ヘファイストスの灯火 ~森の中で眠り続けている巨大ゴーレムを発見した少女、継承した鍛冶魔法の力を操り剣でもドレスでもどんどん作りあげる~

あきさけ

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第3部 アウラ領、開発中 第1章 アウラ邸の食糧事情

49. 屋敷の新しい住人エドアルド

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 エドアルドさんを正式に迎え入れることになったため、エドアルドさんには農業研究所を辞めてもらうこととなった。
 そっちの方はものすごくすんなりいって、むしろ厄介払いされたみたいなんだけどね。
 問題は研究資料の方だったんだよね……。

「はあ!? 俺の研究資料を引き渡せだと!」

 やってきたのは農業研究所の所長とか言うご老人エルフ。
 エルフであの見た目なんだから相当なご高齢だろう。
 ともかく、あの所長さんはエドアルドさんの研究資料を奪い取りたいようだ。
 いままで散々冷遇しておきながら、最後は研究をすべて引き渡せだなんていい度胸をしているよ。

「当然だろう、エドアルド。お前の研究は研究所から支払われていた給金で行われていたものだ。それならば、資料を残して行くのは当然だろう?」

「研究所からの金なんてこの数十年支払われてねぇよ、ジジイ! この研究は俺の自費でやってきたものだ!」

「なに? そうなのか?」

「いえ、そんなことはございません。エドアルドへの給金はきちんと毎月大銅貨5枚支払われております。ただし、職員への施設使用料として大銅貨5枚を回収させていただいております」

 あのジジイについてきた男がなんの恥じらいもなくそんなことを抜かす。
 それって結局無給ってことじゃないの!

「そうか。それならば問題ないな。研究所からお前には毎月金は支払われていたようだ。さっさと研究資料を渡せ」

「断る! お前らが勝手に決めた施設使用料を取り立てることで実質無給となっていたんだ! そんなところに俺の研究を渡せるか!」

「やれやれ、困ったものだ。おい、お前たち。奴の家から研究資料をかき集めてこい。儂が許す」

「「「はっ!」」」

 とうとうジジイは実力行使に出たようだ。
 こうなったら話も早いんだけどね。

「てやっ」

「おわぁッ!?」

「なんだ!」

 あたしが振るった鞭で先頭にいた連中の足元がえぐられた。
 家の中に押し入ろうとしていた連中は驚いて足を止めたよ。

「なにをする、小娘!」

「いやあね、あたしがエドアルドさんの次の雇い主なわけ。勝手にエドアルドさんの研究資料を持ち出されても困るのよ」

「ふざけるな! エドアルドの研究資料は農業研究所の研究資料だ!」

「自分たちで閑職に追い込んで農業研究所内に席も与えず、給金も支払っていなかったのに研究資料は自分たちのもの? ずいぶんと強欲ね」

「なにを……」

「事実でしょ。図星を突かれたくらいで怒らないで」

「ふざけるな!」

「はいはい。お年寄りは黙っていてね。エドアルドさん、こんな連中放っておいて早く出発の準備をしましょう。帰る頃には日が暮れてしまうわ」

「ん? ああ、そうだったな」

 あたしたちはジジイたちを置き去りに家の中へと戻ろうとする。
 しかし、そんな私たちの背中にジジイの怒鳴り声がまだ浴びせられてきた。
 しつこいジジイだね。

「おい! 話はまだ終わってないぞ!」

「こっちはもう話すことなんてないの。それじゃあね、お爺ちゃん」

「待て、待たぬか!」

「なによ、なにか用なの?」

「当然だ! あの研究を持っていくというのであれば相応の対価を支払え!」

「相応の対価ねぇ。いくら?」

「白金貨百枚だ! 奴の研究にはそれだけの価値がある!」

「却下」

「なにぃ!?」

「白金貨百枚分の価値があるなら毎月大銅貨5枚で雇ったりしないでしょう? 支払えるのは銀貨5枚までよ」

「ふざけるな! その程度で研究資料が買えると思っているのか!?」

「あんたたちこそ優秀な研究員が手元を離れる間際になってから、その資料を奪い取ろうだなんて虫がよすぎよ」

「ええい、小煩い! 儂はダマル男爵家の三男ぞ! それに平民ごときが逆らいおって! 構わん、こやつらを切り捨てよ!」

 ダマルだかダマレだか知らないけれどどっかの男爵家出身らしいジジイは、あたしたちを殺そうと全員に命令を出した。
 でも、さすがにこれにはみんな躊躇したみたいだね。

「ええい! なにをしている! さっさと始末せぬか!」

「しかし、所長。人殺しをすれば……」

「そのような些細なこと、伯爵夫人に取りなしてもらえば問題などない! 早くせぬか!」

「いいわよ、かかってきても。その時は返り討ちにするけれど」

「……ほう。伯爵夫人の後ろ盾もある男爵家三男相手に武器を抜くか?」

「そっちこそ。名誉伯爵のあたしを殺そうだなんていい度胸じゃない。始末されたい?」

「なに? 名誉伯爵?」

「そうよ。あたしはミラーシア湖のアウラ。男爵家の三男がどれだけ偉いのかは知らないけれど、あたしを相手にするのはまずいんじゃない?」

「あ、ああ、いや……」

「それで、さっさと帰る? 返り討ちにされる?」

「……引くぞ、お前たち!」

 あたしが身分を明かしたらすごすごと農業研究所の連中は帰っていったよ。
 結局、権力にすがって強気に出ることしかできない無能か。
 役に立たない連中。

「……ところで、フェデラー。こういうとき、あたしはどの程度まで許されるの?」

「賊は皆殺しにしても罪に問われません。まして、男爵家の三男坊など平民同然。あの年ですと先代か先々代当主の三男といったところでしょう。その肩書きを振り回している時点でお里が知れますな」

「なるほど。とりあえず、さっさと街を出る方がよさそうね。ぱぱっと片付けましょう」

「そうだな。それがいい」

 このあとはなんの妨害もなくすべての研究資料と畑にあったお野菜を収集できた。
 街から出たあとすぐにヘファイストスに運んでもらったし、闇討ちを考えていたとしても無駄だね。

 そしてお屋敷に帰ってきたんだけど、クスイが待ち構えていた。
 3人娘は大丈夫だったかな?

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま、クスイ。あの3人は?」

「この屋敷に着くなり緊張が解けたのか、意識を失うように眠ってしまいました。いまはベッドで寝かしつけてあります」

「そっか。あの3人、うちで雇っても大丈夫かな?」

「ひとまずは経過観察からですね。お嬢様のお屋敷にいるメイドたちは全員貴族の子女でございます。そこに馴染めるかどうか」

「馴染めなかったらどうしよう」

「そこも考えてありますのでお嬢様はご心配なさらず。それで、そちらは?」

「ああ、アグリーノの街で見つけてきた研究者のエドアルドさん。シーナさんと一緒に野菜の研究をしてもらおうと思って」

「そうでしたか。私はお嬢様お屋敷でメイド長を務めているクスイと申します。今後、よろしくお願いいたします」

「ああ、よろしく。早速だが野菜畑の様子を確認させてもらいたい」

「それならあたいが案内するよ。アウラの夕飯用の野菜も採ってこないといけないからね」

「へえ。そいつは期待できそうだ。それじゃあ、またあとで」

 エドアルドさんはシーナさんと一緒になって畑の様子を見に行ってしまった。
 残されたあたしたちはやれやれといった感じだね。

 ともかく、翌日からはエドアルドさんも野菜の品種改良に着手し始めた。
 水龍とも挨拶を済ませて意気投合したみたいだし……それでいいの、ミラーシア湖の守護者?
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