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第1部 『神樹の里』 第2章 集まる幻獣や妖精、精霊たち
7.リュウセイ
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「きゃっ!? この実も食べたいの?」
「アオン!」
「じゃあ、分けてあげるね。はい!」
「ガフ!」
『すまないな、神樹の契約者と守護者よ。我が子を助けてもらっただけではなく、食料まで分けていただくとは』
「気にしないでください。僕たちの保管庫にはたくさん入っている木の実ですから」
子狼の治療が終わったあと、朝食前だった僕たちふたりは帰る前に朝食を食べることにしました。
最初はハクガの元で大人しくしていた子狼でしたが、僕たちの木の実を見ていると我慢ができなくなったのか僕たちに寄ってくるようになり、いまのようにおねだりもしてきます。
木の実自体は毎日メイヤが食べさせてくれる食事の余り物を保管していただけなので問題ないのですが、傷が治ったばかりだというのに食欲旺盛ですね。
『まことにすまないな。我が〝名もなきモノ〟との争いで後れを取ったばかりに』
「気になっていたのですが〝名もなきモノ〟とはなんでしょう? 名前はないのですか?」
『やつらに名前はない。名前を与えてもいけない。あれは空間の歪みから生まれる穢れの象徴。名前を与えて現世に固着化させれば力を強めてしまうし発生頻度も高まる。いまは聖域や神域の近くでは発生しない。だが力を強めた結果、聖域や神域でも発生するようになれば世界の秩序さえ乱しかねない。そういう存在だ』
「そうなんですね。ハクガさんはそのようなものと戦っていたんですか」
『まあ、力ある幻獣の務めだ。今回は少しばかり状況が違ったが……』
「ああ、あちらでリンと戯れている子狼」
『その通りだ。本来であれば子供を連れて戦いに来ることなどない。だが、今回は事情が違ったのだよ。我らがいた土地のすぐ側で〝名もなきモノ〟が発生してしまった。倒さないわけにもいかぬし我が子を逃がす時間もない。覚悟を決めて戦いを挑んだのだが、我が子が深手を負わされて急遽助けを求めに行ったのだ。本当に助かった』
「いえ、気にしないでください。助けられて本当によかった。ところで、先ほどから元気にメイヤの作った果実を食べていますが体に影響はありませんか?」
『神樹様のお作りになった治癒の実を食べさせていただいたのだ。すでに呪い潰され復元がかなわなかった左目以外は問題なかろう。しかし、本当によいのか? 余り物とはいえ神樹様の果実であろう。我が子が食べてしまっても……』
「悪影響が出ないならいいんじゃないでしょうか。リンも喜んでいますし」
『そうか。申し訳ないが我が子の食事は分けていただくとしよう』
「ハクガさんも食べますか?」
『いや、我はいい。お気持ちだけもらっておく』
「そうですか。それでは僕も食事を取らせていただきます」
『ああ、周囲の警戒は任せろ』
ハクガさんのお言葉に甘えて僕も食事にします。
僕が木の実を取り出して食べ始めると子狼は僕にも興味を向けてせがみ始めましたのでリンとふたりでいろいろと分けてあげることに。
本当に元気になってくれてよかったです。
そんな子狼との食事も終わり、あとは帰るだけになったのですが……やはり子狼の目は気になりますね。
あのポーションが効くかどうかだけ試してあげましょうか。
「子狼さん、少しじっとしていてくださいね?」
「ガァウ?」
『契約者様、その回復薬は?』
「前に作った欠損回復用のポーションです。この子の左目を治すことができないかと思い」
『わかった。試してみていただけるか?』
「ええ。では、子狼さん。いきますよ?」
僕は子狼の失われた左目にポーションを流し込みます。
すると、流し込まれたポーションが光を放ち、左目に光が戻りました。
幻獣にも効くほど効果の高い薬になっていたんですね、これ。
「キャウ、キャウ!」
『おお、左目も戻ったか! 我が子よ!!』
「ワフ!」
どうやら子狼も完全回復したようです。
朝食も食べ終わりましたし、あとは帰るだけでしょうか。
「さて、それではそろそろ帰ります。神樹の契約者と守護者はどこにいても神樹の元へと転移できるそうですので」
「うん。その子のことも大切にしてあげてくださいね」
『ああ。今回は本当に助かった』
「アオン! アオン!」
僕たちが帰る話をし始めたとき、子狼が僕の服の裾に噛みつき引っ張り始めました。
これは一体……?
「ハクガさん、これは?」
『すまぬ。我が子よ、契約者様と守護者は帰る時間だ。あまり困らせるな』
「キャウ! キャウン!」
『いや、それは不可能ではないのだが……』
「ハクガさん?」
なにが不可能ではないのでしょう?
そして、子狼はなにを要求しているのでしょうか?
『重ね重ねすまない。おふたりのどちらか〝契約術〟のスキルは覚えているだろうか?』
「〝契約術〟ですか? 覚えていませんね」
「私も覚えてないなぁ。ハクガさん〝契約術〟ってなんですか?」
『ああ、そこから説明せねば。〝契約術〟とはモンスターとの契約を行い使役するスキルのことだ。人の間ではそれなりに珍しいらしいが……』
「モンスターとの契約と使役? それがいまの状況に何のつながりが?」
『〝契約術〟とは本来、精霊や幻獣と契約を結ぶためのものだったのだ。時代を経て伝承がねじ曲がり、モンスターの使役にのみ使われることになっているらしい』
「なるほど。どちらにしても僕たちには使えません」
「うん。帰ればメイヤ様が覚えさせてくれるだろうけれど……」
『ならば、我が子は我が連れて行く。すまないが、おふたりは先に神樹様のもとへ戻りスキルを覚えておいてもらえないだろうか』
「構いません。構いませんが、なんのために?」
『……我が子が契約者様か守護者と契約をしたいと申し出てきた。できれば、契約者様との契約を望むとも』
「それって大丈夫なんですか?」
『契約を行えば契約主の魔力に応じて成長する。そうなれば、幼くとも幻獣としての力も発揮できよう』
それって大丈夫なんでしょうか?
かなり不安なんですが……。
「シント。とりあえず帰ってメイヤ様と相談してみよう? だめならだめって言うはずだし」
「それがいいですね。そうしましょうか」
『重ね重ね手間をかけさせる。我は我が子のペースに合わせてくので神樹様のもとにたどり着くのは夕暮れ時だろう。神樹様の判断で断られたのなら我が子も諦めさせられる。先に戻って確認しておいてもらいたい』
「わかりました。先に戻って待っています」
「怪我を治したばかりだから無理をさせないであげてね」
話はまとまったので帰還の魔法を使い、僕とリンは神樹の里まで戻ってきました。
そこで出迎えてくれたメイヤと子狼の件を相談してみます。
答えはすぐに返ってきましたが。
『ふうん。さっきのホーリーフェンリルの子供が契約を望んでいるのね。いいと思うわ、 契約してあげても。いつまでもあなた方ふたりだけの暮らしというのも不安だったし』
「そうなのですか、メイヤ様?」
『シントは大丈夫だけどリンがちょっと不安だったのよ。あなた、どんどんシントに甘えていっているわよ? 多少なら問題なかったけどこれ以上はさすがに問題。ホーリーフェンリルの子供ならシントと契約することでふたりが乗れるサイズまで成長するだろうし、新しい住人としてまったく問題ないもの。迎え入れてあげましょう』
「ありがとうございます! ところで、シント。私ってそんなに甘えてた?」
「甘えていましたよ。無自覚なんでしょうがもう少ししっかりしてください」
「……はい」
ともかく、子狼の受け入れは決まりました。
受け入れに必要なためのスキル〝契約術〟は僕たちふたりともが覚えておき、今後に備えておきます。
メイヤの話では〝契約術〟で契約できる範囲は幻獣や精霊だけではなく、妖精や聖獣なども含まれるそうですからね。
ただ、モンスター相手には使うなときつく言われました。
理由は単純で凶暴で生命力が強いだけの魔獣ならともかく、不浄な存在であるモンスターと契約しても神域である神樹の里へは連れ込めないらしいのです。
そもそも、僕たちが契約しようとしたところで不可能だとも言われましたけどね。
受け入れ準備が整ったらホーリーフェンリル親子の到着を待ち、僕たちはそれぞれの訓練を行います。
そして夕暮れ時、約束通りハクガさんと子狼がやってきました。
『待たせたな。神樹様との話はまとまったか?』
「はい。子狼さんは僕が引き受けます」
『助かる。ここに来る途中も急いで行こうとして何度も山肌にぶつかりそうになったり、川や池に飛び込んだりしていてな……』
「それはまた……大冒険でしたね」
『まったくだ。契約手順は聞いているか?』
「そう言えば聞いていませんね。メイヤ?」
『契約術を発動させると魔力の塊が目の前にできます。それを相手に当ててくださいな。それを受け入れれば契約成立、拒まれれば契約失敗ですよ』
『我が子は自分から契約を望んでいる。失敗することなどあり得ないだろう』
「わかりました。それでは始めましょうか」
「ガフ!」
僕が契約術を発動させると確かに魔力の塊が僕の目の前にできあがりました。
あとはこれを子狼に当てるだけ……と考えていたら、子狼の方から塊に飛び込んできて魔力を吸収してしまいましたね……。
魔力を吸収した子狼はぐんぐん成長し、僕とリンのふたりが同時に背中へ乗っても大丈夫な大きさにまでなりました。
毛並みも一段と光り輝いています。
『さて、契約は成立したわね。シント、この子に名前をつけてあげなさい』
『そうだな。契約者は契約対象に名前を与えるものだ』
名前……しまった、そこまで考えていなかった。
どんな名前にしましょうか?
考えている間も子狼は嬉しいのか空を勢いよく飛び回っていますし……。
輝く毛並みと相まって一段と綺麗です。
そうだ、この名前なら!
「うん、リュウセイにします」
『リュウセイか。いいか、我が子よ?』
「ガゥン!」
『構わないそうよ。よかったわね、拒まれなくて』
「拒まれたらどうなるんですか?」
『別にどうにも? 契約は成立しているんだし、呼ばれるときにあっちが不機嫌になる程度よ』
『幻獣や精霊、妖精などは知能が高いからな。名前が気に入らなければ最悪契約を破棄される。契約術を試す前に名前を決めておく方が良かろう』
「それならもっと早く教えてくれてもよかったのに。そう言えばハクガさんはこのあとどうするんですか?」
『我か? リュウセイはここに置いていくが、我はまた穢れを浄化して回る旅だ。それがホーリーフェンリルの務めでもある。ときどき我が子の様子を見るために立ち寄らせてはもらうつもりだがよろしいか?』
「僕はかまいません。メイヤは?」
『私も気にしないわよ。今度は〝名もなきモノ〟に後れを取らないようにしなさいな』
『そうさせていただこう。我も今晩くらいはここでお世話になっていっても?』
「いいですよ。ゆっくり体を休めていってください」
『では一晩世話になる。リュウセイもそろそろ地上に戻れ』
「ガゥ!」
リュウセイがなぜ喋らないのかハクガさんに確認しましたが、まだ幼いため喋れないらしいです。
今後、100年か200年位すれば喋れるようになるそうですが……気が長い。
僕もリンも不老不死になっていますから気にしませんけど、人間の時間感覚ではないですね。
何はともあれ、この神樹の里に新しく増えた仲間リュウセイ。
彼とも仲良くやっていきたいものです。
「アオン!」
「じゃあ、分けてあげるね。はい!」
「ガフ!」
『すまないな、神樹の契約者と守護者よ。我が子を助けてもらっただけではなく、食料まで分けていただくとは』
「気にしないでください。僕たちの保管庫にはたくさん入っている木の実ですから」
子狼の治療が終わったあと、朝食前だった僕たちふたりは帰る前に朝食を食べることにしました。
最初はハクガの元で大人しくしていた子狼でしたが、僕たちの木の実を見ていると我慢ができなくなったのか僕たちに寄ってくるようになり、いまのようにおねだりもしてきます。
木の実自体は毎日メイヤが食べさせてくれる食事の余り物を保管していただけなので問題ないのですが、傷が治ったばかりだというのに食欲旺盛ですね。
『まことにすまないな。我が〝名もなきモノ〟との争いで後れを取ったばかりに』
「気になっていたのですが〝名もなきモノ〟とはなんでしょう? 名前はないのですか?」
『やつらに名前はない。名前を与えてもいけない。あれは空間の歪みから生まれる穢れの象徴。名前を与えて現世に固着化させれば力を強めてしまうし発生頻度も高まる。いまは聖域や神域の近くでは発生しない。だが力を強めた結果、聖域や神域でも発生するようになれば世界の秩序さえ乱しかねない。そういう存在だ』
「そうなんですね。ハクガさんはそのようなものと戦っていたんですか」
『まあ、力ある幻獣の務めだ。今回は少しばかり状況が違ったが……』
「ああ、あちらでリンと戯れている子狼」
『その通りだ。本来であれば子供を連れて戦いに来ることなどない。だが、今回は事情が違ったのだよ。我らがいた土地のすぐ側で〝名もなきモノ〟が発生してしまった。倒さないわけにもいかぬし我が子を逃がす時間もない。覚悟を決めて戦いを挑んだのだが、我が子が深手を負わされて急遽助けを求めに行ったのだ。本当に助かった』
「いえ、気にしないでください。助けられて本当によかった。ところで、先ほどから元気にメイヤの作った果実を食べていますが体に影響はありませんか?」
『神樹様のお作りになった治癒の実を食べさせていただいたのだ。すでに呪い潰され復元がかなわなかった左目以外は問題なかろう。しかし、本当によいのか? 余り物とはいえ神樹様の果実であろう。我が子が食べてしまっても……』
「悪影響が出ないならいいんじゃないでしょうか。リンも喜んでいますし」
『そうか。申し訳ないが我が子の食事は分けていただくとしよう』
「ハクガさんも食べますか?」
『いや、我はいい。お気持ちだけもらっておく』
「そうですか。それでは僕も食事を取らせていただきます」
『ああ、周囲の警戒は任せろ』
ハクガさんのお言葉に甘えて僕も食事にします。
僕が木の実を取り出して食べ始めると子狼は僕にも興味を向けてせがみ始めましたのでリンとふたりでいろいろと分けてあげることに。
本当に元気になってくれてよかったです。
そんな子狼との食事も終わり、あとは帰るだけになったのですが……やはり子狼の目は気になりますね。
あのポーションが効くかどうかだけ試してあげましょうか。
「子狼さん、少しじっとしていてくださいね?」
「ガァウ?」
『契約者様、その回復薬は?』
「前に作った欠損回復用のポーションです。この子の左目を治すことができないかと思い」
『わかった。試してみていただけるか?』
「ええ。では、子狼さん。いきますよ?」
僕は子狼の失われた左目にポーションを流し込みます。
すると、流し込まれたポーションが光を放ち、左目に光が戻りました。
幻獣にも効くほど効果の高い薬になっていたんですね、これ。
「キャウ、キャウ!」
『おお、左目も戻ったか! 我が子よ!!』
「ワフ!」
どうやら子狼も完全回復したようです。
朝食も食べ終わりましたし、あとは帰るだけでしょうか。
「さて、それではそろそろ帰ります。神樹の契約者と守護者はどこにいても神樹の元へと転移できるそうですので」
「うん。その子のことも大切にしてあげてくださいね」
『ああ。今回は本当に助かった』
「アオン! アオン!」
僕たちが帰る話をし始めたとき、子狼が僕の服の裾に噛みつき引っ張り始めました。
これは一体……?
「ハクガさん、これは?」
『すまぬ。我が子よ、契約者様と守護者は帰る時間だ。あまり困らせるな』
「キャウ! キャウン!」
『いや、それは不可能ではないのだが……』
「ハクガさん?」
なにが不可能ではないのでしょう?
そして、子狼はなにを要求しているのでしょうか?
『重ね重ねすまない。おふたりのどちらか〝契約術〟のスキルは覚えているだろうか?』
「〝契約術〟ですか? 覚えていませんね」
「私も覚えてないなぁ。ハクガさん〝契約術〟ってなんですか?」
『ああ、そこから説明せねば。〝契約術〟とはモンスターとの契約を行い使役するスキルのことだ。人の間ではそれなりに珍しいらしいが……』
「モンスターとの契約と使役? それがいまの状況に何のつながりが?」
『〝契約術〟とは本来、精霊や幻獣と契約を結ぶためのものだったのだ。時代を経て伝承がねじ曲がり、モンスターの使役にのみ使われることになっているらしい』
「なるほど。どちらにしても僕たちには使えません」
「うん。帰ればメイヤ様が覚えさせてくれるだろうけれど……」
『ならば、我が子は我が連れて行く。すまないが、おふたりは先に神樹様のもとへ戻りスキルを覚えておいてもらえないだろうか』
「構いません。構いませんが、なんのために?」
『……我が子が契約者様か守護者と契約をしたいと申し出てきた。できれば、契約者様との契約を望むとも』
「それって大丈夫なんですか?」
『契約を行えば契約主の魔力に応じて成長する。そうなれば、幼くとも幻獣としての力も発揮できよう』
それって大丈夫なんでしょうか?
かなり不安なんですが……。
「シント。とりあえず帰ってメイヤ様と相談してみよう? だめならだめって言うはずだし」
「それがいいですね。そうしましょうか」
『重ね重ね手間をかけさせる。我は我が子のペースに合わせてくので神樹様のもとにたどり着くのは夕暮れ時だろう。神樹様の判断で断られたのなら我が子も諦めさせられる。先に戻って確認しておいてもらいたい』
「わかりました。先に戻って待っています」
「怪我を治したばかりだから無理をさせないであげてね」
話はまとまったので帰還の魔法を使い、僕とリンは神樹の里まで戻ってきました。
そこで出迎えてくれたメイヤと子狼の件を相談してみます。
答えはすぐに返ってきましたが。
『ふうん。さっきのホーリーフェンリルの子供が契約を望んでいるのね。いいと思うわ、 契約してあげても。いつまでもあなた方ふたりだけの暮らしというのも不安だったし』
「そうなのですか、メイヤ様?」
『シントは大丈夫だけどリンがちょっと不安だったのよ。あなた、どんどんシントに甘えていっているわよ? 多少なら問題なかったけどこれ以上はさすがに問題。ホーリーフェンリルの子供ならシントと契約することでふたりが乗れるサイズまで成長するだろうし、新しい住人としてまったく問題ないもの。迎え入れてあげましょう』
「ありがとうございます! ところで、シント。私ってそんなに甘えてた?」
「甘えていましたよ。無自覚なんでしょうがもう少ししっかりしてください」
「……はい」
ともかく、子狼の受け入れは決まりました。
受け入れに必要なためのスキル〝契約術〟は僕たちふたりともが覚えておき、今後に備えておきます。
メイヤの話では〝契約術〟で契約できる範囲は幻獣や精霊だけではなく、妖精や聖獣なども含まれるそうですからね。
ただ、モンスター相手には使うなときつく言われました。
理由は単純で凶暴で生命力が強いだけの魔獣ならともかく、不浄な存在であるモンスターと契約しても神域である神樹の里へは連れ込めないらしいのです。
そもそも、僕たちが契約しようとしたところで不可能だとも言われましたけどね。
受け入れ準備が整ったらホーリーフェンリル親子の到着を待ち、僕たちはそれぞれの訓練を行います。
そして夕暮れ時、約束通りハクガさんと子狼がやってきました。
『待たせたな。神樹様との話はまとまったか?』
「はい。子狼さんは僕が引き受けます」
『助かる。ここに来る途中も急いで行こうとして何度も山肌にぶつかりそうになったり、川や池に飛び込んだりしていてな……』
「それはまた……大冒険でしたね」
『まったくだ。契約手順は聞いているか?』
「そう言えば聞いていませんね。メイヤ?」
『契約術を発動させると魔力の塊が目の前にできます。それを相手に当ててくださいな。それを受け入れれば契約成立、拒まれれば契約失敗ですよ』
『我が子は自分から契約を望んでいる。失敗することなどあり得ないだろう』
「わかりました。それでは始めましょうか」
「ガフ!」
僕が契約術を発動させると確かに魔力の塊が僕の目の前にできあがりました。
あとはこれを子狼に当てるだけ……と考えていたら、子狼の方から塊に飛び込んできて魔力を吸収してしまいましたね……。
魔力を吸収した子狼はぐんぐん成長し、僕とリンのふたりが同時に背中へ乗っても大丈夫な大きさにまでなりました。
毛並みも一段と光り輝いています。
『さて、契約は成立したわね。シント、この子に名前をつけてあげなさい』
『そうだな。契約者は契約対象に名前を与えるものだ』
名前……しまった、そこまで考えていなかった。
どんな名前にしましょうか?
考えている間も子狼は嬉しいのか空を勢いよく飛び回っていますし……。
輝く毛並みと相まって一段と綺麗です。
そうだ、この名前なら!
「うん、リュウセイにします」
『リュウセイか。いいか、我が子よ?』
「ガゥン!」
『構わないそうよ。よかったわね、拒まれなくて』
「拒まれたらどうなるんですか?」
『別にどうにも? 契約は成立しているんだし、呼ばれるときにあっちが不機嫌になる程度よ』
『幻獣や精霊、妖精などは知能が高いからな。名前が気に入らなければ最悪契約を破棄される。契約術を試す前に名前を決めておく方が良かろう』
「それならもっと早く教えてくれてもよかったのに。そう言えばハクガさんはこのあとどうするんですか?」
『我か? リュウセイはここに置いていくが、我はまた穢れを浄化して回る旅だ。それがホーリーフェンリルの務めでもある。ときどき我が子の様子を見るために立ち寄らせてはもらうつもりだがよろしいか?』
「僕はかまいません。メイヤは?」
『私も気にしないわよ。今度は〝名もなきモノ〟に後れを取らないようにしなさいな』
『そうさせていただこう。我も今晩くらいはここでお世話になっていっても?』
「いいですよ。ゆっくり体を休めていってください」
『では一晩世話になる。リュウセイもそろそろ地上に戻れ』
「ガゥ!」
リュウセイがなぜ喋らないのかハクガさんに確認しましたが、まだ幼いため喋れないらしいです。
今後、100年か200年位すれば喋れるようになるそうですが……気が長い。
僕もリンも不老不死になっていますから気にしませんけど、人間の時間感覚ではないですね。
何はともあれ、この神樹の里に新しく増えた仲間リュウセイ。
彼とも仲良くやっていきたいものです。
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