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第3部 〝ペットテイマー〟、〝オークの砦〟を攻める プロローグ 強くなったペットたちと旅から持ち帰ったもの

72. 特殊変異個体の素材の検分

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 私がドラマリーンから戻って1週間ほどたったある日、ケウナコウ様やサンドロックさんに呼び出された。
 なんでも私が狩り取ってきた特殊変異個体の素材を検分したいんだって。

 場所は冒険者ギルドの素材倉庫を貸し切り。
 素材を出すスペースもそうだけど、他の人にはあまり知られたくないそうな。
 本当はミーベルンも連れてきたかったんだけど、それも断られてしまったよ。
 やってきた冒険者ギルドの素材倉庫にいたのはケウナコウ様にサンドロックさん、デレック様、それにアダムさんとその奥さんだね。

「ご苦労。呼び出してすまなかったな」

「いえ、毎日妹とウルフ狩りに行っていたくらいですので。それで特殊変異個体の素材を検分するんですよね? かなりの量になりますが構いませんか?」

「ああ、構わないとも。アダムとリヴァも呼んである。どの程度の品物か確認してもらえ」

 アダムさんは言わずとしれた私行きつけの武具屋の職人さん。
 とても腕が良くて、私が普段身につけているキラーヴァイパーのレザーアーマーだけじゃなくて、いま使っているオリハルコンのダガーもアダムさんの作品なんだって。
 オリハルコンまで扱えるだなんてすごいよね。

 リヴァさんはアダムさんの奥さんで錬金術師。
 普段はアダムさんのお店で店番をしているけど、本当はとっても凄腕でアダムさんが使う素材を作る役目を担っているんだとか。
 店番しかしていない理由は、自分の腕を振るうような素材が滅多に手に入らないかららしいよ。

「それではまず、フォーホーンブルから出していきます。お肉も出しますか?」

「そうだな。念のため出してくれ。食用以外の使い道があるかもしれん」

「では。この倉庫でぎりぎりのサイズですから気をつけてください」

 私はフォーホーンブルから取れた素材一式を倉庫内に全部出した。
 フォーホーンブルの素材は頭部と表皮、骨、各部位のお肉、蹄だ。
 それらを見てみんな驚いているよ。

「……こんな大物を倒していたのか」

「フォーホーンブルの特殊変異個体ってのは恐ろしいなぁ」

「いやはや、ドラマリーンの側にこのような化け物が存在しなくて助かった」

 ケウナコウ様にサンドロックさん、デレック様が三者三様の感想を漏らす中、アダムさんとリヴァさんは早速とばかりにそれぞれの状態確認や強度の確認をしている。
 皮などは端っこをナイフで突き刺してみたり削り取ろうとしたりしてみながら、一通り確認が終わって戻ってきた時のアダムさんとリヴァさんの顔はとっても悩ましげだった。
 ふたりでも扱えないような素材なのかな?

「どうだ。お前たちで取り扱えないか?」

「これだけじゃ無理だ。皮が固すぎる。オリハルコンのナイフで傷をつけようとしたり削り取ろうとしてみたりしたがまったく意味がなかった。別のなにかで軟らかくする必要があるな」

「あたしの腕でもお手上げだね。骨も頭部もまったく魔力が通らない。使えそうなのは、肉がそのまま超高級な食肉として扱えるだけだね」

「なるほど。シズクよ、この肉をあとで少し買い取らせてくれ。他の貴族振る舞う料理や国王陛下への手土産としたい」

 国王陛下への手土産!?
 そこまで価値があるの!?

「そ、そういうことでしたら、どうぞ。私には普通のフォーホーンブルのお肉も大量にありますので」

「そういや、シズクにはそっちもあったな。今度、キラーブルの肉と合わせてギルドに少しずつ売ってくれ。一度に大量に流すわけにもいかねぇ。頼めるか?」

「構いませんが……どっちも高級品ですよね?」

「キラーブル1頭分の肉でも状態がよければ金貨30枚はいくな。シズクの狩り方だ、状態が悪いなんてことはないだろう?」

「すべて首を切断して一撃です」

「なら状態は最高だな。デレック、お前もいくらか買っていくか?」

「残念だが今回は大容量のマジックバッグを持ってきていない。だが、フォーホーンブルやキラーブルの肉が1頭買いできるとあれば私自ら出向くだけの価値はある。いずれ買いに来させてもらおう」

「だとよ。確か百単位で狩ってきてるって聞いてるし、お前、その金だけでも大金持ちだぞ? それこそ、もう一生働かなくてもいいくらいな」

「うぅ……でも、ウルフ狩りはやめません!」

 私、知らない間に大金持ちになってる!
 でも、街のみんなのためにウルフ狩りはやめないもん!

「では、肉の取り扱いも決定だな。ああ、シズクよ。さすがに我が家でもこれだけ大量の肉を買い取ることはできぬ。すまないが必要なときに必要なだけ買い取らせてくれ」

「かしこまりました。ケウナコウ様の言う通りにします」

「頼んだぞ。それでは一度これらの素材はしまってくれ。素材倉庫いっぱいの状況では次の素材を出せまい」

「はい。他の特殊変異個体の素材も倉庫が埋まるくらいです」

「特殊変異個体ってのは大物が相場だからな。次は、キラーヴァイパーを頼む」

「わかりました」

 頼まれたキラーヴァイパーの特殊変異個体素材を倉庫に並べてみた。
 キラーヴァイパーの素材は皮にお肉、血液、骨、牙だ。
 これもアダムさんとリヴァさんがいろいろ調べ歩いて結果を伝えにきた。

「キラーヴァイパーの皮はこいつの血液を素材に錬金術で錬成したなめし剤を使えば皮素材にできそうだよ。ついでに、こいつの血液のなめし剤でさっきのフォーホーンブルの皮もなめすことができそうだ」

「フォーホーンブルはどうやって切るのかって問題があるが、そこは道具を持ってるからなんとかしてみせる。血液の量的にも両方をなめしてまだ余るそうだしよ」

「それは助かるな。それで、皮の強度は?」

「皮の時点ではオリハルコンで切れる。だが、なめし終わったあとの革になると特殊な道具じゃないと裁断できなくなるだろうな。だが、キラーヴァイパーの特性である柔らかさと強靱さ、それは残りそうだから最上級の革鎧ができそうだ」

「そいつは頼もしい。骨と肉、牙はどうなんだ?」

「骨も非常に頑丈だな。ただ、デカブツ過ぎて使い道に困る。母ちゃんの錬金術で小さく圧縮してもらい、頑丈な柄をくっつけて槍にするのが一番だろう。牙は研いでナイフに、肉は……食用にしかなんねぇ。こいつはシズクの嬢ちゃんに返却だ」

「牙のナイフか。切れ味はどれくらいになる?」

「正直わからん。研磨も難しいだろうから、〝オークの砦〟攻めには間に合わないことは確かだ。突き刺すタイプのナイフとしてならなんとか間に合わせるが」

「ふむ、他の装備との兼ね合い次第だな。そして、シズク。すまないが、キラーヴァイパーの肉も買い取らせてほしい」

「わかりました」

 ひーん!
 キラーヴァイパーのお肉もたくさんある!?
 私、本当にお金持ち直行!?

「さて、次が最後か。ヴェノムヴァイパーの素材を出してもらいたい」

「はい。今度こそ特別な素材でないことを祈ります」

「いや、特殊変異個体の時点で無理だろ?」

 私は諦めの境地でヴェノムヴァイパーの素材を並べた。
 これの素材は皮、肉、骨、牙、目玉だ。
 でも、なんで目玉が解体品なんだろうね?
 しかも4つあるし。

 それで、リヴァさんはすぐに目玉を検分しに行って……少し確かめると私のところに戻ってきた。
 なにがあったんだろう?

「シズクちゃん。あの目玉4つすぐにしまいな。そして、今後二度と誰にも見せるんじゃない」

「え?」

「あの目玉は呪眼だ。生きているときに見つめられれば猛毒、石化、麻痺、昏睡の呪いにかかる。あんなのよく倒せたね?」

「ええと、眠っていたところを空から飛び込んで頭を一突きでしたから……」

「なるほど。これからは特殊変異個体と戦うときは慎重にね。まともに戦ってたら間違いなく死んでたよ」

 ひぃ!?
 そんなに強い相手だったの!?
 私、頭も柔らかいし楽な相手程度にしか考えていなかったのに!?

「それで、リヴァ。あの目玉を素材として使った場合の効果は?」

「武器に付与剤として使うことで猛毒、石化、麻痺、昏睡の呪いを与えられます、ケウナコウ様。ただ、目玉ひとつでロングソード一本分。存在していることが世に知られること自体、まずい代物でございます」

「わかった。シズク、あの目玉4つはお主が《ストレージ》内にて保管せよ。そして、二度と取り出すな。あれの存在を他に知っている者は?」

「えーと、私がヴェノムヴァイパーの特殊変異個体を倒したあと立ち会ってくれたドラマリーン冒険者ギルドのコーツさんくらいだと」

「デレック、コーツという人物は口が堅いか?」

「もちろんです。仕事で知った内容は決して他人に漏らしません」

「わかった。戻ったらデレックからも口止めを頼む」

「承知いたしました」

「それでは私は他の素材を検分して参ります」

 あの目玉、そんな危険物だったなんて……。
《ストレージ》の中にしまい込んで存在自体忘れよう。

 リヴァさんが検分に戻って行き、アダムさんと一緒にすべて調べ終わるとこちらに戻ってきた。
 これ以上、危険物が含まれていませんように!

「アダム、リヴァ。検分結果は?」

「おう。まず皮だが、なめせば非常に頑強な劇毒耐性持ちの革鎧にできるな。頭から毒液をぶっかけられようが、毒の湖に沈もうが毒の影響を受けることはなくなる。そんだけすごい素材だ」

「骨と肉、血液は錬金術素材で添付薬にできそうだ。砕いた骨を血液に入れてかき混ぜ、それを肉と一緒に錬成する。そうすることで、呪いの無効化や各種魔法耐性を備えることができる素材にできそうだね。炎や冷気、電撃なんかもある程度防げるはずだよ」

「さっすが特殊変異個体の素材。牙はどうなんだよ?」

「牙か。ちょいと扱いが難しいな。中に毒腺が残っていて、突き刺せば本来の劇毒で攻撃できるだろう。だが、だからこそ削ることもできねえ。槍の穂先にしか使えねえし、毒が振りまかれちまうと危険すぎるから、目玉と同じ扱いでいいだろう」

「だとよ。シズク、牙もしまえ」

「はい」

 牙も危険素材だった……。
 特殊変異個体って魔力を鍛えるのにはいいんだけど、素材の扱いには困るみたい。
 今後見つけたらどうしよう。
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