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お弁当箱に

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お弁当には、何を詰めようか?

赤いタコやカニ型に切ったウィンナー、甘い卵焼き、プチトマトに茹でたブロッコリー、肉団子、切り干し大根の煮物、海苔の段々のオカカ昆布のご飯、ちくわの磯辺あげも好きだ。この辺がスタンダードだと思うのだ。

三色弁当も良い。炒り卵と茹でて細切りにした絹サヤとそぼろのやつ。サクラデンブや甘いお揚げか椎茸もくわえて5色にしてもと思ったが、それならちらし寿司にするのもいいな。冷めても美味い。


サンドイッチもいい。トマトとチーズの相性は絶妙だ。キャベツの千切りは時間が立つと厳しいがハムカツサンドもいい。ハムは薄いほうがいいかもな。

コッペパンに、焼きそばやナポリタンもいい。ナポリタンは日本産まれでイタリアのナポリにはないのだが赤岩は、ナポリタンも美味しいと思っている。普通より麺が太く柔らかいし味が濃いがパンに挟んで食べるにはそのほうが馴染む。


デザートや飲み物は何がいいだろうか?

ウサギリンゴが定番だが、買えば高いけど琵琶もいいな。琵琶なら、自宅の庭に生えているのをシロップに浸けたやつがある。飲み物は、麦茶でいいだろうか。


茄子の煮浸し、麻婆茄子、茄子とチーズのオムレツetc.となぜか茄子料理ばかりを作りまくる結羽を横目に俺は自分が神崎先輩に差し入れる弁当を何にするか考えたあとで、自分が普段は食べるだけで料理した経験がないことに思い当たったが…。やってみた。

まずは、卵焼きを作ってみることにした。
こんと軽くボウルの内側で叩いて片手で割り、中身を入れる前にもう片方の手で卵の殻でカラザをとる。よし、普段の親父のやり方を真似ただけだが一発で上手くいった。
ほんのわずか、ちょっといい地元の酒蔵の日本酒と上白糖をこさじ1杯と塩も微かにいれて軽めに混ぜた。みりんは今回はいいか。砂糖入れたしな。

四角いフライパンに弱火でキッチンペーパーも使って軽くサラダ油を引く。卵液を3分の1ずつくらいいれて軽く火が通ると菜箸で寄せては、卵液を足してを繰り返して焼いてみた。よしよしいい感じに焼けた。ポンと皿に乗せてしばし待って冷めてから切ったら中は綺麗な断面。成功だ。

端っこを食べてみたら、うん、美味い。案外、見たことのある動きを真似てみたら出来るもんだな。

赤いタコさんウィンナーも問題なく出来た。が、そこまでだった。結羽が大量の料理を先に作っていたのでそれも少しずつ詰めたら弁当のスペースが残らなかったのだ。

「すまん、結羽ほとんどお前が作っていたな。」

「赤岩くん、ホントに初めてだったの?これ、1つもらうね。」

パクっと卵焼きを食べた結羽は、美味しいよ。と誉めてくれた。こんなん、誰にでも出来るだろう?
卵焼きは、基本だというしな。


可愛いらしいウサギの柄の弁当箱に詰めて箸とデザートのタッパーものせて綺麗なバンダナで包んで用意したもの。

結羽と一緒に3年生の教室に昼休みすぐに向かった。そして…。


「カナエ先輩…、これ、食べてください。その、俺倒したいやつはまず胃袋で落とせと父さんに言われてるんです。まずは、これ、食べて元気になってください!」

俺のバカ!何だよ、それ、テンパって変なこといっちまったぜ!

「ごめん、悪いけどひどい夏バテとエビアレルギーに突然なったせいで食べる気力がでないんだ…。」

「隙有りですっ!」結羽が開いた口に卵焼きを一切れ押し込んだ!

むう、もぐっ…ゴクン。

あ、食べてくれた。俺が、初めて作った卵焼き。

「美味しい…。」とぽつりと言って。

そのあと、叶先輩は箸をもって俺らが作ったものを結局ほとんど全部食べてくれたのだった。

「心配してくれてありがと。赤岩くん。君、いい料理人になれそうだね?目指してみたら?」とまで言ってくれたのだった。

もう作らなくていいと言われるまで作り続けて彼を太らせねばと謎の使命感に燃えた。

俺が、料理人を目指す切っ掛けはこの時の出来事だった。












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