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クロト少年の受難

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 『待ちやがれ!ジャポーネ!』

彼は、悪漢に追われていた。ぶつかってきた若い男に治療費やらクリーニング代やらを払えといわれて仕方なく、財布とは別に用意してあった端金で済ませようと譲歩したのだ。命有っての物種なので、普通の観光客ならば、その場はそれでなんとかなるのだが。

 育ちの良さそうな見目の良いお金持ちに見える異国の少年(実年齢より3才は多分若く見えているのだろう。)なんて、彼らのようなチンピラにとっては、絶好の鴨だった。


欲をかいたやつは、彼を誘拐するつもりなのか、性欲を発散させようとしたのか、あるいは両方かは知りたくもないが、その金額では、満足せずにとにかく因縁をつけて、彼を捕まえようとした。

彼は、肩からの体当たりを喰らわせたあとで逃走したのだが、運悪く巡回してる警邏にも行きあたらなかった。

支倉少年は、このときはまだ16才だった。若木のように健やかで瑞々しい肢体。艶やかな黒髪に榛色の瞳を潤ませた色気のある涙ほくろの美少年は、健脚を持ってしても不慣れな土地勘に複雑に入り込んだ路地裏のどん詰まりにいつのまにやら追いやられてしまった。
 
『よう、追い駆けっこは終わりかい?黒い仔猫ちゃん?』キティなんて呼ばれるのは屈辱だ。さっきから追いかけていたやつの仲間らしい優男に回り込まれたようだった。


彼は、まだ諦めていない、ダンダンダンとゴミ箱や壁などをけって跳んで走りぬけた。

ピュイと後ろから口笛と囃し立てる男の声が聞こえた。そして、もう少し明るくて広い場所にこれた。

ここまで、くれば大丈夫か。安堵したら脚が縺れた。

 その時、ふいに一番近くにあるアパートメントの扉が開き日本語で「あんた、日本人だよな?大丈夫か?助けはいるか?」と声をかけられた。

赤茶いろの髪がツンツンした短髪の、かなり背の高い厳つい顔の青年?だったが小さな薄茶の目と表情と声は優しかった。少しあどけない顔だからもしかすると、日本人とのハーフなのかもしれない。

「あぁ…ありがとう。すまないがっ、少し匿ってくれないか…ちょっと、変なやつに追いかけまわされてっ家に帰りたいんだが、道がわからないんだ。」
息がきれる。正直休みたい。馴染みのある日本語に涙が出そうになる。

「早く入ってくれ。」注意深く辺りをみまわした青年は、支倉少年を家の中に招き入れてくれた。

電話でタクシーを呼んでくれたり、ミルクティーを振る舞ってくれたりと、とても、親切な青年だったが、話をしているうちに相手が驚いたことに1つ学年が下の同じくらいの年で昔住んでた場所も近いことがわかり急速に仲が良くなった。

それが、支倉玄人と赤岩久太との出会いだった。
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