猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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花屋の店主

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翌日、ルカの花屋訪問計画は皮肉にも彼自身の「完璧な仕事ぶり」によって阻まれることになりました。

王都の行政官たちが、次々と緊急の案件を抱えてルカのもとへ駆け込んできたのです。全属性の魔力を持ち、事務処理能力も桁外れな彼は、他の王族が三日かける仕事を数時間で終わらせてしまうため、皮肉にも頼りにされすぎていました。

「……あーあ。せっかく面白いものを見つけたと思ったのに」

書類の山を前に、ルカは猫をかぶったままの優雅な溜息をつきました。しかし、その瞳は期待に微かに揺れています。

「セバス、悪いけど使いを頼めるかな。あの花屋がどんなところか、実際に見てきてほしいんだ。……ああ、怪しまれないように、適当に花でも買ってくるだけでいいよ」

「……結局、俺が行くのかよ。まぁいいけどな、お前の代わりに『刺されないか』下見してきてやるよ」

セバスは呆れたように肩をすくめ、執事の正装を少しだけ崩して町へと繰り出しました。

一方、噴水通りの裏路地にある、小さな花屋。
そこには、街の喧騒から切り離されたような、静かで清廉な空気が流れていました。店先に並ぶのは、高級な王立庭園にも負けないほど、瑞々しく、力強く命を宿した花々です。

「今日も、とっても綺麗に咲いてくれたのね。ありがとう」

店主のリネットは、一輪の大きな白い花にそっと触れながら、慈しむように声をかけていました。
彼女は無意識のうちに、指先から微かな光を漏らしていました。その温かな魔力は、水を吸い上げたばかりの土を通り、根の隅々まで染み渡っていきます。
リネットにとって、それは特別な「魔法」の儀式ではありません。
お花たちが喉を乾かしていないか、寒がっていないか。三つの属性を器用に使い分け、寄り添うように整えてあげる――。それは、朝起きて顔を洗うのと同じくらい、彼女にとっては当たり前の「愛」の形でした。

「さあ、誰のところへ行くのかしら。素敵な人に買ってもらえるといいわね」

彼女が花びらを優しく撫でたその時、店のカウベルが低く鳴りました。

カランコロン

「いらっしゃいませ」

いつもの穏やかな笑顔で顔を上げたリネットの前に立っていたのは、丁寧な身のこなしをした一人の青年だった。

王宮の執事であるセバスは、主人の無茶振りに応じる苦労人でありながら、誠実で優しい人物だ。彼は内心でため息をつきながらも、努めて柔和に微笑んだ。

「こんにちは。すまないが、花を一束、繕ってもらえないだろうか」

「はい、喜んで。……贈り物ですか?」

リネットは花鋏を置き、不思議なほど透き通った瞳でセバスを見つめた。

「ええ、そんなところです」

「では、いくつかお伺いしてもいいですか? どなたに贈られるものなのか……その方は、どのようなイメージの方でしょう? お好きな色や、普段のお姿は?」

リネットの問いかけは、花を最高の状態で届けたいという純粋な思いからのものだった。しかし、代わりに買いに来ただけのセバスは、言葉に詰まってしまう。

「あー…すまない。」

リネットが不思議そうに首を傾げる。それに対してセバスは、正直に事情を説明することにした。

「……すまない。実は、僕も詳しいことは聞いていないんだ。本人がどうしても足を運べない状況でね。執事である僕が代わりに伺ったんだよ」

それを聞いたリネットは、ふっと花が開くような笑顔を浮かべて問いかけた。

「そうですか。……では、そのお方は『適当に選んで買ってこい』とでも、貴方に仰ったのですか?」

「……。(おっと、失態。)」

穏やかな笑顔のはずなのに、セバスはリネットの真っ直ぐな瞳に射すくめられたような気がした。彼女に嘘をつくことや、花を軽んじる主人の態度が、無性に申し訳なく感じられてしまう。

すると、リネットの表情からスッと笑みが消えた。
先ほどまでの柔らかな空気は消え失せ、彼女は静かな、しかし確固たる意志の宿った真顔で言い放つ。

「そうですか。でしたらその主(あるじ)とやらに、こうお伝えください」

リネットは凛とした佇まいで、セバスを真っ直ぐに見据えた。

「『あんたみたいな適当なやつに、うちの子(お花)はやりません』……と」

「……」

突き放すようなその言葉に、セバスは返す言葉も見つからなかった。彼女にとって、花はただの商品ではなく、慈しみ育てた家族のようなものなのだ。それを「適当に」扱おうとした主人の傲慢さが、リネットの逆鱗に触れたことを悟る。

セバスは深く、申し訳なさを込めて一礼をした。
そのまま、一輪の花も手にすることなく、静かに店を去っていく。背後で小さく響いたカウベルの音は、今のセバスにはひどく重く感じられた。
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