスの人にも仕事が入ってきているらしい

平野さんは歌手活動もしているので、出したアルバムやCDが売り切れたり、ライブのチケットが高額で裏取引されてしまい、平野さんの事務所が対応に追われているらしい





「ついに明日だな」

試写会が終わり監督達とご飯を食べてから帰ってきた

今はベッドに入り、叶さんと寝る前のお喋りタイム

「うん、緊張する…」

明日は朝からゲネプロ

関係者や記者さんや、ネット配信の確認があり業者さんも来る

初舞台で初めて人前で演じる

「舞台と映像の仕事は勝手が違うが、どちらも大切な事は同じだよ」

「大切な事?」

「自分が楽しんで、役を生きること。あれだけ練習してきたんだから、上手くいくよ。」

頭を撫でられ優しく微笑まれると、緊張していたのが解けていく

「ん...明日は楽しむよ」

「うん。アドバイスとしては、劇場に入ったらまず1番後ろの席から舞台を見ることかな。」

「1番後ろ?何で??」

最近になって、叶さんに対して敬語で話すのを辞めた

叶さんから『敬語だと距離を感じて嫌だ』と言われてしまったからだ

確かに敬語を辞めてから、前よりももっと距離が近くなった気がする

ただ他の人がいる前ではできるだけ敬語で話すけど、タメ口に慣れてしまって、たまにタメ口で話してしまうことがある

気をつけないと...

「舞台の大きさや見え方を確認するため。映像と違って、観客は全体を見てるからね。どんな風に見えているのか自分が知っているのと知らないでは身振り手振りの演技の大きさが変わるんだよ。」

「へー......じゃあ明日はまず客席に行かないとね」

「そうだな」

叶さんに軽く抱きしめられ背中を優しくポンポンされると僕は直ぐに眠ってしまった




次の日のゲネプロは大成功だった

稽古場で練習していた時より、皆の動きも演技も良く、大満足の結果となった

明日から始まる舞台の為、午後は体のメンテナンス休みとなり各自、体を休めるように言われた

皆今回の舞台だけじゃなく、個人の仕事も多く、朝から晩まで休みなく働いていたので、急遽休みをとの配慮だった

僕と叶さんは、志野さんに連れられ全身マッサージを受けに行った

叶さんがいつも行く所らしく、2人揃ってベッドにうつ伏せになりマッサージを受けた

術後は体が軽くなり、プロって凄いなぁと思った

その後はカフェでテイクアウトして自宅に戻り、2人でDVDを見たりお喋りしたり、本当にのんびりとお休みを満喫した



そして迎えた舞台初日、観客席は満席

舞台袖でその様子を覗いてメチャクチャ緊張してしまった僕を、叶さんが後ろから抱きしめた

いつもの叶さんの匂いにホッとして、少し話してから共演者とスタッフ全員で円陣を組んだ

「この日まで本当に毎日が忙しくて、色んなことがあった。ぶつかる事もあったし、言い合いになる事もあったけど、それがあったからこそ今がある。
俺たち皆が切磋琢磨した『インペリオ』、絶対成功させるぞ!ラストまで走り抜けよう!」

「「「「「オォーーーーー!!!!!」」」」」

昴君の掛け声に皆が答える

ヤバい、さっきは緊張してたのに今は凄くワクワクしてる

僕のその様子がわかったのか、叶さんがニヤリと笑った

僕もニヤリと笑い返す


皆持ち場に向かい、僕は出番まで大きなソファと舞台を映しているテレビが置かれたフロアに居とくことにした

舞台が始まる

まずはプロジェクター映像が映し出されて時代の解説が入る

それが終わると幕が開く


『私は長年の夢だった『インペリオ』の大陸をついに発見した。
海底火山が何度も噴火し、海に沈んだと言われていた『インペリオ』が海上に姿を現したのだ』

叶さん演じる学者が舞台の真ん中で客席に語りかける

長年の夢だった『インペリオ』を見つけた彼は嬉しいはずなのに声は沈んでいた

『私は......調査中、神殿らしき建物の地下からある物を発見した。
それがこれだ。』

学者の手には一冊の本

『建物の地下は、海底に沈んでいたのにも関わらず、海水が入ることも無く密閉され、当時のままの姿を保っていた。
1つ目の部屋には寄り添うように2体のミイラ、その奥の部屋には大きな棺が置かれ、抱きしめ合う2体のミイラが眠っていた。
この本はその棺のミイラが持っていたものだ』

悲しげな表情の教授の言葉に、観客は既に引き込まれている

『初めて見る文字に、私は文字の解読を行うことから始めた。
そこから3年......私はついに解読に成功した。
この本は......物語でも........史書でもなく...日記だった。
彼女...『インペリオ』の姫ラーニャが残したこの日記には、インペリオが消滅する最期の時迄が書かれていた。』

日記を抱きしめ、震える声に見ているこちらが苦しくなってくる

『私は彼女達の人生を公にしていいものか悩んだ......しかし、彼女が何故この日記を書き残したか......
私は知って欲しいと思う。
彼女達が海へ沈んだ時、何を見、何を感じていたのか......彼女達の思いを知って欲しい...』


スポットライトが消え暗転する









「ヤバい!化粧落ちちゃったー」
「しょうがないよ…どんだけ泣かせるのこの舞台...水分補給しなきゃ」

「もー!どの場面も良すぎ!!絶対DVD買わなきゃ!」
「まだ後半残ってるのに、やばいよね...これからどうなっちゃうんだろ...感情移入しすぎて胸が痛いんだけど」

「グッズ売り切れちゃう!もう全買いしなきゃ!!」
「売り切れてるやつは、舞台が終わったら補充されるって!!」


前半が終わり、20分の休憩が挟まれる

普通の舞台は10分休憩だが、PFP主催の舞台は20分休憩を取るのだとか

控え室にいても聞こえてくる観客の声に、楽しんでくれているのがわかり嬉しくなる

僕の出番は後半が多い

主演の2人は殆ど出ずっぱりなので体力が削られているのが見てわかるから、手が空いてる人がサポートするようになった

「昴君、これで首冷やして」

保冷剤を包んだタオルを渡し団扇で仰ぐ

「ありがとう...観客の熱気凄いね。メッチャ声聞こえてくる」

嬉しそうに笑う昴君に頷く

「グッズもさっき全部売れちゃったってスタッフさんが言ってたよ。今夕方の分を回してもらうよう手配してるらしい」

「マジか!凄いね!俺達も頑張らないとな!」

「だね!」


役者達も、まだ1日目だと言うのに熱量が高く後半も前半を上回る演技力で走り抜けた

カーテンコールが終わり、アンコールのカーテンコールを2回行った

スタンディングオベーションで観客は僕達に割れんばかりの拍手を送ってくれた

映像とは違う、観客の温度を直に感じることの出来る舞台の魅力を知った初舞台となった

公演初日のインタビューを受けた後、各々マッサージを受けたり、寝たり、喋ったり、仕事をしたりと午後の部が始まるまで過ごした

僕はマッサージを受けたあと、雑誌のインタビュー記事の確認をしたり、ファンクラブ専用のSNSにアップするブログを書き頼さんに確認してもらっていた

午後の部が始まる前に、グッズ売り場は既に長蛇の列で、事前に何を買うか確認してみた所用意している分だけじゃ足らないらしい

こんな事、PFP主催の舞台では初めての事らしく、予約されているDVDの数も凄い数になっているらしい

その為、グッズは届くまで日数はかかるがネットでも購入可能にしようと話が先程上がり、DVDの方も特典として裏方をしている役者達を映した稽古場のDVDも付くことになった

その事が発表されると、裏方の子達のファンがDVDを予約し始め、事務所は業者さんともっといい物を作ろうと再度会議を開いた





「舞台ってこんなに凄いんですね。見に行ったこと無かったから驚きました」

「私もこんなの初めてだよ?グッズが全て完売とか、DVDの予約の数とか信じられないもん。」

平野さんが生クリームがたっぷり乗ったストロベリーチョコペチーノを飲みながら答える

「そうなんですか?」

「そうなんですよ?どんなに人気な舞台でも、ライブとかでもここまで凄いの聞いたことないよ」

「へ~......」

「それにね、他の子達に聞いたけど、あの生放送の後とゲネプロの後から仕事の依頼が増えてる人が多いみたいだよ?」

「あぁ...僕も聞きました。叶さんなんて4年先までスケジュール入っちゃってますよ」

「えー!?凄いねぇ......」

「あの人はきっと別次元で生きてるんだと思います」

「確かに...でもかなちゃんも予定びっしりでしょ?」

「うーん......そうらしいです」


そう、僕もスケジュールが埋まってる

俳優業だけじゃなく、モデルの仕事もスタートしていて、来年から連続ドラマが2本、映画が2本、舞台が1本、月間のファッション雑誌が2社に、事務所の年間舞台と写真集の撮影が既に決まっている

頼さんが無理をしないように、大学と両立できるようにとセーブして選んで組んだらしい

断った仕事は、まだ期限があるから可能ならお願いしますと言われているそうだ

因みに頼さん曰く、色々な分野からオファーが来ている時に手当り次第仕事を受けてはいけないらしい
そうすると、常に人前に『相田彼方』があり、一般人が飽きやすくなるんだとか
路線をちゃんと搾って、いつオンエアか、発売日か確認した上で仕事を取ってくれているらしい

芸能人が売れるのは、その人の人気も大事だけど、売り方1つで色々変わるらしい

奥が深いなぁ......


「そう言えば、公演後の生配信の場所だけど、今日は最初の挨拶をしたらプライベート公開ってことで、スタッフさんが楽屋に来るって言ってたよ」

「え...そうなんですか?!」

これから毎日ソワレ終了後、SNSの特設ページで生配信がある

初日の今日は皆で、明日からは2人づつペアで出る事になっている

生配信と言っても30分くらいだけど、アーカイブも残さないので呟き上には『待機しないと!』とか『楽しみ!』とか書かれていた

「皆シャワー浴びるから、まずは主演2人からって言われたけど、他の人は自分の所に来るまでに化粧を落としたりシャワーを浴びても良いって」

「順番とかはどうなってるんですか?」

「後でスタッフさんが楽屋の扉に順番表を貼っといてくれるらしいよ」

「そうなんですね、なら確認しとかないといけませんね」



ソワレはマチネ以上の盛り上がりを見せた

舞台のネット配信はソワレだけで、舞台終了直後の呟きは#インペリオがトレンド入りしていた

終演後の舞台上で、生配信の準備をする

水分補給をしたり、汗を拭いたりしている姿が既に配信上に映ってはいるが、音はまだ載せられていない

「準備はOKですかー?」

事務所のスタッフさんの声に皆1箇所に集まってくる

主演の2人を囲むように2列に並ぶ

裏方を担当したメンバーも全員が揃ったところでスタッフさんから合図が送られる

「「「「「「こんばんわー!!」」」」」」

合図に合わせて皆でまずはご挨拶

「えー、今しがた初日のソワレが終了しました!ネットで見てくれた人、会場に足を運んでくれた人、ありがとう!!」

「これから見てくれる人、チケットは取れなかったけどDVDを予約してくれてる人、楽しみにしててね!!」

主演の2人がそう挨拶すると、チャット欄にはコメントがすごい速さで流れる

「うわー……コメント早すぎて読めない……」

「コメント凄いねぇ!皆ありがとう!」

「これから、俺達の舞台裏とインタビューがあるからねー!」

出演者達がそう声をかけるとコメントがさっきよりも早く流れていく

「まずは主演の2人のインタビューだよ。私達は楽屋に居るからまた後で会おうね」

ニッコリ微笑んでそう告げる叶さんに、コメント欄は一気に『響ー!!』とか『響カッコイイ!!』とか『響最高!』とか同じ感じのコメントで埋まった

「うわ~……流石叶さん……」

若干引き気味の共演者に響さんは苦笑いだ

あとの進行は主演の2人に任せて僕達は楽屋に戻る

僕のインタビューは5番目で響さんと一緒だ

本当はガイア役の六花とインタビューを受ける予定だったが、六花がこの後仕事があって2番目にインタビューを受ける事になってしまった為、一緒に帰宅する叶さんとのインタビューになった


先にシャワーを浴び、舞台メイクや汗を流した

シャワーブースから出ると、叶さんも出た所なのか上半身裸でドライヤーをかけていた

叶さんの上半身を見るのはこれで3度目

シックスパック以上に割れた腹筋に盛り上がった胸筋

腰もガッシリしていて僕とは正反対な体型だ


「彼方?」

つい見惚れてガン見していたら、ドライヤーをしまいながら戸惑った顔で叶さんがこっちを見ていた

「あ…凄い筋肉だね……僕とは正反対だ」

「ん?…ああ、一応鍛えてるからね?」

「え?いつ?」

そんな時間あるのか??

叶さんはクスッと笑って、僕の首にかかっているタオルに手をかけるとガシガシと僕の頭を拭く

「仕事の合間に加圧トレーニングに行ったり、待ち時間に筋トレしたりしてるんだよ」

「へ~…」

それだと休憩なんてする暇ないんじゃ?


「そろそろ楽屋に戻らないと、インタビュー来そうだな」

「もうそんな時間?」

時計を見ると既に30分は経過していた

「髪は楽屋で乾かそう」

「うん」

サッと服を着て僕達は叶さんの楽屋へ戻った


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