猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

文字の大きさ
23 / 31

強引な王子は好きですか?

しおりを挟む
「まずは……僕が見せたい『絶景』があるんだ」

ルカはリネットの手を引くと、隣の家の厩舎へと向かいました。そこには、セバスが城から連れてきたルカの愛馬が、主人の迎えを待っていました。

「頼むぞ……今日は絶対に、失敗したくないんだ」

ルカが馬の鼻先を優しく撫で、決意を込めて囁くと、賢い馬はまるで主人の緊張を理解したように力強く嘶きました。

「さあ、乗って」

ルカはリネットを軽々と、けれど壊れ物を扱うようにエスコートし、自分の前に跨がせました。背中から包み込むような形になり、リネットの背中にルカの胸の鼓動がダイレクトに伝わります。

「……ルカ、心臓の音、すごいうるさいわよ?」

「う、うるさい。僕のせいじゃない、馬の振動のせいだ!」

真っ赤な嘘をつきながら、ルカは手綱を引きました。
城壁を抜け、活気ある門を潜り、二人は風となって疾走します。街の喧騒が遠ざかり、目の前にはどこまでも続く青い空と草原が広がりました。

「……あ、坂道だ」

馬が緩やかな上り坂を駆け上がっていきます。道端には、ポツポツと見たこともない野花が顔を出し始めました。リネットがその花々に目を奪われていると、視界がいきなり、鮮烈な「色」で埋め尽くされました。

「……着いたぞ」

丘の頂上でルカが馬を止めると、そこには見渡す限りのカラフルなお花畑が広がっていました。

「わぁ……!」

リネットは息を呑みました。風が吹くたびに、赤、青、黄色、紫の花々が大きな波のように揺れ、甘い香りが二人を包み込みます。 

「綺麗……。私、こんな場所があるなんて知らなかった」

「ここはさ……視察の帰りに偶然見つけたんだ。君がいつもお花を大切に育てているのを見て、いつか、この景色を君に見せてあげたいって……ずっと、ずっと思ってたんだ」

馬から降りたルカは、リネットを抱き上げるようにして地面へと下ろしました。
リネットは夢中になって花畑の中へ歩いていきます。その姿は、まるで花の精霊が自分たちの楽園に戻ってきたかのようで、ルカは思わず目を奪われました。

「ルカ! 見て、これ『月の涙草』じゃない! 自生してるなんて珍しいわ……それに、あっちには……」

リネットがはしゃいで振り返ると、そこには花よりも熱い眼差しで自分を見つめるルカがいました。

「……綺麗だ」

ルカの視線は、一面に咲き誇る花々ではなく、その中心で瞳を輝かせているリネットだけに注がれていました。
「うん! 本当に綺麗ね。連れてきてくれてありがとう、ルカ!」

リネットは花畑の美しさに心を躍らせ、満面の笑みで答えます。けれど、ルカはその言葉を遮るように、一歩踏み出しました。

「違う。……リネット、君が綺麗なんだ」

ルカは一歩歩み寄り、風に揺れる彼女の髪をそっと掬い上げました。

「えっ……」

唐突で、けれど熱の籠もった真っ直ぐな言葉に、リネットの動きが止まります。風に揺れる花々の音だけが響く中、ルカは今にも消えてしまいそうな、自信の無い声で問いかけました。

「リネット……僕は君にとって、まだただの『最高のお隣さん』なのかな?」

その声には、一国の王子としての尊大さも、全属性を操る魔法使いとしての余裕もありませんでした。ただ、一人の不器用な青年が、大好きな女性に選ばれたいと願う切実な響き。

(ああ、この人は……)

リネットはハッとしました。自分が照れ隠しで口にした「お隣さん」という言葉が、どれほど彼を悩ませ、葛藤させていたのか。自信満々に見えて、本当は私の反応ひとつに一喜一憂している。

その不器用で、愛おしすぎる彼の本心に触れた瞬間、リネットの胸の奥から熱い感情が込み上げてきました。

「ルカ、あのね……」

気づけば、リネットは自分から一歩踏み出し、ルカの体に腕を回していました。

「……リ、リネット!?」

驚いて固まるルカを、リネットは力いっぱい抱きしめます。

「ごめんね。変な言い方して。……あんたが『ただのお隣さん』なわけないじゃない。そんな人に、毎日料理を作ってもらったり、こんな素敵な場所に連れてきてもらったりしないわよ」

リネットはルカの胸に顔を埋めたまま、消え入りそうな声で、けれど確かな熱を持って続けました。

「……私の、一番大切な人よ。ルカ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...