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また馬車
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翌朝、セリナとヴィリオは森の中で目を覚ました。昨夜も木々の間に生やした蔦と葉っぱテントの下でぐっすり眠れた。朝露がきらきら輝く中、彼女は肩で丸まるヴィリオの頭らへんを軽くつついた。
「ヴィリオ、おはよう。今日も良い天気よ。」
ヴィリオの体の葉っぱがふわっと広がりそしてもとのまん丸に戻った。それはヴィリオなりの「おはよう」の挨拶だろう。
朝ご飯には、昨晩商人たちからもらった乾燥果物をかじった。
かじりながら、これはセリナにも作れるなと思ったので、その日は果物や野菜を乾燥させながら歩いていた。
そして夕方になり、そろそろ今日の寝床を決めようかというところで、セリナはふと気づいた。
「…あれ、何か聞こえない?」
森の先から、人の声が聞こえてきた。耳を澄ませると、どこか聞き覚えのある声だ。
「まさか…昨日の商人たち?」
セリナはヴィリオをとともに声のする方へ向かった。
「最悪だ。どうすればいいんだ。」
開けた場所に出ると、そこには昨日の商人達が護衛達とともにいた。
「あら、また会いましたね!」
セリナが声をかけると、商人たちは驚き顔で振り返った。
「お嬢さん!昨日助けてくれた…またお会いしましたね。」
彼らの間には何とも言えない気まずそうな空気が漂っていたが、セリナは笑って手を振った。
「どうなさったのですか?」
状況を聞くと、どうやら水場が枯れていたらしい。近くに川もなく、この水場をあてにしていただけに馬にやる水もなく困っていた。彼らの中にも水が出せるものはいるが、ほんの僅かだ。
セリナはすぐに水袋のなる植物をはやした。なんだか前よりひとつひとつの水袋が大きいし、たくさんの水袋がなっている。
「おお、すごい!さすがだ!」
商人たちは拍手を送り、セリナは「どういたしまして」と笑顔で応えた。
商人や護衛達が馬に水をやったり、水袋から水を飲むのを見ながら、商人たちのリーダーらしき中年の男がセリナに申し出た。
「お嬢さん、よかったら、俺たちの馬車に乗らないか?お嬢さんみたいに魔法つかいさんが一緒だったら心強いし、それにこの先の森には強い獣も出る。お嬢さんが1人歩くには危険だと思うんだ。」
「えっ、一緒に?」
セリナは少し驚いた。これまではヴィリオと二人だけの静かな旅だったからだ。だが、森の道は確かに危険が多い。
「…じゃあ、お言葉に甘えます!」
こうして、セリナとヴィリオは商人たちの馬車に同乗することになった。
馬車の旅は思った以上に賑やかだった。商人たちマルコ商会という商会でセリナの目的地でもある南の辺境領に店を構えているとのことで、頻繁に王都に仕入れに行っているらしい。
「この辺りは盗賊も多いんだが、今のところ運がいいみたいだ。」
彼らの話を聞いていると、セリナは自分がまだ知らない世界がたくさんあることに気づいた。
その一方で、ヴィリオは馬車の端で荷物の上に座り、何やら満足げだ。
「ヴィリオ、何だか偉そうじゃない?」
セリナが笑いながらつつくと、ヴィリオの葉っぱがセリナの指をはらうように揺れて、また、笑ってしまった。
旅の途中、難所に差し掛かった。馬車が急な坂道を上らなければならない。重い荷物を積んだ馬車は、どうしても坂の途中で止まりそうになってしまう。
「草を生やしたらどうかしら。」
セリナは地面に手をかざし、街道端の雑草を坂全体に生やした。そして、馬車を引く馬たちには植物魔法で作った栄養のある果物を与えた。
「これを食べてがんばって。」
馬たちは果物を喜んで食べ、力強く坂を登り始めた。商人たちはまたしてもセリナの魔法に感嘆した。
こうして、彼らは数日後、無事に南の辺境に到着した。馬車を降りたセリナは商人たちに向かって深く頭を下げた。
「皆さんのおかげで楽しい旅ができました。ありがとうございました!」
「いやいや、こっちこそ。お嬢さんがいなけりゃ、今頃まだ森で泥に埋まってたかもな。」
商人たちは笑いながらセリナに手を振った。
「ヴィリオ、おはよう。今日も良い天気よ。」
ヴィリオの体の葉っぱがふわっと広がりそしてもとのまん丸に戻った。それはヴィリオなりの「おはよう」の挨拶だろう。
朝ご飯には、昨晩商人たちからもらった乾燥果物をかじった。
かじりながら、これはセリナにも作れるなと思ったので、その日は果物や野菜を乾燥させながら歩いていた。
そして夕方になり、そろそろ今日の寝床を決めようかというところで、セリナはふと気づいた。
「…あれ、何か聞こえない?」
森の先から、人の声が聞こえてきた。耳を澄ませると、どこか聞き覚えのある声だ。
「まさか…昨日の商人たち?」
セリナはヴィリオをとともに声のする方へ向かった。
「最悪だ。どうすればいいんだ。」
開けた場所に出ると、そこには昨日の商人達が護衛達とともにいた。
「あら、また会いましたね!」
セリナが声をかけると、商人たちは驚き顔で振り返った。
「お嬢さん!昨日助けてくれた…またお会いしましたね。」
彼らの間には何とも言えない気まずそうな空気が漂っていたが、セリナは笑って手を振った。
「どうなさったのですか?」
状況を聞くと、どうやら水場が枯れていたらしい。近くに川もなく、この水場をあてにしていただけに馬にやる水もなく困っていた。彼らの中にも水が出せるものはいるが、ほんの僅かだ。
セリナはすぐに水袋のなる植物をはやした。なんだか前よりひとつひとつの水袋が大きいし、たくさんの水袋がなっている。
「おお、すごい!さすがだ!」
商人たちは拍手を送り、セリナは「どういたしまして」と笑顔で応えた。
商人や護衛達が馬に水をやったり、水袋から水を飲むのを見ながら、商人たちのリーダーらしき中年の男がセリナに申し出た。
「お嬢さん、よかったら、俺たちの馬車に乗らないか?お嬢さんみたいに魔法つかいさんが一緒だったら心強いし、それにこの先の森には強い獣も出る。お嬢さんが1人歩くには危険だと思うんだ。」
「えっ、一緒に?」
セリナは少し驚いた。これまではヴィリオと二人だけの静かな旅だったからだ。だが、森の道は確かに危険が多い。
「…じゃあ、お言葉に甘えます!」
こうして、セリナとヴィリオは商人たちの馬車に同乗することになった。
馬車の旅は思った以上に賑やかだった。商人たちマルコ商会という商会でセリナの目的地でもある南の辺境領に店を構えているとのことで、頻繁に王都に仕入れに行っているらしい。
「この辺りは盗賊も多いんだが、今のところ運がいいみたいだ。」
彼らの話を聞いていると、セリナは自分がまだ知らない世界がたくさんあることに気づいた。
その一方で、ヴィリオは馬車の端で荷物の上に座り、何やら満足げだ。
「ヴィリオ、何だか偉そうじゃない?」
セリナが笑いながらつつくと、ヴィリオの葉っぱがセリナの指をはらうように揺れて、また、笑ってしまった。
旅の途中、難所に差し掛かった。馬車が急な坂道を上らなければならない。重い荷物を積んだ馬車は、どうしても坂の途中で止まりそうになってしまう。
「草を生やしたらどうかしら。」
セリナは地面に手をかざし、街道端の雑草を坂全体に生やした。そして、馬車を引く馬たちには植物魔法で作った栄養のある果物を与えた。
「これを食べてがんばって。」
馬たちは果物を喜んで食べ、力強く坂を登り始めた。商人たちはまたしてもセリナの魔法に感嘆した。
こうして、彼らは数日後、無事に南の辺境に到着した。馬車を降りたセリナは商人たちに向かって深く頭を下げた。
「皆さんのおかげで楽しい旅ができました。ありがとうございました!」
「いやいや、こっちこそ。お嬢さんがいなけりゃ、今頃まだ森で泥に埋まってたかもな。」
商人たちは笑いながらセリナに手を振った。
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