神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ

文字の大きさ
27 / 91
第2部 『神樹の里』環境整備と不満の解決

27.神樹の里、2年目が始まる

しおりを挟む
 神樹の里の周りで積もっていた雪も溶け、本格的な春がやってきました。

 神樹の里自体は常春な気候なので季節の移り変わりなど感じないのですが、やはり春になると嬉しい物です。

「ディーヴァの歌唱会も段々聴衆が増えていっているよねー」

「《ファーボイス》とアクセサリーのおかげでかなり遠くまで歌声が聞けるようになったおかげです。大型の幻獣などは後ろの方で見ていますからいまでは座席の取り合いもないそうですよ」

「そう言えば、ディーヴァの歌を聴くためだけに神樹の里に来ている幻獣や精霊、妖精がいるって聞いたけど?」

「いますね。どこかからディーヴァの噂を聞きつけて集まって来たようです。ただ、この神樹の里は招かれていなければ幻獣たちでも入れないのが原則。そういった者たちには一時的に入る許可を出して歌を聴き終わったら帰ってもらうようにしています」

「それ、ちゃんと言うことを聞いているの?」

「破ったら二度と里に入れないともメイヤが言いつけていますからね。みんな、きちんとルールを守って聴いていってくれていますよ」

「そっか。そう言えば、湖や海で新しい歌を覚えるときにも聴衆がいるって聞いたけど……」

「そっちも本当のようです。まだ不慣れであっても新しい歌をいち早く聴きたいと」

「こう言っては悪いけど私たちとあんまり変わらないのかも」

「怒りを買わない限りは温厚ですからね。みんな、この2カ月ほどですっかり落ち着いてくれたのでしょう」

「まだ働いている影の軍勢には申し訳ないけどね」

「影の軍勢だって交代で休みを取ってディーヴァやミンストレルの歌を聴きに来ています。最前列に居座りたいから影に潜っているだけで」

「それならいいか」

「〝対抗装備〟の破壊も進んでいますし、いまでは五大精霊が街を襲ってくることを恐れて自分たちから〝対抗装備〟とその技術書を街の外に捨てていてくれるそうです。助かりますね」

「うん。やっぱり、あまり誰かが死ぬのは気持ちいいことじゃないからね。甘い考えなのは理解しているけれど」

「そうですね。〝王都〟では仕方のないこととは言え大勢の方を殺してしまいました。次は誰にもそんなことはさせたくありません」

 僕たちがそんなことを話している間にもディーヴァの歌唱会は終わったようです。

 今回も聴衆は思い思いの方へと散っていき……結界の外を目指して進んで行くのは神域外から来てくれていた聴衆の方でしょうか。

 ミンストレルの歌も終わったようで、一緒に駆け寄ってきます。

「いつもお待たせして申し訳ありません。《ファーボイス》と魔法のアクセサリーのおかげで遠くまで声が聞こえるようになり、更に喉の調子が良くなるとつい歌が……」

「うん。みんな楽しそうに聞いてくれるから私も嬉しくなっちゃう!」

「気にしていませんよ。僕たちのところまでふたりの歌は届いていますし」

「うん! ふたりともとってもいい声だったよ!」

「ありがとうございます。幻獣様などからもたくさん新しい歌を教えていただきレパートリーを増やしているのですが、飽きられないかが心配で」

「私はお歌の練習中だからディーヴァ様みたいにたくさんの歌は歌えないの。でも、みんなそれでも喜んでくれるもん!」

「それはよかった。それでは昼食に行きましょうか」

「はい。参りましょう」

「うん!」

 いまだにこの4人で食事は取るようにしています。

 メイヤとしては「4人一緒に来ればお互いに体調チェックができていいでしょう?」と言うことらしいのですが、神樹の里で神樹の実を食べている僕たちが体調を崩すなどあり得るのでしょうか?

 ともかく、今日も美味しい昼食です。

 木の実の味も毎回変わっていますし、味の種類も増えていっている気がしますが……聞くのは野暮でしょう。

 食事が終わったら、最近メイヤがはまりだしたお茶を出してもらい、ゆっくりとした時間を5人で過ごします。

『それにしてもディーヴァとミンストレルの歌は大好評ね。結構順番待ちが発生しているのよ?』

「そうなのですか、メイヤ様。できればたくさんの方々に聴いていただきたいのですが……」

『いろいろと手は打ってあるけれどそれでも聞ける聴衆の数って限られるからどうしてもね。ミンストレルは小さな妖精や幼い幻獣や精霊、その親たちから人気ね』

「うん! 私もみんなから喜んでもらえて嬉しい!」

『そう考えると……シント、ふたりのために歌唱用の音楽堂を創造魔法で作ってあげなさいな』

「音楽堂ですか?」

『ええ。そこで歌えば声が響き渡るようになってよりたくさんの聴衆に声が届くようになるの。毎日、暇をしているのだから創造魔法の練習だと思って作ってあげなさい』

「構いませんよ。ただ、それがどのような形をしているかがわからないと」

『そこに詳しい者たちは明日招き入れるわ。その指示に従って音楽堂を建てなさいな。ディーヴァとミンストレルに相応しい立派な物をね』

「わかりました。頑張ります」

『頑張ってちょうだい。……ところで話は変わるけれど、神樹の里ができてからそろそろ1年なのよね。つまり私とシントが出会ってから丸1年が経過する訳よ』

「そう言えば僕が生まれ故郷の村を追放されたのって1年前でしたっけ。この1年間はいろいろ忙しくてそんなことすっかり忘れていました」

『シントのいた村の話、影の軍勢が調べてあるけれど聞きたい?』

「もうあの村とは何の関係もないのでどうでもいいのですが、影の軍勢の皆さんがわざわざ調べてくださったのです。聞きましょう」

『なんでも廃村になっていたそうよ。それも作物の放置具合から考えて夏にはいなくなったのだろうって』

「夏ですか。僕を追い出したのが春の始まりの頃なのにずいぶんと早い」

『そこで暮らしていた人々の行方までは知らないけれど、調べてもらう?』

「どうでもいいです。あそこには両親と兄もいましたが僕が役立たずだとわかると家にも入れず、食事も満足にくれなかったような連中ですから。興味がないとはいいませんが影の軍勢の皆さんの手を煩わす程の問題でもありません」

『わかった。私たちが出会って1年ということはリンがやってきてからももうすぐ1年なのよね』

「……その節は大変ご迷惑を」

『気にしていないってば。あなたもこの里の守護者になったのだからその名にふさわしい活躍をしてみなさい』

「はい! ありがとうございます、メイヤ様!」

『大変よろしい。1周年記念のお祝いとかもしたいけれど、幻獣たちが集まってお祭り騒ぎになるからやめておきましょう』

「それがいいですね。やめておきましょう」

『あと細かい問題もあるけど、それはまた後回しね。今日話して明日解決することでもないし。みんなは午後からどうするの?』

「僕とリンは里の見回りを。ついでになにかすぐに応じられる要望がないかも聞いて周りに」

「はい。そうさせていただきます」

「私とミンストレルは海に行きマーメイド様たちから海の歌を習いに行かせていただきます。もっともっと歌の種類を増やしたいので」

「うん! みんなにたくさんのお歌を聴いてほしい!」

『わかったわ。4人とも気をつけてね』

「はい。それにしても平和でのんびり過ごせるようになったものですね。神樹の里は」

『……移住希望者も多いのだけどね』

「それって受け入れられますか?」

『受け入れることは可能だけれど……引っ切りなしに来るから保留』

「それは大変です。メイヤの判断に任せます」

『そうしてちょうだい。それじゃあ、夕食の時間には戻ってきなさいね』

「はい。それではまた」

 本当に神樹の里も平和になりました。

 あとは暮らしているみんなが不自由なく過ごせる体制を整えることができれば完璧ですね。

 それを目指して頑張るとしましょう。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

処理中です...