猫被り王子が出会う、本気の恋!

花垣 雷

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ルカの弟

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ガタゴトと揺れる馬車の中。

「……あ。ルカ、誰かいるわよ。すごく真面目そうな……」 

「ああ、あれが僕の弟だよ」

馬車が止まり、ルカが先に降りてリネットの手を引きます。
そこに駆け寄ってきたのは、ルカと同じ金髪ながらも、より短く整えられた髪に、知的な眼鏡をかけた15歳の少年でした。

「兄上。……お戻りをお待ちしておりました。わざわざ『お隣さん』になるために家出し、公務をセバスに丸投げして、挙げ句の果てに『王子を辞める』などという怪文書を鳩で送りつけてくるとは……。本当に、兄上の頭の中には一年中お花が咲いているのですか?」

「おいおい、ユーリ。初対面の義姉さんの前で兄の威厳を削ぐのはやめてくれよ。……リネット、僕の弟のユーリだ。見ての通り、僕とは違って少し堅物だけど、根はいい奴なんだ」

ユーリと呼ばれた少年は、ルカをジロリと一瞥した後、リネットに向き直ると、完璧な所作で深く一礼しました。 

「初めまして、リネット様。兄が多大なるご迷惑をおかけしているようで、王家を代表してお詫び申し上げます。……しかし、なるほど」

ユーリはスッと顔を上げると、少しだけ頬を緩めて、冗談めかした口調で付け加えました。

「これほど美しい方なら、兄上が国を放り出してまで隣に住みたがったのも……、まあ、15%くらいは理解できます。……あとの85%は、ただの兄上の暴走ですが」
「ユーリ! お前、僕がどれだけ必死に口説いたと思ってるんだ!」

「はいはい、わかっております。……さあ、父上が今か今かとお待ちです。兄上の『王子引退計画』という名のわがままを、父上の拳骨が飛ぶ前にリネット様が止めてくださることを切に願っておりますよ?」

ユーリはリネットを気遣うように、少しだけ悪戯っぽく微笑みました。その笑顔には、ルカと同じどこか放っておけない愛嬌が混じっています。 

「……よろしくね、ユーリ君。ルカの弟さんなら、きっと苦労してるわよね」

「わかってくださいますか、リネット様! 兄上の全属性魔法が、まさか『お隣さんへの朝食作り』に使われていると聞いた時は顎が外れるかと思いましたよ!」

「おいユーリ、余計なことを言うな!」

わちゃわちゃと騒がしい兄弟のやり取りに、リネットの緊張も少しだけ和らいだようでした。

ユーリを先頭に、重厚な絨毯が敷かれた長い廊下を進みます。
鎧に身を包んだ兵士たちが整列し、リネットが再び緊張で肩を強張らせたその時、前を歩くユーリがふいっと速度を落とし、彼女の耳元でいたずらっぽく囁きました。

「リネット様、そんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。……実は父上、昨夜からリネット様のために最高級の茶葉をご自身で選び直して、ずっとソワソワして待っていたんですから」 

「えっ……? 陛下が、私のために……?」

意外すぎる裏話に、リネットは思わず丸い水色の瞳をさらに大きく見開きました。あの厳格そうな国王が、お茶の準備をしてソワソワしている姿なんて想像もつきません。
すると、一歩後ろを歩いていたセバスが、眼鏡の端を指でクイッと押し上げながら、ため息混じりに口を開きました。 

「……やれやれ。私でも、陛下の威厳のために言おうか言うまいか迷っていたものを。ユーリ様も人が悪い」

「いいじゃないかセバス。これから家族になるんだから、父上の『可愛いところ』も知っておいてもらわないと」

「お前ら、僕の聞こえないところで何を話してるんだ?」

蚊帳の外に置かれたルカが不思議そうに首を傾げますが、ユーリは知らんぷりで「さあ、着きましたよ」と巨大な扉を指し示しました。
扉の向こうからは、重々しい、けれどどこか落ち着かない様子の「ゴホン!」という大きな咳払いが聞こえてきます。 

リネットはユーリの教えてくれた秘密を思い出し、少しだけ勇気を出して、ルカの腕をギュッと掴みました。

「……うふふ。陛下、本当はお優しい方なのかもしれないわね」

「そうだろう? 僕の父上なんだから、絶対リネットのことを気に入るよ!」

能天気なルカの言葉と、ユーリの秘密、そしてセバスの呆れ顔。
最高に賑やかな面々に囲まれて、リネットはいよいよ、この国の頂点に立つ人物が待つ「玉座の間」へと足を踏み入れました。
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