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「気持ち悪い」
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城に戻ったセバスから一部始終を聞いたルカは、執務室の椅子に深く背を預け、愉快そうに喉を鳴らした。
「『うちの子はやりません』、か。……あはは! 面白い。ねぇセバス、君は僕の使いだとは伝えたのかい?」
「いや、伝えられる空気じゃなかったよ。あの真っ直ぐな目で見られたら、あんたの不作法を謝るのが精一杯。」
肩をすくめて答えるセバスの顔には、まだどこか気圧されたような色が残っている。それを見たルカは、窓の外の町並みを眺め、ふっと不敵な笑みを浮かべた。全属性の魔力を持ち、神の加護を一身に受ける自分を、文字通り「門前払い」にした少女。
「……仕方ない。そこまで言わせる花屋なら、僕が直接足を運ぶとしよう。予定を空けておいてよ、セバス」
数日後。
王宮の喧騒を離れ、二人は町へと繰り出した。ルカは派手な装飾を隠し、身分を伏せた上質な平民の装いをしている。隣を行くセバスもまた、目立たないよう変装していた。
「あそこですよ」
セバスが指差した先には、路地裏にひっそりと佇む、緑豊かな小さな店があった。ルカは一見すると爽やかな青年を装いつつ、内側では冷静に周囲の気配を観察する。店先には、確かに瑞々しい魔力を纏った花々が咲き誇っていた。
「……ふうん、ここか」
ルカは期待に胸を躍らせながら、木製のドアをゆっくりと押し開けた。
カラン、と乾いたカウベルの音が店内に響く。
「いらっしゃいませ」
奥から顔を上げたのは、16歳のリネットだった。
窓から差し込む光を浴びて、銀色の髪が淡く輝いている。その瞳は、まるで凪ように静かで、海のように澄み渡っていた。
(……美しいな)
ルカは思わず、足を止めた。
今まで数え切れないほどの貴族の令嬢や、着飾った女性たちを見てきた彼だったが、その誰とも違う、凛とした透明感。
ルカはいつもの完璧な「猫かぶり」の笑顔を作り、彼女へと歩み寄る。
「こんにちは。……ここに来れば、世界で一番美しい花に出会えると聞いてね」
王子としての余裕を纏い、極上の微笑みを放つルカ。
「あぁ、あなた。見覚えがあると思ったら」
奥から歩み寄ってきたリネットは、隣に立つセバスの姿を認めるなり、一瞬で温度を失った無表情になった。その瞳は、まるで不純物を一切許さない冷たい冬の湖のようだ。
「……先日は、本当に失礼いたしました。」
執事として、セバスが慌てて頭を下げる。数日前、一輪の花も手にできず追い返された悪夢が、彼の中で鮮明に蘇っていた。
それを見たルカは、内心でほくそ笑んだ。セバスをここまで恐縮させるとは、やはり面白い娘だ。ルカはいつもの、誰もが釘付けになる完璧な「王子スマイル」を浮かべ、一歩前へ踏み出す。
「すまない、先日は公務が立て込んでいてね。執事を寄越して済ませようとした無礼を許してほしい」
ルカは流れるような所作で胸に手を当て、最高に爽やかな声音で告げた。
「僕はルカ・エインズワース。君の名前を教えてもらえるかな?」
(さあ、どう出る? 僕は『エインズワース』――この国の王子だぞ。身分を知って顔を赤らめるか、それとも不作法を詫びて平伏するか……)
ルカは期待に瞳を細め、彼女の反応を待った。神に愛され、全属性の魔法を操る自分に跪かない人間など、この世にいるはずがない。
しかし、返ってきた言葉は、ルカの想定を木っ端微塵に打ち砕くものだった。
「――気持ち悪い」
リネットは表情一つ変えず、ゴミを見るような冷ややかな視線でルカを突き放した。
「「……えっ!?」」
ルカとセバス、二人の声が見事に重なり、情けなく裏返った。
あの無敵を誇ったルカの「王子スマイル」が、まるで凍りついたように固まる。
「な、なんだって……? 今、なんて言ったんだい?」
「耳まで悪いの? その笑顔、気持ち悪いって言ったのよ。……中身が空っぽなのに、よくそんなに綺麗に笑えるわね。吐き気がするわ」
リネットの瞳は、彼の完璧な猫かぶりの裏にある「退屈」と「傲慢」を、容赦なく、そして正確に射抜いていた。
全属性魔法を極め、剣を振れば無敗。神の加護さえ持つルカ・エインズワースが、生まれて初めて「敗北感」を、それもたった一言で味わわされた瞬間だった。
「わかった」
ルカは短くそう呟くと、それ以上何も言わなかった。凍りついていたはずの表情は、一瞬にしていつもの、いや、それ以上に磨き抜かれた完璧な「王子様」の笑みに戻る。
「邪魔をしたね。……行こうか、セバス」
軽く手を上げて店を後にするルカの背中を、セバスは信じられないものを見るような目で見つめ、慌てて後を追った。
「『うちの子はやりません』、か。……あはは! 面白い。ねぇセバス、君は僕の使いだとは伝えたのかい?」
「いや、伝えられる空気じゃなかったよ。あの真っ直ぐな目で見られたら、あんたの不作法を謝るのが精一杯。」
肩をすくめて答えるセバスの顔には、まだどこか気圧されたような色が残っている。それを見たルカは、窓の外の町並みを眺め、ふっと不敵な笑みを浮かべた。全属性の魔力を持ち、神の加護を一身に受ける自分を、文字通り「門前払い」にした少女。
「……仕方ない。そこまで言わせる花屋なら、僕が直接足を運ぶとしよう。予定を空けておいてよ、セバス」
数日後。
王宮の喧騒を離れ、二人は町へと繰り出した。ルカは派手な装飾を隠し、身分を伏せた上質な平民の装いをしている。隣を行くセバスもまた、目立たないよう変装していた。
「あそこですよ」
セバスが指差した先には、路地裏にひっそりと佇む、緑豊かな小さな店があった。ルカは一見すると爽やかな青年を装いつつ、内側では冷静に周囲の気配を観察する。店先には、確かに瑞々しい魔力を纏った花々が咲き誇っていた。
「……ふうん、ここか」
ルカは期待に胸を躍らせながら、木製のドアをゆっくりと押し開けた。
カラン、と乾いたカウベルの音が店内に響く。
「いらっしゃいませ」
奥から顔を上げたのは、16歳のリネットだった。
窓から差し込む光を浴びて、銀色の髪が淡く輝いている。その瞳は、まるで凪ように静かで、海のように澄み渡っていた。
(……美しいな)
ルカは思わず、足を止めた。
今まで数え切れないほどの貴族の令嬢や、着飾った女性たちを見てきた彼だったが、その誰とも違う、凛とした透明感。
ルカはいつもの完璧な「猫かぶり」の笑顔を作り、彼女へと歩み寄る。
「こんにちは。……ここに来れば、世界で一番美しい花に出会えると聞いてね」
王子としての余裕を纏い、極上の微笑みを放つルカ。
「あぁ、あなた。見覚えがあると思ったら」
奥から歩み寄ってきたリネットは、隣に立つセバスの姿を認めるなり、一瞬で温度を失った無表情になった。その瞳は、まるで不純物を一切許さない冷たい冬の湖のようだ。
「……先日は、本当に失礼いたしました。」
執事として、セバスが慌てて頭を下げる。数日前、一輪の花も手にできず追い返された悪夢が、彼の中で鮮明に蘇っていた。
それを見たルカは、内心でほくそ笑んだ。セバスをここまで恐縮させるとは、やはり面白い娘だ。ルカはいつもの、誰もが釘付けになる完璧な「王子スマイル」を浮かべ、一歩前へ踏み出す。
「すまない、先日は公務が立て込んでいてね。執事を寄越して済ませようとした無礼を許してほしい」
ルカは流れるような所作で胸に手を当て、最高に爽やかな声音で告げた。
「僕はルカ・エインズワース。君の名前を教えてもらえるかな?」
(さあ、どう出る? 僕は『エインズワース』――この国の王子だぞ。身分を知って顔を赤らめるか、それとも不作法を詫びて平伏するか……)
ルカは期待に瞳を細め、彼女の反応を待った。神に愛され、全属性の魔法を操る自分に跪かない人間など、この世にいるはずがない。
しかし、返ってきた言葉は、ルカの想定を木っ端微塵に打ち砕くものだった。
「――気持ち悪い」
リネットは表情一つ変えず、ゴミを見るような冷ややかな視線でルカを突き放した。
「「……えっ!?」」
ルカとセバス、二人の声が見事に重なり、情けなく裏返った。
あの無敵を誇ったルカの「王子スマイル」が、まるで凍りついたように固まる。
「な、なんだって……? 今、なんて言ったんだい?」
「耳まで悪いの? その笑顔、気持ち悪いって言ったのよ。……中身が空っぽなのに、よくそんなに綺麗に笑えるわね。吐き気がするわ」
リネットの瞳は、彼の完璧な猫かぶりの裏にある「退屈」と「傲慢」を、容赦なく、そして正確に射抜いていた。
全属性魔法を極め、剣を振れば無敗。神の加護さえ持つルカ・エインズワースが、生まれて初めて「敗北感」を、それもたった一言で味わわされた瞬間だった。
「わかった」
ルカは短くそう呟くと、それ以上何も言わなかった。凍りついていたはずの表情は、一瞬にしていつもの、いや、それ以上に磨き抜かれた完璧な「王子様」の笑みに戻る。
「邪魔をしたね。……行こうか、セバス」
軽く手を上げて店を後にするルカの背中を、セバスは信じられないものを見るような目で見つめ、慌てて後を追った。
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