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第1部 『神樹の里』 第3章 深刻化する〝王都〟の〝狩り〟
20.影の軍勢
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僕たちが朝の訓練を終えるとローズマリーのいる花畑の方から今日も歌声が聞こえてきます。
ディーヴァがまた歌を披露しているのでしょう。
最近はドワーフたちも聴きに来るようになったと聞きますし大好評ですね。
「よかった。ディーヴァ様がみんなに受け入れられて」
「ディーヴァもミンストレルもリュウセイが悪人ではないと判定しているのです。みんな受け入れてくれますよ」
「そうなんだけど……やっぱり心配だったんだもん」
「心配性ですね。僕たちも聴きに行きましょう」
「うん!」
僕たちふたりが花園に入ってきたのを確認したディーヴァはこちらに軽く手を振って歌を歌い続けます。
その内容も様々で英雄譚から恋の歌、牧畜民の歌など多種多様。
みんながその歌声と内容に酔いしれていました。
「……皆様、申し訳ありませんが本日はここまでです。また明日、歌を披露いたしますのでお時間とご興味のある方は是非お越しくださいませ」
ディーヴァの終了宣言に大きな歓声と拍手がまき送り、各自それぞれバラバラに散っていきます。
残されたのはディーヴァにミンストレル、花園の主ローズマリー、それから僕とリンですね。
「いかがでしたか? 森にいたときよりも声の調子が良くなっているのですが」
「素晴らしい歌声でしたよ。ねえ、リン」
「うん! 感動しちゃったよ、ディーヴァ!」
「ありがとうございます。ローズマリーもいかがでしたでしょう」
『綺麗な歌声だったね。これなら私の花園ともぴったりだよ!』
「毎日使わせていただき感謝しております。さて、そろそろ昼食のお時間ですね」
「そうですね。メイヤのところに行きましょう」
「はい。ミンストレルは午後からお歌の練習ね?」
「はい! ディーヴァお姉ちゃん!」
ミンストレルも元気になってよかったです。
僕たちは4人一緒にメイヤの元を訪れ、昼食の木の実を食べさせてもらいました。
メイヤに聞くと、ふたりの木の実は精霊としての力が増す木の実だそうです。
僕たちとはまた違った木の実なんですね……。
食事が終わるとディーヴァはミンストレルを連れて花園の方へと戻って行き、僕とリンはメイヤから状況報告を受けます。
もちろん〝王都〟の〝狩り〟についての報告を。
『ディーヴァがミンストレルをよくあやしてくれているから助かるわ。ミンストレルの前で暗い話はしたくないもの』
「同感です。と言うことは、また悪い話なんですね?」
『悪い話ね。幻獣や精霊たちが知っている限りの生息地を回っているけれど、どこも激しい戦闘のあとが残されているばかりでそこで暮らしていたはずの者たちはいなかったそうよ』
「〝王都〟め……どこまでも卑劣な!」
『正直、後手に回りすぎていて手の施しようがないのがいまの状況。保護できた精霊や妖精は神樹の里に来てもらっているけれどそれだってごく少数。幻獣なんて1匹も保護できていないわ』
「それは困りました。なにかいい手段は……」
『いまのままではなにもない。それで、シントとリンに相談なのだけど、〝影の軍勢〟と交渉してみるつもりはある?』
影の軍勢?
聞いたことがない言葉ですが、メイヤがこの場で持ち出したということはなにか意味があるんでしょう。
「メイヤ様。影の軍勢とは?」
『〝影〟の名前を持つ幻獣たちの一派よ。影に入り込む力を持ち、どんな方法でも察知できない。個々の戦闘力は種族によってまちまちだけれど、情報収集能力はピカイチ。彼らの協力を取り付けることができれば、あるいは〝狩り〟の先手を打てるかも』
「でも、〝交渉〟なんですよね? どんなことを要求されるのですか?」
『それは話を聞いてみないとわからないわ。彼らはほかの幻獣たちとも交流を持たない一派だから』
「……骨が折れそうです」
「無理なお願いじゃないといいなぁ」
『無理そうなら諦めてもいいわ。彼らの協力があると今後が楽になるけれど、なければないで対処法はあるもの』
「わかりました。交渉をしてみましょう。どこで会えますか?」
『交渉窓口になってくれる幻獣は近くまで来てくれているわ。歩いて行ける距離だから歩いて行って頂戴。お供はリュウセイくらいだけでね』
「敵意を見せないためですね、メイヤ様?」
『あちらがどんな交渉役を出してくれているかわからないもの。弱い子だったら、五大精霊相手だと完全に脅しとなってしまうわ』
「わかりました。僕とリン、リュウセイだけで行ってきます」
『よろしくね。場所は、あそこから森に進んでまっすぐ歩けばあちらから接触してくれるそうよ』
「了解です。不安だけど行きましょう、リン」
「うん」
僕はリュウセイを呼び出して森の奥へと進みます。
そのまま30分くらい歩いたところでなにかの気配を感じ、リンと背中合わせになって警戒態勢をとりました。
リュウセイもいつでも襲いかかれるように準備していますし、なにかがいますね。
『すまない、驚かせてしまったな。神樹の里の契約者と守護者の力を量るためだったのだ。警戒を解いてもらいたい』
そう言いながら木の陰より出てきたのは黒色の虎。
鋭く伸びた2本の牙を持ち、額には3つ目の瞳が存在しています。
彼が影の軍勢の交渉役?
『自己紹介をしよう。私はタイガーアイ。現在影の軍勢と呼ばれている幻獣たちのとりまとめをしている』
「初めまして、僕はシント。ご存じのようですが神樹の里の契約者です」
「同じく守護者のリンです。こっちはホーリーフェンリルのリュウセイ」
「……ウォフ」
『ホーリーフェンリルからは嫌われてしまったな。無理もないか。それで交渉なのだが、影の軍勢が神樹の里に力を貸すのは問題ない。その代わりとして、影の軍勢全員を神樹の里で受け入れてもらいたいのだ』
「影の軍勢全員を?」
「あの、影の軍勢であろうとも邪悪な存在は入れませんよ?」
『承知済みだ。入れないものは切り捨てる。入れるものだけを受け入れていただきたい』
影の軍勢が神樹の里への移住希望ですか……。
メイヤとも相談しなければいけない案件ですが、とりあえず事情を聞いておきましょう。
「タイガーアイ。なぜ、あなた方は神樹の里へ来たいのですか?」
『我々の元へも人間どもの〝狩り〟が迫ってきている。戦える者はいいのだが、戦えるほど力のない者や幼い者はあがきようがない。おそらく、我々用の対抗装備も調えてきているだろう。時間があまりないのだ。この願い、聞きとどけてもらえないか?』
ここでも〝狩り〟ですか……。
メイヤとの相談は確定ですが急がねばなりませんね。
「わかりました。すぐに戻って神樹の聖霊メイヤとも相談してきます。あなたはどうしますか?」
『お邪魔でなければ同行したい。お許し願えるだろうか?』
「リン、どうします?」
「切羽詰まった状況があるみたいだし放っておけないよ。少しでも〝狩り〟の被害を減らせるなら私たちの目的とも合うわけだし」
「わかりました。リュウセイも飛びかかっちゃだめですからね?」
「……ォゥフ」
僕はリュウセイに先導されながら神樹の里へと戻ります。
メイヤが〝迷いの森〟というだけあってここは深い森林、僕はおろかリンでさえ方向感覚が曖昧になりますからね。
時間をかければ戻れるのでしょうがいまは時間もありませんし、リュウセイ頼みです。
そして、メイヤの元に戻るとすぐに対策会議が始まりました。
『影の軍勢すら〝狩り〟の対象にするだなんて……〝王都〟はなにを考えているのかしら?』
『すまない。我々にもわからぬ。いまは一刻も早く皆を脱出させ、安全な場所へと移動させてやりたいのだ』
『わかったわ。ここに連れてきた時点でシントとリンは同意なのでしょう?』
「はい」
「私もです」
『それなら受け入れできる者は受け入れるわ。受け入れできない者は申し訳ないのだけれど……』
『我々影の軍勢には狡猾であくどい者もいるからな。そのような者まで助けてほしいなどとは言わない』
『その覚悟が聞ければ十分だわ。タイガーアイ、シントと契約するつもりはある?』
『契約者と? 構わないが……なぜだ?』
『シントは時空魔法も覚えさせてあるの。普段はポーションや食料の保管庫にしか使わせていないけれど、そろそろ新しい使い道を教えるべきだと考えたところよ』
『なるほど《ディメンション・ゲート》か。それは心強い。助けられる者はすぐにでもこの場に呼び寄せることができる』
ふたりの間でどんどん話が進んで行っていますが……《ディメンション・ゲート》とは一体なんでしょう?
話の流れから察するに時空魔法のひとつのようですが……。
『まずはタイガーアイとの契約よ。タイガーアイ、名前の希望は?』
『〝トライ〟を望む。問題ないだろうか?』
「構いません。では始めます」
もう何度も実行している契約術、相手から拒まれない限りは失敗などしません。
タイガーアイにも〝トライ〟の名前を与えて無事契約成立です。
『さて、《ディメンション・ゲート》の説明ね。《ディメンション・ゲート》は時空魔法の一種で空間と空間をつなげて自在に行き来できる門を作り出すの。門といってもただ、穴が開くだけなのだけど』
「ですが、僕は影の軍勢の拠点には行ったことがありませんよ?」
『それは心配に及ばない。《ディメンション・ゲート》の移動先は契約している幻獣や精霊、妖精の知っている場所でもいけるのだ。余計魔力は消費してしまうがシントの魔力量であれば問題ない』
『私と契約したあと、徹底的に魔力強化の実を食べさせ続けたもの。当然ね』
……どうやら、僕は知らない間にそこいらの大魔術師様など目じゃないほどの魔力量を与えられていたようです。
ともかく、いまは《ディメンション・ゲート》でトライの仲間を救いに行かないと!
『そうそう、《ディメンション・ゲート》だけど神域や聖域のような場所の中で使おうとしたり、その中に移動しようとしたりしても発動しないから注意してね?』
「つまり、一度神域の範囲外に出てから使う必要があると」
『そうなるわ。資格のない者が神域や聖域に入り込めないようにするための対抗措置でもあるわね』
「わかりました。トライ、急ぎましょう」
『人間どもの〝狩り〟には数日余裕があるが急ぐべきか。よし、急ごう』
『今回は護衛としてトルマリンも行くそうよ。もう準備できているから急ぎなさいな』
メイヤに急かされて森の出入り口の方に向かうと、確かにトルマリンが待っていてくれました。
神域外に出てトライから《ディメンション・ゲート》の使い方を学び、実施に空間をつなげてみると、出た先は光がほとんど差し込まないような深い森の中。
ここが影の軍勢が棲み着いている場所?
『戻ったぞ、皆の者! 神樹の里との交渉は成功した! 心清い者であるならば神樹の里で受け入れてもらえるそうだ!』
トライの叫び声に反応してそこら中の木の陰から黒い鳥や猫、犬、狼、兎、リス、などなど、様々な生物が姿を現し始めました。
ただ、その中から声をかけてくるものが一匹。
トライと同じように額に第三の眼を持つ鷲です。
『心清い者とはどういう意味だ、タイガーアイ』
『神樹の里は神域。心が穢れている者はそもそも入ることがかなわない。入ることさえできれば受け入れてもらえるそうだ。無論、それぞれの力にあった仕事は与えられるだろうがな』
『ただで受け入れてくれるなどと言う甘い話には乗らぬ。心穢れている者が入れないことも理解した。ほかの条件は?』
『すまない。皆を安全な場所へと導くことを優先してしまったため子細を詰めていない。細かいところまで話をしてくるべきだったか?』
『できればその方が良かったが、今回は助かった。先ほど偵察に出たが人間どもはもう2日程度の距離まで迫っている。一刻の猶予もない。その《ディメンション・ゲート》の先、まばゆい輝きに包まれている場所が神樹の里か?』
『そうなる。できれば可能な者は速やかに移動してもらいたい』
『その話、受けよう。幼い者たちを優先してゲートの先へと向かわせろ! 明るい場所ではあるが一時我慢するのだ!』
ああ、影の軍勢って明るい場所が苦手なんですね。
メイヤと相談して彼らの住処も作ってあげないと。
そのあとも三つ目の鷹の指示に従い、幼そうな幻獣たちから次々に門をくぐり抜け神樹の里の内部へと入っていきました。
ときどき順番を割り込んで入って行こうとする幻獣もいますが、そういった者たちはすべて神樹の里の結界に阻まれ中に入れません。
怒り狂って結界に攻撃を仕掛けた者もいましたが、結界からの反撃で全身を聖なる光に貫かれ塵となり消え去りました。
それを見て幼い幻獣たちが恐ろしくなり入って行くのを止めてしまいましたが、トライが自由に出入りできることを見せてあげることで普通の者には安全であることを示し、また移動は再開します。
幼い幻獣たちが終わったら大人の幻獣たちも移動を開始。
先ほどは出てこなかった蜘蛛の幻獣なども姿を見せて神樹の里へと飛び込んで行きました。
そして残ったのはトライに僕とリン、三つ目の鷹と結界に阻まれた影の軍勢のみです。
『すまぬがお前たちは神樹の里に入る資格がなかった。なんとかして生き延びよ』
『左様。幻獣が幻獣としての誇りを汚さず生きていれば神域に入ることもできたはずだ。神域の結界に拒まれたということは誇りを捨てていたということの証明。お前たちは影の軍勢より除名、少数ならば人間どもの〝狩り〟から逃げる手もあるだろう。これからは幻獣の名を汚さないことだ。魔獣に墜ちたくなければな』
『そうなる。帰るぞ、シント、リン』
「いいのですか?」
『構わぬよ。このような不届き者にこれ以上時間を割いてやる必要もない』
「あの、三つ目の鷲様。あなたは?」
『俺もこの場に残ろう。一匹くらいは囮がいなければ〝狩り〟の目をごまかせまい』
『トライイーグル……』
『気にするな。俺も長く生きているのだ。逃げ切るくらいしてみせる』
「だめです! あなたのような誇り高い方が犠牲になろうとするだなんて!」
『しかし、少女よ……』
『リンのいうとおりだ。お前ひとりがここに残っても人間どもがこの場を荒らすのは変わりない。無駄に命を散らすのならば我らとともにこい』
『……わかった。その代わり、少女よ。契約術を使えるのなら俺と契約を交わせ。名は……〝オニキス〟がいいな』
「はい! でも、神樹の里に戻ってからです!」
『……かなり怒らせてしまったな』
『命を粗末にしようとするからだ』
こうして影の軍勢を仲間に迎え入れることもできました。
トライイーグルも無事リンと契約を済ませて〝オニキス〟となりましたし問題なしです。
ツリーハウスに頼み、影の軍勢用に密林も作っていただきましたししばらくはそこで静養していただきましょう。
ディーヴァがまた歌を披露しているのでしょう。
最近はドワーフたちも聴きに来るようになったと聞きますし大好評ですね。
「よかった。ディーヴァ様がみんなに受け入れられて」
「ディーヴァもミンストレルもリュウセイが悪人ではないと判定しているのです。みんな受け入れてくれますよ」
「そうなんだけど……やっぱり心配だったんだもん」
「心配性ですね。僕たちも聴きに行きましょう」
「うん!」
僕たちふたりが花園に入ってきたのを確認したディーヴァはこちらに軽く手を振って歌を歌い続けます。
その内容も様々で英雄譚から恋の歌、牧畜民の歌など多種多様。
みんながその歌声と内容に酔いしれていました。
「……皆様、申し訳ありませんが本日はここまでです。また明日、歌を披露いたしますのでお時間とご興味のある方は是非お越しくださいませ」
ディーヴァの終了宣言に大きな歓声と拍手がまき送り、各自それぞれバラバラに散っていきます。
残されたのはディーヴァにミンストレル、花園の主ローズマリー、それから僕とリンですね。
「いかがでしたか? 森にいたときよりも声の調子が良くなっているのですが」
「素晴らしい歌声でしたよ。ねえ、リン」
「うん! 感動しちゃったよ、ディーヴァ!」
「ありがとうございます。ローズマリーもいかがでしたでしょう」
『綺麗な歌声だったね。これなら私の花園ともぴったりだよ!』
「毎日使わせていただき感謝しております。さて、そろそろ昼食のお時間ですね」
「そうですね。メイヤのところに行きましょう」
「はい。ミンストレルは午後からお歌の練習ね?」
「はい! ディーヴァお姉ちゃん!」
ミンストレルも元気になってよかったです。
僕たちは4人一緒にメイヤの元を訪れ、昼食の木の実を食べさせてもらいました。
メイヤに聞くと、ふたりの木の実は精霊としての力が増す木の実だそうです。
僕たちとはまた違った木の実なんですね……。
食事が終わるとディーヴァはミンストレルを連れて花園の方へと戻って行き、僕とリンはメイヤから状況報告を受けます。
もちろん〝王都〟の〝狩り〟についての報告を。
『ディーヴァがミンストレルをよくあやしてくれているから助かるわ。ミンストレルの前で暗い話はしたくないもの』
「同感です。と言うことは、また悪い話なんですね?」
『悪い話ね。幻獣や精霊たちが知っている限りの生息地を回っているけれど、どこも激しい戦闘のあとが残されているばかりでそこで暮らしていたはずの者たちはいなかったそうよ』
「〝王都〟め……どこまでも卑劣な!」
『正直、後手に回りすぎていて手の施しようがないのがいまの状況。保護できた精霊や妖精は神樹の里に来てもらっているけれどそれだってごく少数。幻獣なんて1匹も保護できていないわ』
「それは困りました。なにかいい手段は……」
『いまのままではなにもない。それで、シントとリンに相談なのだけど、〝影の軍勢〟と交渉してみるつもりはある?』
影の軍勢?
聞いたことがない言葉ですが、メイヤがこの場で持ち出したということはなにか意味があるんでしょう。
「メイヤ様。影の軍勢とは?」
『〝影〟の名前を持つ幻獣たちの一派よ。影に入り込む力を持ち、どんな方法でも察知できない。個々の戦闘力は種族によってまちまちだけれど、情報収集能力はピカイチ。彼らの協力を取り付けることができれば、あるいは〝狩り〟の先手を打てるかも』
「でも、〝交渉〟なんですよね? どんなことを要求されるのですか?」
『それは話を聞いてみないとわからないわ。彼らはほかの幻獣たちとも交流を持たない一派だから』
「……骨が折れそうです」
「無理なお願いじゃないといいなぁ」
『無理そうなら諦めてもいいわ。彼らの協力があると今後が楽になるけれど、なければないで対処法はあるもの』
「わかりました。交渉をしてみましょう。どこで会えますか?」
『交渉窓口になってくれる幻獣は近くまで来てくれているわ。歩いて行ける距離だから歩いて行って頂戴。お供はリュウセイくらいだけでね』
「敵意を見せないためですね、メイヤ様?」
『あちらがどんな交渉役を出してくれているかわからないもの。弱い子だったら、五大精霊相手だと完全に脅しとなってしまうわ』
「わかりました。僕とリン、リュウセイだけで行ってきます」
『よろしくね。場所は、あそこから森に進んでまっすぐ歩けばあちらから接触してくれるそうよ』
「了解です。不安だけど行きましょう、リン」
「うん」
僕はリュウセイを呼び出して森の奥へと進みます。
そのまま30分くらい歩いたところでなにかの気配を感じ、リンと背中合わせになって警戒態勢をとりました。
リュウセイもいつでも襲いかかれるように準備していますし、なにかがいますね。
『すまない、驚かせてしまったな。神樹の里の契約者と守護者の力を量るためだったのだ。警戒を解いてもらいたい』
そう言いながら木の陰より出てきたのは黒色の虎。
鋭く伸びた2本の牙を持ち、額には3つ目の瞳が存在しています。
彼が影の軍勢の交渉役?
『自己紹介をしよう。私はタイガーアイ。現在影の軍勢と呼ばれている幻獣たちのとりまとめをしている』
「初めまして、僕はシント。ご存じのようですが神樹の里の契約者です」
「同じく守護者のリンです。こっちはホーリーフェンリルのリュウセイ」
「……ウォフ」
『ホーリーフェンリルからは嫌われてしまったな。無理もないか。それで交渉なのだが、影の軍勢が神樹の里に力を貸すのは問題ない。その代わりとして、影の軍勢全員を神樹の里で受け入れてもらいたいのだ』
「影の軍勢全員を?」
「あの、影の軍勢であろうとも邪悪な存在は入れませんよ?」
『承知済みだ。入れないものは切り捨てる。入れるものだけを受け入れていただきたい』
影の軍勢が神樹の里への移住希望ですか……。
メイヤとも相談しなければいけない案件ですが、とりあえず事情を聞いておきましょう。
「タイガーアイ。なぜ、あなた方は神樹の里へ来たいのですか?」
『我々の元へも人間どもの〝狩り〟が迫ってきている。戦える者はいいのだが、戦えるほど力のない者や幼い者はあがきようがない。おそらく、我々用の対抗装備も調えてきているだろう。時間があまりないのだ。この願い、聞きとどけてもらえないか?』
ここでも〝狩り〟ですか……。
メイヤとの相談は確定ですが急がねばなりませんね。
「わかりました。すぐに戻って神樹の聖霊メイヤとも相談してきます。あなたはどうしますか?」
『お邪魔でなければ同行したい。お許し願えるだろうか?』
「リン、どうします?」
「切羽詰まった状況があるみたいだし放っておけないよ。少しでも〝狩り〟の被害を減らせるなら私たちの目的とも合うわけだし」
「わかりました。リュウセイも飛びかかっちゃだめですからね?」
「……ォゥフ」
僕はリュウセイに先導されながら神樹の里へと戻ります。
メイヤが〝迷いの森〟というだけあってここは深い森林、僕はおろかリンでさえ方向感覚が曖昧になりますからね。
時間をかければ戻れるのでしょうがいまは時間もありませんし、リュウセイ頼みです。
そして、メイヤの元に戻るとすぐに対策会議が始まりました。
『影の軍勢すら〝狩り〟の対象にするだなんて……〝王都〟はなにを考えているのかしら?』
『すまない。我々にもわからぬ。いまは一刻も早く皆を脱出させ、安全な場所へと移動させてやりたいのだ』
『わかったわ。ここに連れてきた時点でシントとリンは同意なのでしょう?』
「はい」
「私もです」
『それなら受け入れできる者は受け入れるわ。受け入れできない者は申し訳ないのだけれど……』
『我々影の軍勢には狡猾であくどい者もいるからな。そのような者まで助けてほしいなどとは言わない』
『その覚悟が聞ければ十分だわ。タイガーアイ、シントと契約するつもりはある?』
『契約者と? 構わないが……なぜだ?』
『シントは時空魔法も覚えさせてあるの。普段はポーションや食料の保管庫にしか使わせていないけれど、そろそろ新しい使い道を教えるべきだと考えたところよ』
『なるほど《ディメンション・ゲート》か。それは心強い。助けられる者はすぐにでもこの場に呼び寄せることができる』
ふたりの間でどんどん話が進んで行っていますが……《ディメンション・ゲート》とは一体なんでしょう?
話の流れから察するに時空魔法のひとつのようですが……。
『まずはタイガーアイとの契約よ。タイガーアイ、名前の希望は?』
『〝トライ〟を望む。問題ないだろうか?』
「構いません。では始めます」
もう何度も実行している契約術、相手から拒まれない限りは失敗などしません。
タイガーアイにも〝トライ〟の名前を与えて無事契約成立です。
『さて、《ディメンション・ゲート》の説明ね。《ディメンション・ゲート》は時空魔法の一種で空間と空間をつなげて自在に行き来できる門を作り出すの。門といってもただ、穴が開くだけなのだけど』
「ですが、僕は影の軍勢の拠点には行ったことがありませんよ?」
『それは心配に及ばない。《ディメンション・ゲート》の移動先は契約している幻獣や精霊、妖精の知っている場所でもいけるのだ。余計魔力は消費してしまうがシントの魔力量であれば問題ない』
『私と契約したあと、徹底的に魔力強化の実を食べさせ続けたもの。当然ね』
……どうやら、僕は知らない間にそこいらの大魔術師様など目じゃないほどの魔力量を与えられていたようです。
ともかく、いまは《ディメンション・ゲート》でトライの仲間を救いに行かないと!
『そうそう、《ディメンション・ゲート》だけど神域や聖域のような場所の中で使おうとしたり、その中に移動しようとしたりしても発動しないから注意してね?』
「つまり、一度神域の範囲外に出てから使う必要があると」
『そうなるわ。資格のない者が神域や聖域に入り込めないようにするための対抗措置でもあるわね』
「わかりました。トライ、急ぎましょう」
『人間どもの〝狩り〟には数日余裕があるが急ぐべきか。よし、急ごう』
『今回は護衛としてトルマリンも行くそうよ。もう準備できているから急ぎなさいな』
メイヤに急かされて森の出入り口の方に向かうと、確かにトルマリンが待っていてくれました。
神域外に出てトライから《ディメンション・ゲート》の使い方を学び、実施に空間をつなげてみると、出た先は光がほとんど差し込まないような深い森の中。
ここが影の軍勢が棲み着いている場所?
『戻ったぞ、皆の者! 神樹の里との交渉は成功した! 心清い者であるならば神樹の里で受け入れてもらえるそうだ!』
トライの叫び声に反応してそこら中の木の陰から黒い鳥や猫、犬、狼、兎、リス、などなど、様々な生物が姿を現し始めました。
ただ、その中から声をかけてくるものが一匹。
トライと同じように額に第三の眼を持つ鷲です。
『心清い者とはどういう意味だ、タイガーアイ』
『神樹の里は神域。心が穢れている者はそもそも入ることがかなわない。入ることさえできれば受け入れてもらえるそうだ。無論、それぞれの力にあった仕事は与えられるだろうがな』
『ただで受け入れてくれるなどと言う甘い話には乗らぬ。心穢れている者が入れないことも理解した。ほかの条件は?』
『すまない。皆を安全な場所へと導くことを優先してしまったため子細を詰めていない。細かいところまで話をしてくるべきだったか?』
『できればその方が良かったが、今回は助かった。先ほど偵察に出たが人間どもはもう2日程度の距離まで迫っている。一刻の猶予もない。その《ディメンション・ゲート》の先、まばゆい輝きに包まれている場所が神樹の里か?』
『そうなる。できれば可能な者は速やかに移動してもらいたい』
『その話、受けよう。幼い者たちを優先してゲートの先へと向かわせろ! 明るい場所ではあるが一時我慢するのだ!』
ああ、影の軍勢って明るい場所が苦手なんですね。
メイヤと相談して彼らの住処も作ってあげないと。
そのあとも三つ目の鷹の指示に従い、幼そうな幻獣たちから次々に門をくぐり抜け神樹の里の内部へと入っていきました。
ときどき順番を割り込んで入って行こうとする幻獣もいますが、そういった者たちはすべて神樹の里の結界に阻まれ中に入れません。
怒り狂って結界に攻撃を仕掛けた者もいましたが、結界からの反撃で全身を聖なる光に貫かれ塵となり消え去りました。
それを見て幼い幻獣たちが恐ろしくなり入って行くのを止めてしまいましたが、トライが自由に出入りできることを見せてあげることで普通の者には安全であることを示し、また移動は再開します。
幼い幻獣たちが終わったら大人の幻獣たちも移動を開始。
先ほどは出てこなかった蜘蛛の幻獣なども姿を見せて神樹の里へと飛び込んで行きました。
そして残ったのはトライに僕とリン、三つ目の鷹と結界に阻まれた影の軍勢のみです。
『すまぬがお前たちは神樹の里に入る資格がなかった。なんとかして生き延びよ』
『左様。幻獣が幻獣としての誇りを汚さず生きていれば神域に入ることもできたはずだ。神域の結界に拒まれたということは誇りを捨てていたということの証明。お前たちは影の軍勢より除名、少数ならば人間どもの〝狩り〟から逃げる手もあるだろう。これからは幻獣の名を汚さないことだ。魔獣に墜ちたくなければな』
『そうなる。帰るぞ、シント、リン』
「いいのですか?」
『構わぬよ。このような不届き者にこれ以上時間を割いてやる必要もない』
「あの、三つ目の鷲様。あなたは?」
『俺もこの場に残ろう。一匹くらいは囮がいなければ〝狩り〟の目をごまかせまい』
『トライイーグル……』
『気にするな。俺も長く生きているのだ。逃げ切るくらいしてみせる』
「だめです! あなたのような誇り高い方が犠牲になろうとするだなんて!」
『しかし、少女よ……』
『リンのいうとおりだ。お前ひとりがここに残っても人間どもがこの場を荒らすのは変わりない。無駄に命を散らすのならば我らとともにこい』
『……わかった。その代わり、少女よ。契約術を使えるのなら俺と契約を交わせ。名は……〝オニキス〟がいいな』
「はい! でも、神樹の里に戻ってからです!」
『……かなり怒らせてしまったな』
『命を粗末にしようとするからだ』
こうして影の軍勢を仲間に迎え入れることもできました。
トライイーグルも無事リンと契約を済ませて〝オニキス〟となりましたし問題なしです。
ツリーハウスに頼み、影の軍勢用に密林も作っていただきましたししばらくはそこで静養していただきましょう。
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彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
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「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
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【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
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28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
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スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
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