幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ

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もしかして最強?


人混みの中で少年に押されて尻もちをついたまま、私は一瞬何が起きたのかわからず呆然としていた。

けれど――その少年の動きが、ふと止まった。

まるで、心臓が一拍遅れて思い出したみたいに。
少年はその場で硬直した。

そして次の瞬間。

少年は、私にひざまずいた。

「……大丈夫かい? ごめんよ、マドモアゼル」

……は?

さっきまで暴君だった少年が、
今は舞台の王子様みたいなスマイルで明るい緑色の瞳をきらめかせて、私に手を差し伸べている。

いや、背中にきらきらエフェクトついてません?
今なら花が咲き乱れてても疑わない。

護衛たちは、全員そろって口をポカンと開けていた。

知ってる、今の顔「何が起きた???」って顔だ

私も似たような顔をしていたと思う。

気が付いたら、少年はとても丁寧な手つきで私の腕を取って、立ち上がらせてくれていた。

「先ほどは……取り乱してしまった。道を急いでいたとはいえ、非礼だった。お怪我は?」

「い、いえ……その、私は大丈夫でございます、です?」

少年は微笑むと、そっと私のスカートについた埃を払った。

さっきまでの暴れていた彼はどこへ。

護衛たちがようやく動き出す。

「ぼ、坊ちゃま、どうされ……?」

「行こう。これ以上ここにいては、邪魔になってしまうだろう」

声のトーンまで紳士である。
誰!? さっきの誰!?

そのまま少年は振り返らず、颯爽と馬車の方へ歩き去った。

背中からまだ後光が差していた気がする。

……いや、ほんとに。

残された私たちは、ほぼ固まっていた。

「……なんだ、あいつ……」

兄様がぼそりと呟いた。

「リナの可愛さに心が洗われたんじゃないか?」

父様が真面目な顔で言う。

「そんなわけないでしょう」

「まあそうだな! ハハハハハ!」

父様と兄様は笑って終わらせようとしているけど、私は心臓がバクバクしていた。

ちょっとまって、

さっき、私は――魔法を使っていた。

ほんの一瞬、反射的に、だけど確かに流れた。

……もしかして

性格の悪さを、治した……?

そんな都合の良い話があるわけ……
いやでも、さっきの変わりようはどう見ても普通じゃなかった。

そんなことができるなら――

世界中の人が、みんな優しくなる。
争いも、憎しみも、いじめも、全部なくなる。
全部、私の思い通りに――

「…………最強じゃない?」

思わず小声が漏れる。

「ん? リナ何か言ったか?」

「いえ、少々……試したいことがありまして」

私は兄様の袖をきゅっとつまんだ。

「兄様、しゃがんでください」

「ほい?」

兄様は素直にしゃがんだ。
さすが脳筋、疑わない。

私は、さっきの時と同じように、心の奥に小さな光を思い描き、兄様の肩に触れた。

すっ……

魔力が、流れる。

「……どうですか?」

「おお……なんか体が軽くなったな! 疲れ取れたわ! ありがとな!」

「性格は?」

「は?」

兄様はいつもの元気な笑顔のままだった。

……うん、変わってないね。

次は父様。

「父様、こちらに手をどうぞ」

「お? なんだ、また何かくれるのか?」

そっと魔力を流す。

「ああ~、腰が楽になった……! リナは本当にすごいなぁ!」

「……性格は?」

「うん?」

父様も、やっぱり変わらない。

……なんで?

あの貴族少年には効いたよね?
父様と兄様は私の魔法で少年の性格が変わったとは思ってないみたいだし、兄様と父様に同じように魔法をかけてもまったく変化がない。

「リナ?」

「……少々考え事です」

もしかすると――

“本当に悪い人”にしか効かないのでは?

だとしたら。

やっぱり、あの少年、性格が悪かったのだ。根っこから。

私はそっと深呼吸した。

……うーむ、父様のぼったくられ癖だけは治って欲しいんだけど。

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