辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ

文字の大きさ
44 / 99
第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女 第九章 森と魔物の異変

44. 魔物の大発生

しおりを挟む
 わたしたちが森から帰ったあと、フルートリオンはにわかに慌ただしくなってきた。
 今回の報告を聞いた衛兵さんと冒険者さんたちが調査を行い、森がおかしいことを確かめたんだって。
 具体的にどうおかしかったのかは教えてもらえなかったけど、とにかく森の様子がおかしかったらしい。
 衛兵さんたちは様子がおかしいのがわたしたちの行った森だけなのか調べるため、冒険者さんたちに依頼を出したって噂だし、わたしのお薬も用心して買いに来る人が増えている。
 とにかく、街の様子が明らかに騒がしいんだよね。
 わたしも裏庭に行く以外は極力店から出ないように指示されちゃったし。
 一体、何が起こっているんだろう?

「ねえ、スピカさん。街の人たちは一体何に怯えているんですか?」

「おや、ノヴァちゃん。街の人たちが怯えているとわかるのかい?」

「はい。明らかに浮き足立って怯えていますよね? 一体どうしたんでしょう」

「じゃあ、説明しておこうか。スピカちゃんがこの間行った森で、魔物の大発生した痕跡が見つかったんだよ。魔物はもうどこかに行ったあとだったみたいだけど、動物や植物たちが食い荒らされたあとが残されていたらしい」

「魔物の大発生……」

「だから、街の衛兵は守りをしっかり固めているんだよ。子供たちも家の外には出ないように注意してあるし、大人だってなるべく出歩かないようにしている。どんな魔物が大発生してどこに行ったのか、さっぱりわからないからね」

 なるほど、そんなことがあったんだ。
 命の気配がしなかったのは、魔物に襲われて死んじゃったか、怯えて閉じこもっているかだからだったんだね。
 でも、そんなたくさんの魔物どこから出現したんだろう?
 それもスピカさんに聞いてみたんだけど、どうやら魔物ってときどき大発生することがあるらしい。
 一種族の魔物が大量に生まれることもあれば、たくさんの種類がまとめて生まれることもあるとか。
 今回は残されていた特徴から、いろんな種類の魔物が生まれた可能性があるらしい。
 だからこそ、みんな警戒レベルが高いんだって。
 一種族の魔物だけだったら対抗するのも簡単なんだけど、たくさんの種類が集まっていると対応するのも大変らしいから。
 去年くらいにヴェルクさんが言っていたけど、スライムみたいな魔物は剣だと倒しにくい。
 でも、剣じゃないと倒しにくい魔物だっているらしいし、それに対応するためには武器もたくさんの種類を集めなくちゃいけない。
 でも、集められる武器の数にだって限りがあるから、どんな魔物がどれくらい発生したかを早めに調べるのが大切なんだって。
 うーん、わたしには難しい話だなぁ。
 わたしやシシにかかれば魔法でドカーンと倒してしまえるからね。
 あ、でも、魔法が効かない魔物もいるかもしれないのか。
 そういう魔物に出くわしたら危険かも。
 わたしも武器の使い方を覚えるべきかなぁ?

「そういうわけだから、ノヴァちゃんもあまり外には行かないようにね。空を飛ぶ魔物だっているのだから」

「はーい。それにしても、魔物の大発生なんて現象があるんですね。初めて知りました」

「そりゃあ小さな村が巻き込まれれば、村人全員が魔物に殺されるような災害だからねぇ。私が若い頃にもフルートリオンで一回大発生があったものだよ」

「スピカさんが若い頃にですか? その時ってどうなりました?」

「大勢の冒険者や衛兵が死んだねぇ。幸い、空を飛ぶ魔物がいなかったから大事には至らなかったけど、空を飛ぶ魔物までいたらフルートリオンの街がなくなっていたかも」

 そっか、そんなに大変なんだ。
 わたしも注意しないと。
 あと、冒険者さんたちにもお薬をたくさん作ってあげないとね。
 怪我をして死んじゃったら悲しいもん。
 薬草の種類がもう少し増えれば、いまの傷薬よりももう一段階強い傷薬が作れるんだけど、探しに行くことも出来ないよね。
 残念。

 街が息を潜めるように静かになってしばらく経つと雪が降り始めた。
 どうやら今年は早めに冬がやってきたらしい。
 魔物もこれでいなくなってくれるとありがたかったんだけど、そうじゃないみたい。
 街の外で警戒をしているはずのアーテルさんがやってきてお薬の依頼をしだしたもの。

「なあ、ノヴァ。しばらくの間、体が冷えなくなるような薬って作れないか?」

「どうしたんですか、アーテルさん。急に」

「いや、魔物捜しをしていた連中の一組が、暖を取っている間に魔物に襲われたそうでな。もし、錬金術でしばらくの間体が冷えなくなるような道具を作れるのなら作ってもらえないかと相談に来たわけだ」

「しばらくの間冷えないお薬……お薬じゃなくて飲み物になりますけど、作れるかも」

「本当か!? それなら頼む!」

「構いませんよ。でも、飲み物ってこのお店で売ってないんだよなぁ」

「うん? 素材に飲み物が必要なのか?」

「はい。わたしが思いついた作り方だと、何か飲み物が必要になります。普通のお水じゃダメです」

「水じゃダメか。わかった。俺が街中の商店でワインを買ってこよう。それを素材に出来るか?」

「多分、大丈夫です。わたしも一緒に行きますか?」

「お前はダメだ。いくらシシがついているとは言っても、まだ子供。外を出歩かせるわけにはいかない」

「むぅ。わたしだって一人前の錬金術士です!」

「一人前だろうと子供は子供だ。ともかく、ワインは買ってくるから体が冷えない飲み物を使ってくれ」

「わかりました。準備をしておきますので、早く買ってきてください」

「助かる。じゃあ、行ってくるわ」

 アーテルさんがワインを買って帰ってきたあと、それを素材にして体の温まるワインを完成させた。
 アーテルさんの話だと酔っ払う成分っていうのが抜けて飲みやすくなっているし、飲むとすぐに体が温まってきて助かるそうだ。
 急ごしらえで効果がどの程度続くかの検証もしていないけど、急いで必要ということで、アーテルさんの買ってきたワインはすべて錬金術で体の温まるワインに変えた。
 アーテルさんは錬金術の手数料をわたしに手渡すと、それらのワインを抱えて外へ駆け出していってしまった。
 そんなに忙しいんだね、いまの冒険者さんって。
 翌日には追加のワインも届いたし、わたしもできる範囲で街に貢献しなくっちゃ!
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

処理中です...