猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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「コホン……例の花屋の娘か?」

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巨大な扉が重々しい音を立てて開くと、そこには高い玉座に座り、深く王冠を被った国王陛下の姿がありました。

「コホン……ルカ、その方が例の花屋の娘か?」

低く、地に響くような王の威厳に満ちた声。その一言で、玉座の間の空気は一瞬にして氷点下まで凍りついたかのように張り詰めました。リネットは心臓が口から飛び出しそうになり、思わず足がすくみます。
しかし、次の瞬間。 

「……というのは冗談だ! よく来た、リネット殿!」

王は先ほどまでの厳格な仮面をかなぐり捨て、顔いっぱいにシワを寄せて「にこーっ!」と豪快に破顔しました。

「さあ、皆の者! 挨拶を!」

セバスの合図で、リネットは昨日必死に練習したカーテシーを、ルカとユーリは騎士の礼を完璧な所作で行います。リネットは震える足でなんとか45度の角度を保ち、優雅に「面を上げ」ました。
ところが、王はそれを見るやいなや、玉座から立ち上がらんばかりの勢いで身を乗り出しました。

「ああ、もうよいよい! そんな堅苦しいもんは要らぬ! 儀礼など後回しだ、早よここへ座りなさい! さあルカ、早く紹介してくれ!」

王はまるで遠足を楽しみにしていた子供のようにルンルンとした様子で、リネットを手招きしています。

「父上、落ち着いてください。リネットが怖がっています。……リネット、僕の父だ。見た目は少し……いや、かなり暑苦しいけど、悪い人じゃないだろ?」 

「ちょっと、ルカ! 陛下に対してなんてことを……」

リネットが慌てて嗜めますが、王は全く気にする様子もなく、むしろ身を乗り出してリネットの水色の瞳をキラキラと輝かせながら見つめています。

「いやあ、ルカから話は聞いておったが、実物は百倍増しで可愛らしいではないか! ユーリ、お前もそう思うだろう?」

「ええ、父上。兄上には本当にもったいない方ですね」

ユーリが隣でクスクスと笑い、セバスは「……陛下、お茶の用意が台無しでございます。まずは着席を」と、静かに王を嗜めるのでした。

王はリネットを椅子へ促すと、自ら最高級の茶葉をポットに投げ入れんばかりの勢いでお茶会の準備を始めました。
実は陛下、ルカから話を聞くやいなや、いてもたってもいられず極秘でリネットの素行調査を命じていたのです(もちろん、ルカとリネットには一生内緒です)。

路地裏の猫に余ったおやつをあげる姿、枯れかけた花に一生懸命魔法をかける姿、そして客一人ひとりに誠実に向き合う姿……。報告書を読んだ陛下は、その日のうちに「王妃はこの娘でなくては務まらん!」と拳を握りしめて即決していたのでした。
そんな裏事情を知る由もないリネットが、緊張で震えながら差し出されたお茶を一口啜るやいなや、王の弾丸トークが炸裂します。

「して、リネット殿! 引っ越しはいつにする!? 明日か? いや、今日でも構わんぞ! 部屋はルカの隣を既に空けさせてある!」

「へ……? あ、あの、お店の片付けもありますし……」

「そんなものは兵を出して一瞬で終わらせる! それより結婚式だ! 国中の花を集めさせよう。来月か? いや、再来週なら準備が間に合うか!?」

「さ、再来週……っ!?」

リネットは思わずお茶を吹き出しそうになり、その水色の瞳を白黒させています。

「父上、落ち着けと言っているでしょう! リネットが困っています! 第一、彼女はまだ『お花屋さん』を続けたいと言っているんです。僕の計画では、中庭に店を移して……」

「おお、中庭か! よいぞ、いっそ王宮を花壇で埋め尽くしても構わん! ユーリ、すぐに造園師を呼べ!」

「はいはい、今すぐに。……兄上、父上の暴走がリネット様に移っていますよ。セバス、早く止めてください」

ユーリが呆れて肩をすくめると、セバスが静かに王の前に立ちふさがりました。

「陛下。……まずはリネット殿に、陛下自慢の茶菓子の味を楽しんでいただくのが先決かと存じます。質問責めは、その喉にクッキーが詰まってからになさいませ」

「……む。そうであったな、あまりに嬉しくてつい……」

セバスの毒のある一言で、ようやく王は椅子に深く座り直しましたが、その鼻息は荒いままです。

リネットは、自分を歓迎しすぎる「新しい家族」の熱量に圧倒されつつも、隣で必死に自分を庇おうとするルカの手の温もりに、少しずつ「ここも案外、悪くない場所かもしれない」と思い始めるのでした。
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