猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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陛下の優しさ

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お茶会が一段落し、少しずつ城の空気に慣れてきたリネットを見て、ルカは「今だ」とばかりに立ち上がりました。

「父上、そろそろ約束の場所へリネットを連れて行きたいのですが。……ここは僕たち二人だけで行かせてくださいね」

ルカは、リネットを自分の「聖域」である中庭へ案内し、そこで改めて二人きりの時間を過ごそうと考えていました。しかし、それを聞いた国王陛下の目が、獲物を見つけた猛獣のようにギラリと輝きます。

「何!? 中庭へ行くのか! それは名案だ! リネット殿、あそこは私が自ら手入れを……(嘘ですが)命じている自慢の庭でな! よし、この私が直々に案内して進ぜよう!」

「えっ、父上!? 二人だけでって言ったじゃないですか!」

ルカの必死の抗議も、今のハイテンションな国王には届きません。 

「何を言うか! この広大な城で迷子にでもなったら大変ではないか。さあリネット殿、こちらだ! 遠慮はいらん、私の腕に掴まるがよい!」

「あ、あの……ありがとうございます、陛下……」

困惑しながらも、リネットは差し出された逞しい王の腕に、恐る恐る手を添えました。
結局、ルカの「二人きりのロマンチックな散歩」という野望は、鼻息を荒くして先頭を歩く国王陛下によって、脆くも崩れ去ったのです。

後ろでは、ルカが「ああもう、父上ったら……!」と地団駄を踏み、ユーリが「まあ、父上のあんなに楽しそうな顔、数年ぶりに見ましたよ。諦めてください、兄上」と肩を叩いています。
セバスだけが、涼しい顔でその一行を眺めながら、こっそりと魔力で中庭の噴水の噴き上げを「歓迎モード」に調整するのでした。

国王陛下にエスコートされ、たどり着いた中庭。

そこには、王宮の洗練された庭園風景を背景に、あまりにも見覚えのある「温かな景色」が佇んでいました。

「まあ! なんてこと……お店がそのまま……っ!」

リネットの水色の瞳が、一瞬で潤みました。
そこにあったのは、昨日までリネットが土をいじり、花に水をやっていたあの「花屋」そのものでした。使い込まれた看板、少し建て付けの悪い扉、そしてリネットが大切に育てていた花瓶の配置まで、一寸の狂いもなく再現されていたのです。

実はルカが、城内の魔導師たちを「強制連行」に近い形でかき集め、全属性の魔力と空間移転の高度な魔法を組み合わせて、一夜にして店舗をまるごと「お引越し」させてしまったのでした。

「リネット、驚かせてごめん。でも、ここなら君も寂しくないだろ? 君の『日常』ごと、僕が守りたかったんだ」

ルカが背後から優しく声をかけます。
そんな二人を少し離れた場所から眺めていた国王陛下。彼はふと、ルカたちには聞こえないような、けれどもしみじみとした小声でリネットにだけ聞こえるように囁きました。

「……お嬢さん。ルカは、君に出会ってから人が変わった……いや、本来の、優しくて真っ直ぐなルカに戻ったよ。最愛の母を亡くしてから、あやつはどこか心を閉ざしておったからな」

陛下の声には、王としてではなく、一人の父親としての深い愛情がこもっていました。 

「これも、君のおかげであろう。ワシは心から感謝しておるのだ。……さっきの賑やかな態度も、あやつの選んだ人が君で良かったという、ワシの嘘偽りない気持ちなのだよ」

リネットは驚いて陛下を見上げました。
豪快に笑う王の横顔は、少しだけ照れくさそうで、それでいてルカを見つめる目はどこまでも温かなものでした。

「陛下……。ありがとうございます。私、精一杯……このお店と一緒に、ルカの隣で頑張ります」

リネットが涙を拭いながら微笑むと、それを見ていたルカが「父上! また僕に内緒で何か言ったでしょう!」と割って入ります。

「はっはっは! 何も言っておらんわい! それよりリネット殿、今日からはここが君の新しい『城』だ。好きなだけ花を咲かせなさい!」

空には、二人の門出を祝うような青空が広がり、リネットの新しい生活が、最高に賑やかな家族と共に幕を開けました。
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