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第二部 医学の知識と若木の令嬢 第五章 深窓の令嬢
70. アストリートの治療依頼
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「アストリート様の治療ですか……」
「うむ。頼まれてはくれないか?」
「うーん……」
グラシアノ様からアストリート様の治療をお願いされた翌日、今度は公爵様から正式にアストリート様の治療を依頼された。
依頼されたんだけど、どうしたものか。
「アストリートのことは聞いているか?」
「アーテルさんが家を出るまでの話なら聞きました。そのあとはどうなさっていたのでしょう?」
「そうだな。アーテルが家を出たあと、アストリートは部屋に閉じこもり家族の前にも姿を見せなくなった。火傷の痕が痛むのか、あの時のことを夢に見るのかわからないが、夜中にうなされて目を覚ますこともあるとメイドからは報告を受けている。アストリートのことは家族でもお手上げなのだ」
うーん、どうしよう。
なんとか助けてあげたいけれど、簡単な治療じゃなさそう。
現状がどうなっているかを聞いてみる必要があるよね。
それを言うと、ローレンさんがいまの主治医だというので彼女から話を聞くことになった。
治療を行うかどうかの判断もローレンさんから話を聞いたあとで構わないらしい。
なので、ローレンさんを呼んでもらい、詳しい話を聞いてみる。
「アストリート様ですか。最近は体調もよろしいようですが、やはり顔の火傷は気にされているようですね。私が診察するとき以外は絶対に見せてはいただけませんし、鏡も見ません。顔も普段は長い前髪で隠しており、表情をうかがえなくしておいでです」
「そうですか。火傷の痕ってそんなにひどいんですか?」
「ひどいですね。顔中にえぐられたような痕が残ってしまっています。あの傷痕が残っている限りアストリート様の心が穏やかになることはないでしょう」
むーん。
そこまで言われると治療してあげたくなっちゃうんだけど……。
これ、再生薬で治るかなぁ?
「それにしても公爵様。なぜアストリート様の傷についてノヴァ様にお話しするのでしょう? いくら錬金術士の薬とは言え、あれほどの傷痕を治療するのは難しいかと」
「うむ、それなのだがな。ノヴァの持つもっとも効果の強い回復薬ならばできるかどうかを確認してみたかったのだ。それでもダメならばアストリートの治療は不可能ということで諦めもつくからな」
「ノヴァ様の持つもっとも効果の強い回復薬ですか。ノヴァ様、そこまで効果が強いのですか?」
「ええと、強いことは強いんです。ただ、あのお薬って傷口を逆行再生して塞ぐお薬なので、傷痕にどれだけの効果があるかはわかりません。体が傷痕を正常なものとして判断していれば消えませんし、異常なものと判断していればなくなるでしょう。どちらにしても、もう長い間経ってしまっているのが気がかりです。治療薬の出し惜しみはしませんが、治せるかどうかまでの保証はいたしかねます」
私の言葉に部屋の中が重苦しい雰囲気になっちゃった。
でも、再生薬って傷口を再生するためのものであって傷痕にどう作用するかはわからないんだよね。
怪我をしたばかりなら痕も残らずに治るんだけど、怪我をして長年経ってしまっているいまでは治せるかどうかが不安で仕方がない。
それでも治療してほしいと言うことならお薬は渡せるけれど、治るかどうかまでは、ちょっと。
「ふうむ。効果が強いとは聞いていたが、傷口を再生していたのか。それでは傷痕に効くかどうか保証もできないだろうな」
「申し訳ありません。傷痕を消すお薬は作ったことがないので」
「まあ、フルートリオンで冒険者相手に薬の販売をしていれば、傷痕の治療薬など必要とはされないか。だが、それでも薬は譲ってもらえるのだな?」
「はい。効くかどうかの保証はできませんが、お薬はお譲りします」
「わかった。効かずとも咎めはしない。娘の治療を頼む」
こうしてアストリート様の治療は決定した。
うーん、火傷痕の治療薬って別に作れればいいんだけど。
そう都合よく新しいお薬をひらめいたりもしないよね。
ただ、公爵家の薬草園にある薬草からなにかいい薬が作れないか試してみるために今日一日だけ時間をもらった。
新しいお薬、できないかな。
「うむ。頼まれてはくれないか?」
「うーん……」
グラシアノ様からアストリート様の治療をお願いされた翌日、今度は公爵様から正式にアストリート様の治療を依頼された。
依頼されたんだけど、どうしたものか。
「アストリートのことは聞いているか?」
「アーテルさんが家を出るまでの話なら聞きました。そのあとはどうなさっていたのでしょう?」
「そうだな。アーテルが家を出たあと、アストリートは部屋に閉じこもり家族の前にも姿を見せなくなった。火傷の痕が痛むのか、あの時のことを夢に見るのかわからないが、夜中にうなされて目を覚ますこともあるとメイドからは報告を受けている。アストリートのことは家族でもお手上げなのだ」
うーん、どうしよう。
なんとか助けてあげたいけれど、簡単な治療じゃなさそう。
現状がどうなっているかを聞いてみる必要があるよね。
それを言うと、ローレンさんがいまの主治医だというので彼女から話を聞くことになった。
治療を行うかどうかの判断もローレンさんから話を聞いたあとで構わないらしい。
なので、ローレンさんを呼んでもらい、詳しい話を聞いてみる。
「アストリート様ですか。最近は体調もよろしいようですが、やはり顔の火傷は気にされているようですね。私が診察するとき以外は絶対に見せてはいただけませんし、鏡も見ません。顔も普段は長い前髪で隠しており、表情をうかがえなくしておいでです」
「そうですか。火傷の痕ってそんなにひどいんですか?」
「ひどいですね。顔中にえぐられたような痕が残ってしまっています。あの傷痕が残っている限りアストリート様の心が穏やかになることはないでしょう」
むーん。
そこまで言われると治療してあげたくなっちゃうんだけど……。
これ、再生薬で治るかなぁ?
「それにしても公爵様。なぜアストリート様の傷についてノヴァ様にお話しするのでしょう? いくら錬金術士の薬とは言え、あれほどの傷痕を治療するのは難しいかと」
「うむ、それなのだがな。ノヴァの持つもっとも効果の強い回復薬ならばできるかどうかを確認してみたかったのだ。それでもダメならばアストリートの治療は不可能ということで諦めもつくからな」
「ノヴァ様の持つもっとも効果の強い回復薬ですか。ノヴァ様、そこまで効果が強いのですか?」
「ええと、強いことは強いんです。ただ、あのお薬って傷口を逆行再生して塞ぐお薬なので、傷痕にどれだけの効果があるかはわかりません。体が傷痕を正常なものとして判断していれば消えませんし、異常なものと判断していればなくなるでしょう。どちらにしても、もう長い間経ってしまっているのが気がかりです。治療薬の出し惜しみはしませんが、治せるかどうかまでの保証はいたしかねます」
私の言葉に部屋の中が重苦しい雰囲気になっちゃった。
でも、再生薬って傷口を再生するためのものであって傷痕にどう作用するかはわからないんだよね。
怪我をしたばかりなら痕も残らずに治るんだけど、怪我をして長年経ってしまっているいまでは治せるかどうかが不安で仕方がない。
それでも治療してほしいと言うことならお薬は渡せるけれど、治るかどうかまでは、ちょっと。
「ふうむ。効果が強いとは聞いていたが、傷口を再生していたのか。それでは傷痕に効くかどうか保証もできないだろうな」
「申し訳ありません。傷痕を消すお薬は作ったことがないので」
「まあ、フルートリオンで冒険者相手に薬の販売をしていれば、傷痕の治療薬など必要とはされないか。だが、それでも薬は譲ってもらえるのだな?」
「はい。効くかどうかの保証はできませんが、お薬はお譲りします」
「わかった。効かずとも咎めはしない。娘の治療を頼む」
こうしてアストリート様の治療は決定した。
うーん、火傷痕の治療薬って別に作れればいいんだけど。
そう都合よく新しいお薬をひらめいたりもしないよね。
ただ、公爵家の薬草園にある薬草からなにかいい薬が作れないか試してみるために今日一日だけ時間をもらった。
新しいお薬、できないかな。
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