聖域の森へ忍び寄る足音

花垣 雷

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第七章:繰り返される「来週」と、溶けゆく境界

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「……騎士様、もういらっしゃらないでください」

そう告げたセレーナの拒絶は、静かですが、何よりも重い「一線」でした。
アリオスはその言葉の真意——彼女が抱える計り知れない孤独と、自分を遠ざけようとする懸命な自制——を、騎士らしい鋭い洞察力で察しました。しかし、彼はそこで引き下がるような男ではありませんでした。

アリオスはわざとらしく「参ったな」と頭をかき、少年のような屈託のない笑みを浮かべて見せました。

「なるほど、確かに。僕の『主』は、一人でも立派に生きていける素敵な女性だ。……でも困ったな、僕は君と『友達』になりたいと思ってしまったんだ。こればかりは騎士の任務よりも譲れない」

セレーナが困惑して口を閉ざす間に、アリオスは軽やかに荷物をまとめ、扉へと向かいました。

「今日のところは帰るよ、主! でも安心して、僕は道に迷うのが得意だからね。……また来週、迷い込んでしまうかもしれないけれど、その時はまた、美味しいお茶を淹れてくれると嬉しいな」

嵐のように現れ、風のように去っていく。
「また来週」という言葉だけを、セレーナの胸に残して。
それからというもの、アリオスの宣言は嘘になりませんでした。

一週間後も、そのまた一週間後も。霧が深い日も、雨が降りしきる日も。「また迷子になっちゃったよ」という、到底信じられないようなセリフと共に、彼はあのノック音を響かせました。

彼は決して、セレーナの過去を無理に暴こうとはしませんでした。ただ、隣に座って、街で見つけた珍しい木の実の話をしたり、近衛騎士の訓練で失敗した笑い話をしたり、時には何も言わず、彼女が淹れたお茶を「美味しいね」と慈しむように飲むだけ。

セレーナは当初、彼を追い返せなかった自分を責めていました。
けれど、いつしか月曜日が過ぎ、火曜日が来るたびに、彼女は無意識に家の掃除を丁寧に済ませ、お気に入りの茶葉を揃えるようになっていました。
足音が聞こえるずっと前から、風が運んでくる彼の匂いで、彼が来たことがわかる。

「主、ただいま!」

という明るい声に、胸の奥がトクンと跳ねる。

「……また、いらしたのですか」

呆れたような声を出しながらも、セレーナの唇の端には、かつては存在しなかった柔らかな弧が描かれていました。
目元のレースの奥で、決して人には見せられないはずの金色の瞳が、彼という光を求めて優しく揺らぎ始めていたのです。

アリオスのまっすぐな優しさと、彼が届けてくれる世界の断片。セレーナは、自分が守った平和を享受する彼の隣で、初めて「守る側」ではなく、一人の「守られたい少女」として、彼に惹かれていく自分を認め始めていました。
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