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第3部 〝ペットテイマー〟、〝オークの砦〟を攻める 第2章 本営設置

81. 本営設営開始

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 私も本営設置場所の防衛に加わることが決まってから、かなり忙しい時間が続いた。
 オークどもは昼夜を問わず散発的に攻撃を仕掛けてくるし、その種類も様々。
 オークアサシンだけのときもあれば、オークレンジャーやオークテイマーも隠れて襲ってくるときもある。
 そういった連中を始末するためにBランクの冒険者の先輩方は皆さん休みなく働き続けていて、私もときどき仮眠を取らせてもらいながらその輪に加わっていた。
 そんな日々が2日ほど続いてから、ようやくアイリーンの冒険者たちが本営予定地までやってきてくれたよ。
 長かった……。

「シズク、その様子だとかなり大変だったようだな」

「はい。オークたちは昼夜関係なく攻めてくるし、オークアサシンは姿が見えないし、オークテイマーは崖の上とかに隠れているしで大変でした」

「モンスターも種類によっては昼も夜もあまり関係ないからな。オークなんかもそうだ。この2日間忙しかっただろう。これが高ランク冒険者の世界だ」

「高ランク冒険者の世界。すごいですよね、先輩方は私より短い仮眠時間でももっと動けているんですから」

「慣れてるからな。とりあえず、俺たちはこれからここで本陣の設営にあたる。防衛にあたっていた連中は邪魔にならないところで寝ていろ。少々うるさいがな」

「え、防衛はいいんですか?」

「この部隊にはお前ら以上にBランク冒険者が多いことを忘れるな。防衛はそっちでやるさ。詳しいことはデイビッドから聞く。お前も安全なところで寝てろ」

「……はい。そうさせていただきます」

「ああ。無茶すんなよ」

「わかりました。おやすみなさい」

 邪魔にならない場所、邪魔にならない場所。
 ああ、あの木のところは大丈夫そう。周りにゴツゴツした岩があってテントとかも張れそうにないからね。
 ここまで歩いて来たみんなには悪いけれど、しばらく眠らせてもらおう。


********************


「んで、デイビッド。シズクがいなかったらどうなってた?」

「かなり厳しかったですね。シズクのスキルのおかげで、アサシンをかなり倒せていましたから。あれにはBランクの冒険者たちも驚いていました」

「あいつに無理をさせた甲斐があったか。で、被害状況は?」

「死人はゼロ。レンジャーのボルトに撃たれた冒険者は何人かいましたが、シズクのスキルで治療してもらっているので脱落者はいません」

「……ってなると、シズクを狙った暗殺者が送り込まれてくる可能性もあるか」

「はい。オークキラーが出てくる可能性があります」

「シズクで対処できるか?」

「難しいでしょうね。オークキラーには普通の物理攻撃や魔法攻撃は無効。対処方法を知らないと倒せませんから」

「オークキラーの主な殺傷方法は呪い。シズクもあの鎧を着ている限りは呪い無効だが、周りの人間が巻き込まれる恐れもあるな」

「はい。私が護衛についていましょう」

「いや、お前もしばらく寝ていろ。疲れがたまっているだろう? 最初の護衛は俺に任せておけ」

「わかりました。それではよろしくお願いします」

「おうよ。しかし、オークキラーまで出向かせる恐れがあるほど強くなりやがったか、この一年で」

「はい。感慨深いですね」

「それが本来の〝ペットテイマー〟なのかもしれないがな。さて、それじゃあ俺はのんびり眠りこけてやがるシズクの護衛にいってくるよ」

「お願いします。私が起きましたら交代しますので」

「頼んだぞ。オークキラーが出るとすれば夕暮れ時か深夜だ。あいつには専用の寝床を与えないとな」

「そうですね。できればオークキラーが出てこないことが一番なのですが」

「あいつの奮闘を聞く限り、オークシャーマンどもも呪い殺したくなるだろうよ」


********************


「う、ううん」

「目が覚めたか?」

「え? サンドロックさん?」

「おう。もう夕方近くだぞ」

 起き出してみたらサンドロックさんがすぐ側にいた。
 こんなところでなにをしているんだろう?

「しかし、夕暮れ前に目を覚ましてくれてよかったぞ。お前のペットたちも事前に避難してもらったしな」

「避難? あれ、そういえばみんながいない」

 ミネルもキントキもモナカもシラタマもいない。
 みんなどこに行っちゃったんだろう?

「お前ひとりなら問題ないんだが、お前のペットも守るとなると相当骨が折れるからな。正直、やってられん」

「やってられない?」

「ああ。ちょいとばかりお前はいろいろと活躍しすぎているからな。お前を狙って暗殺者が送り込まれてくる可能性があるんだわ」

 暗殺者?
 私を狙って?

「〝オークキラー〟っていう、オークシャーマンどもが生み出した呪いの塊なんだがな。そいつに狙われると、狙われた対象が死ぬまでつきまとわれるんだよ」

「え、怖い」

「ああ。作り出すときに数十匹のシャーマンが死ぬと聞くし、特別な儀式場も作らなくちゃいけないと聞くからあまり使われないんだが、お前の活躍を聞くと真っ先に殺す対象として狙われてもおかしくない」

 オークが数十匹も命を落として私ひとりを殺しに来るの!?
 私、いつからそんなに危険な存在になったわけ!?

「問題はそいつの倒し方なんだがな。普通の物理攻撃や魔法攻撃は効かないんだわ」

「物理攻撃や魔法攻撃は効かない?」

「〝呪いの塊〟だからな。そんなのに普通の攻撃が効くわけはないだろう」

「あ……」

「しかも、〝呪いの塊〟だからさっさと倒さないと、周囲に呪詛を振りまいて一面に呪いをまき散らしちまう。厄介なことこの上ない相手なんだ」

「それは面倒くさいですね」

「だろう? だから、倒し方を知っていて呪いの効かない俺かデイビットが……」

 サンドロックさんがそこまで話したとき、急に周囲が闇に包まれた。
 正確には、私たちの周りだけが暗くなったみたい。
 これって一体?

「ちっ! 本当に来やがった!」

「これが、オークキラーですか!?」

「ああ! お前はなにもせずに守られていろ! 動き回られると呪詛の被害がでかくなっちまう!」

「は、はい!」

 周囲の闇はやがて凝縮していき、地面から5匹の棍棒を持ったオークが姿を現した。
 こいつがオークキラー!

「はあ!? ひとりを殺すためだけにオークキラーを5匹も用意だと!? オークどもにはそれだけ戦力の余裕があるのかよ!!」

「ええと、私が戦っても意味がない……んですよね?」

「ああ、意味がねぇ。専用の武器がないと戦いようがないからな」

「私、どうすれば……」

「……どうしようもないからボコられ続けていろ。急ぎで俺が倒して回る」

「えぇ……」

 実際、黒いオークたちは巨大な棍棒を振り回して襲ってくるけれど、ダガーで受け止めようとしてもすり抜けてくるし、体にあたっても痛みも感じずただすり抜けていくだけ。
 途中からは駆けつけてくれたデイビッド教官も倒すのを手伝ってくれたけれど、私は一時間近く黒いオークからなんの痛みも感じずに殴られ続けていた。
 それで、倒し終わったら呪いを浄化するための聖水を全員で頭からかぶったんだけど、なんだか腑に落ちない。
 また、オークキラーが襲ってくる可能性も考慮されて私だけミネルたちからすら隔離されたテントで寝ることになるし、ちょっと寂しい。
 ……早く、オーク退治を終わらせたい!
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